Week 2:Resilience

Resilience(レジリエンス)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


SDGsにさまざまな形で頻繁に登場する言葉が、resilience(レジリエンス)である。

17のSDGsのうち、6つの目標でこの言葉が使われている。


目標1では、貧困層のレジリエンス(回復力)について。

目標2では、レジリエントな農業の実践について。

目標9では、持続可能で回復力のあるインフラについて言及している。

目標11は、災害に強い都市と居住地、弾力性のある建物。

目標13は、気候変動に関連する災害に対する回復力と適応力に焦点をあてている。

目標14は、海洋・沿岸生態系の回復力の強化について。


レジリエンスとは何か、どうすればそれを育むことができるのか、またそれが実際に持続可能な開発とどう関係しているのかを考える必要がある。


持続可能な開発の文脈では、レジリエンスという言葉は「急激な変化や長期的な変化から回復する能力」という意味で使われている。


レジリエンス(回復力)を向上させる一般的な戦略として、多様性の確保と維持、連結性の管理などが挙げられる。

システム内に異なるタイプのメンバー、つまり多様性を持たせることで、レジリエンスを生み出すことができる。


また、学習と実験を促進することでも、レジリエンスを高めることができる。

自分たちが置かれている状況や、それに対処するための選択肢をより多く理解すればするほど、目の前の状況に対処できる可能性は高くなる。

SDGsの目標4にある「質の高い教育の推進」は、実は社会システム全般のレジリエンスを促進するためのツールであると考えることができる。


レジリエンスは、災害リスク軽減や気候変動への適応など、専門的なサブ分野ですでに適用されている概念だ。

レジリエンスという考え方は、突然の変化や急激な変化に直面する社会にとって、特に有効なものとなっている。




専門家インタビュー

Christian Cedervall Lauta

(コペンハーゲン大学法学部の准教授、コペンハーゲン災害研究センター(COPE)を率いている)


Q:レジリエンスについてどのように考えるか?


A:災害研究において、これまで社会の脆弱性に着目してきた時代から、15年前に大きな変化があった。

レジリエンスは「立ち直る力」である。

災害研究において、大きな外圧やショックを受けた後、社会が構造的、地域的、文化的に再起する能力ということだ。

レジリエンスというのはさまざまな意味や解釈があり、そのうち二つが最も重要である。

1つ目は、レジリエンスは現状復帰の能力があるということ。これはレリジエンスに対する保守的な考え方だ。

2つ目は、外圧やショックに耐えるだけでなく、コミュニティの外からやってくる将来のショックに適応する能力があること。回復力だけでなく適応力。



Q:レジリエンスは持続可能性に反するのか?


A:ここ数年、レジリエンスに対する批判が盛んだ。なぜならレリジエンスは、私たちがどのような社会に立ち直りたいのか、という中心的な問いを忘れさせてしまうからだ。

むしろ、「どのように社会を変革して、長期的に悲惨な事態を防ぎ、持続可能な社会を実現するのか」という真の問いを投げかけることになる。

レジリエンスをより適応的なもの、より複雑なもの、より持続可能性の課題と結びついたものとして注目している研究者もいる。

アメリカではハリケーン「サンディ」の後、レジリエンスの大勝利を収めた。

アメリカの東海岸がハリケーンにうまく対処できたのは、レジリエンス(回復力)があったからだが、その後、FEMA(連邦緊急事態管理庁)への資金提供を削減する論拠として利用されてしまった

つまり、新自由主義的な政策に資金を提供するために使われた。

「いいですか、あなた方は今、とても回復力があります。もう国家は必要ない。私たちに何かしてもらう必要はないのです」。

ここ数年の間に、レジリエンスの概念が「誰が災害に対応すべきか」という考え方の大改革に利用されてきた。

レジリエンスの概念を悪用すれば、単に立ち直るだけではなく、将来こうした事態に対処するための責任を、制度から個人に移すことさえありえる。



Q:ハリケーン「サンディ」と「カトリーナ」では同じ国の出来事にもかかわらず、その対応には大きな違いがあった。

このような違いはどのような要因によってもたらされるのか?


A:ハリケーン「カトリーナ」は、国家の脆弱性と失敗を示す恐ろしい例であり、米国の公共システム全体の改革につながった。

カトリーナは現代を象徴する災害であり、国家は当面予測されるような衝撃に対処することができないことを教えてくれた。

災害研究の観点から言うと、災害そのものが自然のプロセスではなく、社会的なプロセスであることは明らかだ。

災害の結果を見てみると、ハリケーン「カトリーナ」の原因は、アメリカ南部に上陸した最悪の熱帯ハリケーンのせいではない。

堤防の建設がひどかったから、管理がひどかったから、アメリカ南部の人種問題があったから、そのコミュニティの一部として腐敗や不平等があったから。

つまり、サンディとカトリーナの大きな違いの一つは、被害を受けた地域である。

これを世界的なレベルにまで拡大すると、どのようなハザードプロファイルであっても、災害は常に地球上で最も脆弱な場所を襲うということが明らかになる。

そのため、長年にわたり、災害研究は、災害に対処するための強固なコミュニティや制度の構築に重点を置いて行われてきた。

そして、こうしたコミュニティを構築する際に、ある程度まではレジリエンスという考え方が非常に有効なのだ。

地元の人々が気候を理解し、自分たちの置かれた状況を理解する能力を強化する必要がある。

しかし、それは問題の一部しか解決していない。なぜなら、もともと自然災害に対して脆弱であった根本的な社会的不平等を変えることができないからである。



Q:SDGsではさまざまな文脈で、レジリエントな建物、レジリエントな生態系、レジリエントな社会と何度も言及している。レジリエンスという言葉は使い古されているのか?


A:レジリエンスはポジティブな流行語であり、災害後に起こった悪いこと、不正行為、災害特有の社会的不公正に焦点を当てるのではなく、笑顔をもたらし、良いストーリーに焦点を当てさせる効果がある。

レリジエンスの概念を多用することに対する批判も出てきている。

SDGsの観点から見たレジリエンスのポジティブな点は、気候変動問題、災害問題、そして持続可能性問題の両方を結びつけていることだ。

つまり、レジリエンスは接着剤なのだ。

学術的な「接着剤」であると同時に、このような世界的な体制、世界的な合意を結びつける「接着剤」でもある。

2015年、我々はパリで協定を結んだ。仙台フレームワークと呼ばれる、災害リスク軽減のための15年間の世界戦略に関する協定も結ばれた。

私の考えでは、これらのことはすべて、一つの大きな世界的な枠組み、一つの世界的な戦略に統合されるべきであり、我々はそれを追求すべき。



Q:SDGsは、これらの異なる条約や協定を統合するための枠組みなのか?


A:災害に関する組織は仙台フレームワークに焦点を合わせている。SDGsは、次の15年後には、このような一貫した世界戦略を始めるきっかけとなる可能性がある。




(Katherine Richardson教授によるまとめ)


SDGsの多くは、社会やインフラのレジリエンス(回復力)を高めることに焦点を当てている。

クリスチャン准教授の意見では、レジリエンスはそれ自体が目標ではなく、むしろレジリエンスは人間の福祉を維持または向上させるための有用なツールを提供することができる。

アジェンダ2030やSDGsで示された社会的ビジョンを達成するためには、食糧生産やエネルギー供給など、人類の最も中心的な活動において大きな変化が必要だ。

レジリエンスとは、衝撃や変化から回復する力、立ち直る力を意味するため、レジリエンス単体では、必ずしも持続可能な発展を促進するものではない。

SDGsが持続可能な開発に大きく貢献するのは、我々が目指すべき方向性を示してくれることだ。

最終的なゴールを知ることは、現在のスタート地点がゴールに到達することに適合しているかどうかを評価するための前提条件となります。

SDGsで示された未来社会のビジョンは、持続可能な発展のために、どのような現在のシステムを抜本的に変革すればよいのかを評価するための有効な基準点となるものである。



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【メモ】


ハリケーン「カトリーナ」

2005年8月下旬にニューオリンズ市とその周辺地域を中心に、死者1800人以上、被害額1250億ドルを記録した、カテゴリー5の大西洋台風。

ニューオーリンズ市周辺の洪水防止システム(堤防)の致命的な工学的欠陥の結果として引き起こされた洪水は、人命損失の大部分をもたらした。

最終的には市の80%が数週間にわたって浸水した。

ハリケーン上陸前に避難していなかった何万人もの人々は、食料、避難所、その他の基本的な必需品をほとんど手に入れることができなかった。

後に、数十年前にこの地域の堤防を設計し建設した米国陸軍工兵隊が、洪水制御システムの故障に責任があると結論付けられたが、連邦裁判所は工兵隊の責任は問わないとの判決を下した。


Week 2:ディスカッションプロンプト

Week2のディスカッションは「農業と惑星限界」がテーマ。


ディスカッションプロンプト

Can you think of ways to transform the agricultural sector in your country, to help reduce the pressures on Earth’s critical systems – i.e. freshwater use, climate change, biosphere integrity, biogeochemical flows, land-system change? 

(淡水の利用、気候変動、生物圏の保全、生物地球化学の流れ、土地システムの変化など、地球の重要なシステムに対する圧力を軽減するために、あなたの国の農業部門を変革する方法を考えることができるか?)


資料としてAgriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) が提示されている。



わたしの意見としては、次のような内容を書き込みました。


・日本には小規模な稲作農家が多い。

・日本の人口は都市部に集中しており、逆に農村部では人口の減少や高齢化が進んでいる。

・農業の人手不足は深刻な問題である。

・少ない農業従事者で効率的に栽培・作付けを行うために、自動走行トラクターなどの農業用ロボットの開発が進められている。

・e-agricultureの導入により、遠隔地から効率的な水管理を行うことが可能になる。

・農業用ドローンとe-agricultureを組み合わせれば、農薬や肥料の使いすぎを防ぐことができるのではないではないか。

・例えば、稲の生育状況をセンサーで計測し、最適な肥料量を瞬時に算出できれば、環境負荷の低減と収量アップを同時に実現できるだろう。



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【メモ】


e-agriculture、日本では農林水産省が「スマート農業」という呼び方で、農業分野における技術革新を推進しています。

「スマート農業の展開について」(農林水産省、2020)

わたしの意見は、こちらの資料を参考して書いたものです。


これを読んで驚きだったのは、ヤンマーがすでに自動走行トラクターを開発、2018年から販売しているのです!

遠隔操作で無人自動走行するロボットトラクターを使って、耕うん整地を自動化することで、限られた人員でも農地の大規模化が可能になります。


無人草刈りロボットというのも開発されているそうで、2020年以降実用化の見通しだとか。


作物の生長に応じた最適なかん水と施肥を自動供給するシステムは、肥料の過剰による環境汚染を防ぐためにも、ぜひ実用化してほしい技術ですね。


病害虫の発生状況を人工知能を活用した画像診断等をし、被害リスクに応じた対応策を提供するシステムは、農薬の過剰使用による環境汚染の防止に役立ちますよね。

新規就農者であっても、病害虫リスクを最小限に抑えることができるはずです。

ビッグデータを活用することで、熟練農業者の知識や判断を継承することが容易になるのではないか、と期待されますね。


日本の農業は、とにかく高齢化と担い手不足が喫緊の課題なので、農業分野におけるICTやロボット技術の導入は、今後ますます注目されると思います。


キリスト教系新宗教
安倍元首相暗殺事件を契機として、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に注目が集まっている。


アメリカのテレビ局A&Eが2018年に制作したドキュメンタリー・シリーズ『カルト集団と過激な信仰(Cults and Extreme Belief)』の第5話「世界平和統一聖殿(World Peace and Unification Sanctuary)」で、統一教会の分派である武装カルトが取り上げられている。


この番組によれば、統一教会の教祖サン・ミョン・ムーン(文鮮明)の死後、現在の統一教会は三派に分裂している。

①サン・ミョン・ムーンの妻ハク・チャ・ハン:教団組織を統率

②サン・ミョン・ムーンの三男プレストン・ムーン:教団の巨額資金を手中に

③サン・ミョン・ムーンの七男ショーン・ムーン:サンクチュアリ教会を設立


ペンシルベニア州ニューファンドランドのサンクチュアリ教会は、信徒にAR-15ライフルを所有し、武装することを推奨している。

2018年2月28日、サンクチュアリ教会で、儀式の参加者全員がAR-15を捧げ筒する合同結婚式が行われた。

サンクチュアリ教会では「平和軍・平和警察」と称して、若い信徒たちに軍事訓練を受けさせている。迷彩服を着て森の中を走って銃を撃ち、効率的に人を殺すためのナイフ戦闘術を教えている。

ショーン・ムーンは、『ヨハネ黙示録』に記された「鉄の杖」とはAR-15ライフルのことだと演説する。


当たり前だが、黙示録が書かれた古代ローマ帝国時代に、銃は存在しない。



キリスト教を宗教的源泉とする新宗教と言えば、モルモン教、エホバの証人、シェーカーなどが有名だ。

統一教会とその過激な分派であるサンクチュアリ教会も、キリスト教系新宗教に分類される。


ローマ・カトリック教会、正教会、プロテスタント教会などは伝統的なキリスト教派に分類される。

プロテスタントはルーテル教会、聖公会、バプテスト教会、長老派教会、改革派教会、クエーカーなどがある。

ルーテル教会はその名の通りルター、長老派はカルヴァン、改革派はツヴィングリを指導者とする。


日本では、プロテスタント諸派の合同教会として日本基督教団がある。

日中戦争中、政府の宗教統制に基づいてプロテスタント33教派が合同で、1941年に日本基督教団を設立した。

戦後は教団に残る教派と離脱する教派に分かれた。


伝統的な教派と新宗教は大きな違いがある。

新宗教では、新しい宗教的な教えを説く人物(教祖)を神の啓示を受けた預言者とみなす。

これに当たるのが、モルモン教だ。

ジョセフ・スミスが1830年に設立したモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)は、神の啓示を受けた預言者を自称し、教典である『モルモン書』を授かったと主張した。


新宗教では、教祖をキリストの再臨、超越的存在、神そのものであると称する教団もある。

統一教会はこれに当たる。

番組の中で、サン・ミョン・ムーンの息子で、ショーン・ムーンの異母兄サミュエル・パクは「父は人類のメシアであると公言していた」と取材に答えている。

ショーン・ムーンは父親を「キリストの再臨」であると主張し、「王の中の王」の息子で後継者である自分自身は「第二の王」であると自称している。


番組の中で、元統一教会信者のテディ・ホースが「サンクチュアリ教会はキリストを語るが、キリスト教の組織ではない」と語っていたのは、こういう理由だ。


具体的に言えば、現在のカトリックの指導者であるフランシスコ教皇は、自らを「メシア」だとか「キリストの再臨」と公言したことは一度もないし、今後もないだろう。

ルターもカルヴァンもツヴィングリも同様で、彼ら自身が信仰対象の超越的存在、というわけではない。


教皇はもともと、イエスの弟子ペテロの後継者という位置づけである。生まれつきの血統による世襲制ではない。


日本の天皇位が世襲制なのは、神の子孫と称する血筋が代々引き継がれるべき神聖なものとして位置付けられ、信仰の柱だからだ。

戦後、いわゆる「人間宣言」で昭和天皇は自分が現人神であることを否定したが、そもそも昭和天皇が「自分は神である」と公言したことはない。

しかし、この詔書は天皇が神の子孫であることを否定しなかったし、歴代天皇を神として崇める祭祀も廃止されなかった。


「神の子孫」と「弟子の後継者」では、全く意味が異なる。

そのため、天皇と教皇は立場が似ているようで、全く違う存在だ。


新宗教に話を戻すと、統一教会の創始者サン・ミョン・ムーンは、亡くなる前にショーン・ムーンを後継者として指名し、2008年にショーンの戴冠式を執り行い、力を継承する儀式をした。

統一教会は、教祖の神性を血によって継承する世襲制の教団と言える。

自らを「イエスの再臨」であり「メシア」であると公言したサン・ミョン・ムーンの立場は、宗教分類としては天皇に近い存在であると言えるかもしれない。


ジョセフ・スミスが亡くなってから170年以上経つが、教祖の死後もモルモン教の勢力は衰えず、世界中に信徒は増え続けている。

500年後もすれば、伝統的な教派に位置づけられているにちがいない。

サン・ミョン・ムーンは2012年に亡くなったばかりだ。このままモルモン教のように、勢力を維持しつづけるのだろうか。


2022/07/18 12:33

Week 2:学習教材 要点⑩
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


結論

9つの惑星限界(PB)のうち、5つは高リスクまたはリスク増加のゾーンにあり、そのうち4つの主要な推進力は農業である。残りの1つについても農業は重要な推進要因となっている。

現在は安全圏にあるPBでも、農業は重要な推進要因となっている。

農業がPBに与える影響を軽減するためには、生産のあらゆる側面に数多くの変更を加え、景観レベルの管理にもっと注意を払い、より広範な食糧システムのあらゆる側面に変更を加えて、システムを根本的に変革する以外にないだろう(Beddington et al.2012, Ingram and Porter 2015)。

これは、農業生産から加工、物流、小売、消費に至るまで、すべての食品システム活動がPBに影響を与えるためである(Ingram 2011)。


人類は、世界で10億人が十分なカロリーを摂取できず(FAO 2014)、20億人以上が十分な栄養素を欠いているという問題(WHO and FAO 2014)に対処しなければならないが、同時に世界の別の地域では20億人以上がカロリーを過剰に摂取している事実がある(Ng 2014)。

世界の人口は2050年までに約90億人に達すると予想され、平均的な富の増加によって全体的により多くの食品、特に肉類を消費するようになり、食品の消費パターンが急速に変化している(Kearney 2010)。

PBに関して特に懸念されるのは、過剰消費につながる食生活の変化である。

この不足と過剰消費により、栄養失調のいわゆる「三重苦」が増大しており(IFPRI 2015)、これに対処することが急務となっている。


需要の管理をしながら、より多くの土地を耕作地にする必要がある。

しかし、これは惑星限界(PBs)への影響を軽減するために、慎重に選択・管理する必要がある。

環境、社会、経済的な利益を目的とした土地管理戦略の改善も必要である。

Foley ら(2005)は次のような例を挙げている。

(i) 単位面積、単位肥料投入量、単位水消費量あたりの農業生産量を増やすこと 

(ii) 保水能力、栄養利用可能性、炭素隔離の鍵となる農地の土壌有機物を維持し増やすこと 

(iii) 食料と繊維を提供しながら絶滅危惧種の生息地を維持するアグロフォレストリーの実践 

(iv) 地域の生物多様性と授粉や害虫駆除などの関連生態系サービスを維持すること

例えば、酸性水の流出を防ぐための沿岸植生の利用、マングローブの回復、水辺の緩衝材の確立と維持など、景観レベルの解決策を模索する必要がある。


より少ない燐酸塩の使用に関する選択肢には、糞尿、食品残渣からの再生燐酸塩の使用を増やすことが含まれる。

貯蔵中または市販後の食品廃棄物を減らし、生産量を減らすことが急務である。

肉と乳製品の消費量を減らすことが重要であろう。

メタン排出量の少ない家畜の飼育や、食品加工や貯蔵といったポストファームゲートフードチェーン活動の効率を向上させるための作物の品質改良が含まれる。


まとめると、全体としてよりバランスのとれた消費-生産アプローチが必要である。

全体論的アプローチは、ビジネス・アズ・ユージャルからより持続可能な食糧システムへの移行を円滑にするのに役立つ機会も生み出すはずである(Ingram 2016)。

農業と食料システム全体の改善は、地球の持続可能な発展に向けた重要なステップである。




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【メモ】

“triple burden” of malnutrition 

栄養失調の「三重苦」とは?

(オックスフォード大学環境変化研究所のフードシステムプログラムのリーダー、John Ingramによる解説を参照)


国連食糧農業機関(FAO)による定義では、食料安全保障とは「十分なカロリーと十分な栄養素の両方を利用できること」を意味する。

「十分」とは適切な量を意味する。つまり、少なすぎず多すぎないことを意味する。

1996年の世界食糧サミットで最初に起草された当時は、少なすぎるものだけに重点が置かれていた。

しかし現在では、過剰な消費が世界の大きな課題となっている。


世界の食料安全保障を達成するためには、食料システムに対する圧力を考慮する必要がある。

栄養失調の「三重苦」と呼ばれているものは、次のようなものである。

①人口増加

②食生活の変化

③気候変動や他の環境問題の影響による食料需要の高まり

食料生産を増やすだけでは、三重の課題に対処することはできない。


これまでの開発プログラムはカロリーに重点を置いており、栄養素が不足していることを考慮していない。

世界の栄養失調は、利用可能な食料の不足よりも、カロリーと栄養素の消費パターンに密接に関連している。

手ごろな価格で高エネルギー食品が入手できるようになり、西洋型の食事をしたいという願望が相まって、世界の新興中産階級には食事関連疾患が流行となっている。


肥満は、アメリカなどの先進国では一般的な病気だが、所得が増加し、食生活が変化するにつれて、発展途上国でも肥満率が上昇している。

例えば、中国では食生活の変化によって、2050年までにタンパク質(鶏肉、豚肉、牛肉)輸入量が3500%急増すると予測されている。


過剰消費であると同時に栄養失調である問題に対処するためには、栄養失調の根本原因を見つけるために、消費パターンの変化に焦点をあてる必要がある。

政府には、税金や補助金などを通じて、企業が栄養を改善するためのインセンティブを生み出すことが求められている。

高カロリーかつ低栄養の食事の害を人々に教える教育も必要とされている。


Week 2:学習教材 要点⑨

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


新規物質の導入

Rockströmら(2009a)は、chemical pollution(化学汚染)からNovel entities(新規物質)のPBを設定した。

Steffenら(2015)は、新規化学物質だけでなく、他の新しい人工材料または人工生物、transgenic organisms(トランスジェニック生物、遺伝子組換え生物)を含むように定義を広げた。


人為的な化学物質が生態系に与える影響については、多くの研究で説明されており(Milton 2011, Pease 2011)、農業が強く関与している。

多くの農薬は、農業と水産養殖の両方で広く使用されている。農業用殺虫剤が淡水に与える影響についての調査によれば、世界の50%の淡水から検出された殺虫剤の濃度が規制の閾値を超えている(Stehle and Schulz 2015)。


農業における遺伝子組み換え作物の使用に関する懸念としては、アレルゲン性、食品の安全性の欠如、生物多様性の完全性を脅かすトランスジーンの流れ、望ましくない形質の雑草への拡散などが想定されているが、今のところ証明されていないため、論争がある(Trumbo and Powell 2016)。

種子の知的財産権(IPR)についての懸念もあるが、IPRはPBの概念とは関係ない。


一方、Abbertonら(2016)は、生産量の増加、食糧供給の多様化、気候変動への適応強化や影響の緩和を目的として、主要作物とマイナー作物の育種を加速するためにゲノムツールを使用し適応させる方法について報告している。

遺伝子組み換えトウモロコシとダイズの世界的なメタ分析によると、遺伝子組み換え作物は従来の作物よりも収量が多く、生産コストを削減して粗利益を増加させることが示されている(Areal 2013)。

遺伝子組み換え作物は化学農薬の使用を37%減らす一方で、収量を22%増やし、農家の利益を68%増加させたという研究結果もある(Klümper and Qaim 2014)。


最近の研究によると、遺伝子組み換え作物は、気候変動下の世界の農業システムにおいて、より栄養価が高く、投入効率の高い作物を開発する上で、非常に有望であるとみなされている(Ortiz 2014)。

トランスジェニック生物は、農薬に含まれる化学物質のような、より有害な新規物質の使用を減らすことなどを通じて、農業が良い方向に変化する手助けとなる可能性がある。


Week 2:学習教材 要点⑧

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


8 大気エアロゾル負荷

大気中のエアロゾルは、人間の健康に有害であり、気候に影響を与える(Ramanathan 2007)。

エアロゾルであるブラックカーボンの排出は、二酸化炭素の排出に次いで、地球温暖化の原因となる(Bond 2013)。

作物残渣燃焼は、世界的に重要な大気エアロゾルの発生源である(van der Werf 2010)が、その正確な数値についてはほとんど研究されていない。

ブラックカーボンと有機炭素の人為的排出の割合は約3~14%とされている(Bond 2013)。


大気エアロゾル負荷の惑星限界(PB)は、エアロゾル光学深度(AOD)が使用されている。

AODは地球の表面で非常に変化しやすいため、地球規模のPBは設定されていない。

Steffenら(2015)は、モンスーンに影響を与える、インド亜大陸上のPBを設定した。

インド亜大陸上のAODは約0.15(Chin 2014)であり、PBは0.3(Steffen 2015)に設定されている。

しかし、AODは強い季節性と空間的な不均質性を持っており、インド・ガンジス平原では乾季に1.0に近い値が日常的に観測される。


エアロゾルは、ほぼすべての排出が地表に由来するため、地表の小さな粒子状物質(PM)とも相関がある。

年間平均の人口加重PM曝露量は、ブラックカーボンおよび有機炭素が約38%、アンモニアが約11%である(Shindell 2015)。

農業燃焼による排出が世界のPMの約3%、肥料の生産と使用による排出が約11%を占めており、農業関連の排出は一部の人口密集地ではPMの主要な発生源となっている(Bauer 2016)。

Global Burden of Disease(グローバル疾病負荷)は、毎年約320万人の早死がPMに起因すると推定している(Lim 2012)。

この分析及びLelieveldら(2015)の研究に基づくと、大気エアロゾル負荷に対する農業の寄与は、毎年45万~66万人の早死をもたらす可能性がある。


農業は大気エアロゾル負荷に大きく寄与しており、AODのPBは汚染地域で定期的に(季節的に)超過しており、人間の健康に極めて有害な影響を及ぼしている。

農業廃棄物の野外焼却を禁止し、肥料をより効率的に使用することは、実質的な利益につながる。




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【メモ】

炭素成分は、無機炭素と有機炭素に大きく分けられる。

無機炭素は、元素状炭素と炭酸塩炭素からなる。


black carbon(ブラックカーボン、黒色炭素)

元素状炭素は、炭化水素が高温で不完全燃焼する際などに生成する。

元素状炭素は人間の目には黒く見え、光を吸収することから黒色炭素(ブラック・カーボン)と呼ばれる。

ブラックカーボンは、エアロゾル(大気中を浮遊する微小粒子)の成分の一つで、ディーゼルエンジンの排気ガス、石炭の燃焼、森林火災、バイオマス燃料の燃焼など、炭素を主成分とする燃料を燃焼した際に発生する。

大気汚染物質であるだけでなく、太陽光を吸収する性質があるため、大気を加熱したり、積雪や海氷面に沈着して太陽光の反射率を下げ、氷の融解を促進することで、温室効果を有し、気候変動を加速させる。

2020年9月13日に北極海の海氷面積が観測史上2番目の小ささになっており、ブラックカーボンによって氷の融解が進行した可能性が考えられている。(日本の国立極地研究所と宇宙航空研究開発機構の調査による)



organic carbon(有機炭素)

有機炭素は、有機物に含まれる炭素のこと。

有機炭素の発生源から直接排出される一次生成粒子だけでなく、大気中で反応したり、浮遊している別の粒子に吸着してできる二次生成粒子もある。

一次生成粒子には、元素状炭素と共存してボイラーやエンジンから排出される粒子や、森林火災の煙のような有機炭素などがある。

代表的な物質には、多環芳香族炭化水素とそのニトロ化誘導体、半揮発性の鎖状炭化水素などがある。

二次生成粒子には、自動車の排気ガスに含まれる炭化水素が光化学反応により粒子となるものがあり、これが光化学スモッグを構成するものの一つである。

代表的な物質には、カルボン酸や芳香族カルボン酸などがある。



大気汚染の人体への影響

WHOの「PMに関する大気質ガイドライン」によれば、PM10の曝露量の閾値(それ以下なら健康に影響がないとみなされる下限値)は1立方メートル当たり年平均で20マイクログラム、PM2.5の場合は年平均で10マイクログラム。

WHOは、PM10とPM2.5の質量濃度を健康リスクの指標として用いることを提案している。

大気汚染が健康にどのように影響をおよぼすかは、これらの汚染物質に対する感度と曝露量(どれだけ長く曝されていたか)によって決まる。

疫学的研究によれば、大気中のPM濃度の増加と、心臓血管系及び呼吸器系疾患の罹病率の増加や早期死亡率の増加は有意な相関関係があるとされる。


Week 2:学習教材 要点⑦

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


7 成層圏オゾン層破壊

Rockströmら(2009a)は、オゾンレベルの惑星限界(PB)を、1964年から1980年の値に関して、特定の緯度のカラムオゾンレベルが5%未満の減少にとどめることを提案している。

歴史的なオゾン層破壊は、クロロフルオロカーボン排出から放出されたハロゲンが主である。

現在、N2O(亜酸化窒素)はオゾンを破壊する唯一で最も重要な排出物であり、21世紀を通じて最も大きな排出物であり続けると予想される(Ravishankara 2009)。


土壌からのN2Oは、主に土壌に施される窒素肥料と畜糞に関連する人為的な発生である。

窒素肥料の使用量と家畜排泄物の生産量の増加は、2030年までに農業からのN2O排出量を35~60%増加させると予測されている(Smith 2008)。

Crutzenら(2008)によれば、人為的なN2O排出量は年間5.6 ~ 6.5 Mtであり、そのうち農業は年間4.3~5.8 Mtに相当する。

したがって、世界の人為的なN2O排出量の66-90%は農業活動に起因している。


農業において人為的なN2O排出を削減するために、最も効果的なのは、肥料の効率的な使用である(Ravishankara 2009)。

将来のN2O排出を制限すれば、枯渇状態にあるオゾン層の回復を促進することができる。それによって、気候系への人為的強制力を減らすことにもなる。


Week 2:学習教材 要点⑥

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


6 海洋酸性化

海洋酸性化は、大気中に排出された二酸化炭素が原因であり、その約25%が海水に吸収され、炭酸を形成している。

1800年以降、すでに海水の酸性度が34%上昇しており、CO2排出量を削減しない限り、2100年までに表層海水の酸性度が約150%上昇すると予測されている(Hönisch 2012)。これは数百万年の間で、最も速い海洋の化学変化速度である。


サンゴやカキなどの多くの海洋生物は、アラゴナイトやカルサイトを使って殻や骨格を形成している。海水の二酸化炭素濃度が上昇すると、簡単に腐食してしまう(Rodolfo-Metalpa 2011)。

サンゴ礁はアラゴナイトでできており、「アラゴナイト飽和度」(Ω arag)が1以下になると、サンゴ礁は溶けてしまう

サンゴ礁は、アラゴナイトの過飽和度 Ω arag > 3の状態で形成され、それ以下ではサンゴ礁は弱くなり、藻類や海綿動物、ウニやブダイなどの捕食者によって簡単に侵食される。


Rockströmら(2009b)は、海洋酸性化の惑星限界(PB)として海洋のアラゴナイト飽和度が、産業革命前の世界平均の表層海水 Ω arag 3.44の80%以上に維持されることを提唱した。

現在、海洋のアラゴナイト飽和度は産業革命前の値の約84%であり、急速に低下している(Gattuso 2015)。


農業は、CO2排出の主要な原因であるため、海洋酸性化に直接寄与している。

耕作地の集水域の酸性化や、海洋への農業用肥料の流入による間接的な影響もある。

沿岸水域に投入された硝酸塩は藻類の成長を刺激し、藻類が腐敗すると溶存酸素濃度を低下させる。

微生物呼吸の際に生成されるCO2は酸性度を高め、海洋酸性化の地域的な影響に拍車をかける(Ekstrom 2015)。


海洋酸性化という世界的な問題に対する地域的な解決策には、農業の変革が必要である。

IUCNブルーカーボンイニシアチブでは、沿岸植生(藻類、海草、マングローブ)が、酸性水の流出を防ぎ、炭素を捕捉・蓄積し、沿岸水のpHを上昇させる能力を持つことを認めている。

海藻の養殖や、エビ養殖場に転換された地域のマングローブを徐々に回復させることは、海洋酸性化を食い止めることにつながり、農業をより安全に運営する方法である(Siikamäki 2013)。




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【メモ】

Ocean acidification 海洋酸性化

海洋酸性化とは、大気中の二酸化炭素濃度の上昇の結果として海洋のpH値が低下すること。

海水のアラゴナイト飽和度とは、炭酸カルシウム析出能の指標。

サンゴの骨格は炭酸カルシウム(CaCO3)からなるアラゴナイト(アラレ石)でできている。

アラゴナイト飽和度が1を下回るとアラゴナイトは溶解する。

3,581か所のサンゴ礁の観測に基づいてグレートバリアリーフ全体のアラゴナイト飽和度を推定したところ、これまで考えられていたよりも酸性化が進んでおり、内礁の溶解が予測よりも早く進むことが報告されている(Mathieu Mongin 2016)。


Week 2:学習教材 要点⑤
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


5 気候変動

農業は、CO2以外の重要な温室効果ガスを大量に排出するだけでなく、農業のためのスペースを確保するための森林伐採によって、大量のCO2を放出している。

肥料の生産から食料品の流通にいたるまでの活動全体も、大量のCO2を排出している。

このように、農業は気候変動に影響を与える最も重要な人為的活動の一つである。

さらに、気候変動はそれ自体が農業の条件に影響を及ぼし、農業システム全体に大きな影響を与えることになる。


Rockströmら(2009a)は、地球規模の制御変数として大気中のCO2濃度と大気圏上層部の放射強制力の両方を用いて気候変動にアプローチし、350 ppm CO2と産業革命前レベルからの1 W m-2を惑星限界(PB)として提案した(US EPA 2011)。

これは、(i)温室効果ガス強制力に対する気候システムの平衡感度の分析、(ii)完新世より温暖な気候下での大型極地氷床の挙動、(iii)現在のCO2濃度約387ppm、純放射強制力+1.6W m-2(+0.8/-1.0W m-2)での気候システムの観測結果に基づいている。

Rockströmら(2009a)は氷床量の減少や、エアロゾルの冷却効果の消滅をPB設定時に考慮しなければならないと指摘している。

エアロゾルPBと気候変動PBの間には、もう一つ重要な相互作用がある(Mahowald 2017)。


100年の地球温暖化係数に基づくと、農業は1年間で約5.0~5.8GtのCO2を排出している。これは、農業による土地利用変化を除いた、人為的温室効果ガス排出総量の約11%にあたる(Smith 2014)。

発展途上国は世界全体で農業関連排出量の大部分を占めており、今後も発展途上国での農業生産を増加させる必要性があることから、排出量が最も速く増加すると予測される(Smith 2014) 

農業からのCO2排出量は、途上国では平均35%、先進国では12%を占めている(Richards 2015)。

生産から消費までの食料システム全体からの排出を含めると、温室効果ガス総排出量に占める割合は14~24%(農業による土地利用変化を含む)から19~29%へと増加する(Vermeulen 2012)。

この数字には、サプライチェーン全体、肥料製造、農業生産そのもの、加工、輸送、小売、家庭での食品管理、廃棄物処理などが含まれる。


Wollenbergら(2016)は、人為的な地球温暖化を産業革命時の平均気温の2度以下に抑えるという目標内にとどまると同時に、より豊かになった人口を養うためには、農業は2030年までに年間で1 Gt CO2の排出を削減しなければならないと推定している。

1t CO2あたり最大20USドルの価格を設定した場合でも、必要な削減量のうち21〜40%しか達成できないと試算している。

これは、技術的な農法の普及と効率向上を伴う作物と家畜の増産を含む。


望ましいCO2削減量と妥当な成果との間に大きなギャップがあるため、より変革的な技術・政策オプションが必要であることがわかる。

例えば、メタン生成の少ない家畜品種や土壌有機物の土壌への保持を強化するなどのハイテク解決策が考えられている。

同時に、農業のための開墾による土地利用の変化を減らし、食品の損失と廃棄を減らし、食生活のパターンを転換することも必要だろう。




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【メモ】

Radiative forcing(放射強制力)とは?

気候変動の自然または人為的要因によって引き起こされる大気中のエネルギーの変化を放射照度  W m-2(ワット毎平方メートル)によって測定したもの。

地球のエネルギーバランスに変化をもたらす外部要因を定量化して比較するために使われる科学的概念。

正の放射強制力とは、地球が太陽光から受け取るエネルギーが宇宙へ放射するエネルギーよりも多いことを意味する。このエネルギーの正味の増加が、温暖化を引き起こす。

負の放射強制力とは、地球が太陽から受け取るエネルギーよりも多くのエネルギーを宇宙へ失うことを意味し、これは冷却を生み出す。


Rockströmら(2009a)は気候変動に関して、大気中のCO2濃度のPBだけでなく、放射強制力もPBを設定することで、二重のアプローチをしている。

CO2濃度のPBが350ppmと設定されているが、2019年のCO2濃度は500ppm(NOAA年次温室効果ガス指数より)であるため、すでにPBを越えている。

放射強制力のPBは1 W m-2 と設定されているが、2019年の総放射強制力は3.140 W m-2(NOAA年次温室効果ガス指数より)であり、すでにPBを越えている。

放射強制力の要素のうち、2000年と比べるとCO2とCH4(メタン)およびN2O(亜酸化窒素)は増加しており、CFC(クロロフルオロカーボン)は減少している。


Week 2:学習教材 要点④
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


4 生物圏の完全性の変化

Rockströmら(2009a)は、九つの惑星限界(PB)の一つとして “rate of biodiversity loss”(生物多様性の損失率)を設定していた。

Steffenら(2015)はこれを“change in biosphere integrity”(生物圏の完全性の変化)に変更し、遺伝的多様性と機能的多様性の両方を網羅することによって、人間活動が生物圏に与える影響をより反映しようとした。

遺伝的多様性はextinction rates(絶滅率)によって、機能的多様性はthe biodiversity intactness index (BII)(生物多様性無損傷指数)によって測定される。


地球上には約500±300万種の生物が存在し、現在のモデルでは10年当たり5%未満の絶滅率を予測しているが、気候変動が絶滅に与える影響は不確実である(Costello 2013)。

Steffenら(2015)は、遺伝的多様性の損失を測定するための指標として、100万種あたり・1年あたりの平均絶滅数(E/MSY)を設定しているが、測定が難しく、どうしてもタイムラグがあるとの批判がある。

10年当たり5%の絶滅率は破滅的とは言えないが、Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYという「願望的」なものと、10E/MSYというより現実的なものとを提案している。

化石記録における海洋生物の過去の平均絶滅率は、0.1~1E/MSYであると推定される。

しかし、現在では100E/MSY以上と考えられ、将来的には1000-10000E/MSYで消失すると予測されている。


機能的多様性は、地球システム機能における生物圏の全体的な役割を示すものである。

Steffenら(2015)は、機能的多様性のPBとしてBII90%を提案した。

Newboldら(2016)は、世界の地表の58%において、すでにPBを越えてBIIが減少していると推定している。


遺伝的多様性と機能的多様性の両方の損失が、土地システムの変化によって引き起こされることを考えると、生物圏の完全性PBの状態における農業の役割は80%である。

農業は、生物圏の完全性をPBを越えてシフトさせた。

生物多様性の損失は生息地の面積だけの関数ではなく、生物圏の完全性は遺伝的多様性よりも機能的多様性と関係があるかもしれない(Steffen 2015)。

世界の森林は、インフラへの投資の大幅な拡大により急速に分断されており、農業は新しい景観の重要な構成要素となっている(Sloan and Sayer 2015)。


Development corridors(開発回廊)は、途上国の農業をより高いレベルの生産性に転換させる方法と考えられている。

これらの開発回廊は、特に熱帯地方において、既存の森林を大きく分断し、占有する危険性があり、生物圏の完全性に悲惨な結果をもたらす可能性がある(Laurance 2015)。

気候変動と生息地の断片化は、外来侵入種の自然生息地への拡散をかつてないレベルで促進し、生物多様性と生態系機能に対して憂慮すべき結果をもたらしている。




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【メモ】

the average number of extinctions per million species-years (E/MSY)

100万種あたりの年間の平均絶滅数


化石記録から推定される過去の海洋生物の年平均絶滅数は、0.1~1E/MSYなので、100万種あたり0.1種から1種であった。

現在では100E/MSYなので、1年間に100万種あたり100種が絶滅している。そして将来的には1000-10000E/MSY、すなわち100万種あたり年間で1000種から10000種が絶滅すると推定されている。

地球上には約500±300万種が生息しているので、そのうち1年間に約500±300種が絶滅している計算となる。

生物多様性科学において、「地球上の生物は6回目の大量絶滅に突入しているか、すでに突入している」と言われているのが、うなずける数字である。


Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYすなわち1年間に100万種あたり1種の絶滅にとどめるのが理想だが、それはもはや現実的ではないため、せめて10E/MSYすなわち1年間に100万種あたり10種の絶滅におさえることを提案している。


Week 2:学習教材 要点③
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


3 生物地球化学的フロー

窒素(nitrogen, 以下N)とリン(phosphorus, 以下P)に関する分析。


窒素(N)は必須多量栄養素であり、多くの陸上および水生生態系における植物成長を促す元素である。

人間活動は、化石燃料の使用量の増加、農業や産業による窒素需要の増加、利用効率の低さなどを主な要因として、地球上の窒素循環を大きく変化させてきた (Swaney 2012)。

現在、人為的な窒素供給は、すべての自然な陸上プロセスの合計よりも多くの窒素を地球システムに供給している(Rockström 2009a, Canfield 2010)。

過剰な窒素は土壌や大気の汚染を引き起こし、生物多様性の損失を早め、沿岸の海域や流域を汚染し(Howarth 2011, Swaney 2012)、対流圏のN2Oや活性窒素ガスのレベルを上昇させる(Robertson and Vitousek 2009) 。


Steffenら(2015)は、de Vriesら(2013)の分析に基づいて、水生生態系の富栄養化を回避するための窒素に関する惑星限界(PB)を、産業および意図的な生物学的窒素固定から62 Tg N yr-1と提案した。

Steffenら(2015)によれば、窒素のPBをすでに越えている地域は、特に北米、欧州、南アジア、中国である。


Fixen and West(2002)によると、農業における窒素肥料の使用量は、1960 年から 2000年の間に約800% 増加した。

Bouwman ら(2009)は、農業への総窒素投入量を 249 Mt N yr-1 と見積もっている。世界の人為的窒素使用量(187 Mt N yr-1)に占める農業の割合は86.1%と推定されている(Galloway 2008)。


いくつかの研究で、作物における窒素の利用効率が低いことも明らかにされた。

作物に施された窒素の約半分しか植物に取り込まれず、残りは溶出(16%)、土壌侵食(15%)、ガス放出(14%)によって失われてしまう(Liu 2010, Bodirsky 2012)。

Robertson and Vitousek(2009)によれば、輪作、作物の窒素要求量・時期・配置の予測の改善、および窒素の損失を回収する戦略のすべては現実に可能な手段であり、それによって窒素の損失を大幅に削減し、窒素の過剰供給を回避することができる。



ほとんどの農業生産は、肥料や堆肥からのリン酸塩(PO43-)の形でリン(P)に依存しており、土壌を改良し、作物の収穫時に除去されたものを補充している(Cordell and White 2013)。

人間活動は、農業用のリン酸肥料を生産するためにリン鉱石を採掘することによって、惑星のリン循環を大きく変化させてきた

リン循環は自然プロセスの2~3倍に加速され(Smil 2000)、意図した農業生産の増加に加えて、淡水および河口域システムの富栄養化(Diaz and Rosenberg 2008)につながっている。


Steffenら(2015)は、Carpenter and Bennett(2011)の分析に基づいて、海洋生物の過去の大量絶滅を説明する可能性のある大規模な海洋無酸素現象を避けるために、淡水系から海洋へ流れるリンのPBを11 Tg P yr-1に設定している (Handoh and Lenton 2003)。

淡水の富栄養化を防ぐために地域的なPBが設定されており、窒素と同様に、特定の地域でリンに関するPBがすでに越えられている。


Smil(2000)によれば、世界のリン酸塩生産量の90%(年間約148 Mt)が農業用肥料に使用されている。

さらに最近の研究では、採掘されたリン鉱石の96%が肥料生産に使われ(人為的な総生産量23.5 Mt yr-1のうち22.6 Mt yr-1)、そのほぼすべてが陸上土壌に加えられている(Carpenter and Bennett 2011)。


人口増加と食生活の変化に伴う世界的な食糧需要の増加により、リンの需要は2050年までに50~100%増加する可能性があり(Cordell and White 2013)、すでに超えているリンのPBに対する農業の影響はさらに大きくなるだろう。


リンのPBを越えないためには、新しいリン酸塩の使用を減らすことが必要である。

そのためには、農地土壌のリン酸塩収支のバランスをとることと、堆肥、人糞、食物残渣からの再利用リン酸塩の使用を増やし、新たに採掘するリン鉱石への依存を減らすことである。

この種の堆肥の流出は、よりよい耕作方法、水辺のバッファーの設置と維持、湿地帯の復元によって最小限に抑えることが可能である。

最後に、貯蔵中または市販後の食品廃棄物を減らし、そもそもリン酸塩を生産する必要がないようにすることは、緊急の課題である。




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【メモ】

N2O=亜酸化窒素:二酸化炭素の約300倍の温室効果があり、オゾン層破壊物質でもある(日本の独立行政法人農業環境技術研究所による定義)


Reactive nitrogen=活性窒素(反応性窒素):生育を促進する様々な窒素化合物の総称。大気中の窒素酸化物(NOx)、水に溶け込んでいるアンモニア(NH3)、亜酸化窒素(N2O)、硝酸塩(NO3-)などが代表的。


【疑問】

窒素のPBは年間62Tg、リンのPBは年間11Tgと設定されていますが、このTgとはどのような単位なのでしょうか?

熱重量測定におけるthermogravimetry(TG)なのではないか、と思いますが確信が持てません。


【所感】

1906年ドイツで、工業的な窒素固定であるハーバー・ボッシュ法が確立されました。

ハーバー・ボッシュ法は、20世紀の人口の爆発的な増加を支えましたが、過剰な反応性窒素が土壌や湖沼の富栄養化を引き起こし、オゾン層破壊の原因となり、全地球規模の温室効果をもたらしました。

反応性窒素は、アントロポセン(人新世)を象徴する物質と言えます。

さまざまな問題を引き起こすと分かっていても、人類が反応性窒素を手離すのは化石燃料以上に難しいのです。

反応性窒素はただ減らせばよいのではなく、どこにどう使うのかが重要であると思いました。


Week 2:学習教材 要点②

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


2 淡水の利用

農業は世界の淡水取水量の約70%を占めている。

OECD諸国では総取水量の約44%、アフリカ諸国では約87%、アジアでは約80%、アラブ諸国では90%以上である(世界水資源評価計画2012a)。


Rockströmら(2009a)は、淡水の惑星限界(PB)を4000km3 yr-1 とした。淡水PBのモニタリングと定量化のために、世界のblue water(青水)の消費量を用いることを提案した。

Shiklomanov and Rodda(2003)は、灌漑農業による青水消費が人類の青水消費の84%を占めると推定した。

Jaramillo and Destouni(2015a)は、青水のみではなく、blue and green water(青水と緑水)の総消費量を淡水PBのモニタリングに使用すべきと述べている。

この観点から、20世紀から21世紀初頭にかけての人類の世界的な淡水消費量の増加は、すでに4000 km3 yr-1のPBを越えている可能性がある(Destouni 2013, Jaramillo and Destouni 2015)。


食料生産に必要な水量は、栽培するものや生産方法によって異なる。人口が増加し、食生活が肉食にシフトしていく中で、今後ますます多くの水が必要とされる。

特に畜産業の発展は、家畜の餌となる作物の栽培に水を必要とするため、水の消費量を増加させる。

バイオ燃料の生産が増えれば、水資源への圧力はさらに高まるだろう。


一部の地域では、地下水の枯渇も大きな問題となっている。インド・ガンジス平原では年間 300mm 以上減少している(Wada 2010)。

多くの地域で、水の利用可能量が減少すると予測されているが、将来の世界の農業用水消費量だけでも(天水農業と灌漑農業の両方を含む)、2050年までに約19%増加すると推定される(世界水アセスメント計画2012)。


1961年以来、単位生産量当たりの水使用量はほぼ半減しているが(世界水アセスメント計画2012)、農業における水利用効率を高める可能性はまだ大きい。

水管理、政策改革、インフラ投資はすべて、効率の向上と消費の抑制に貢献することができる。

灌漑用水は、運搬効率(水源から農場への水の運搬)、分配効率(農場から畑への水の分配)、作物への散布効率(Rosegrant 2009)を高めることで使用量を削減することができる。




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【メモ】

青水、緑水、中水とは?(水資源用語)

(アメリカ農学会(ASA)、アメリカ作物科学学会(CSSA)、アメリカ土壌学会(SSSA)による定義)


Blue water 

青水とは、湖、川、貯水池に存在する。湿地帯の地表下の帯水層から汲み上げることもできる。

家庭や飲料メーカーの飲料水をはじめ、農業用の灌漑用水としても利用されている。農業用水は青水の約70%を使用している。

青水は、降雨や雪解け水などの降水によって地下水涵養する。


green water

緑水とは、植物や土壌微生物が利用できる土壌中の水のこと。根から吸収され、植物に利用され、蒸散の過程で大気中に放出される水。

緑水は、蒸発や地表流出によって土壌から出ることもあるが、植物の蒸散に利用されて初めて生産性があるとみなされる。

作物の生育に必要な緑水の量は、気温、日射量、風量、空気の乾燥度など、さまざまな要因で決まる。

緑水をより多く得るためには、耕起を減らし、被覆作物を使用することが挙げられる。被覆作物は土壌を遮光し、土壌表面からの水の損失を減らす。同様に、不耕起栽培では、作物の残滓を土壌に残し、蒸発を防ぐ。被覆作物と不耕起栽培は、土壌を固定し、土壌侵食と流出を防ぐ。


grey water(中水、家庭雑排水)

自然は青と緑の水をつくるが、人間は中水をつくり、再利用してきた。中水は、都市や家庭、産業界で使用されている。

家庭からの排水だけでなく、産業界でもかなりの量の中水が排出されている。大規模な野菜加工工場では、人口10万人規模の都市と同じ量の水を消費する。多くの地域で、電力生産が灌漑農業と同量の水を使用している。

青水の消費量を減らし、中水を再利用することで、エネルギー消費量を最大80%削減することができると言われている。


参照:What are blue, green, and grey water?


Week 2:学習教材 要点①
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries(2017) 

by Bruce M. Campbell, Douglas J. Beare, Elena M. Bennett, Jason M. Hall-Spencer, John S. I. Ingram, Fernando Jaramillo, Rodomiro Ortiz, Navin Ramankutty , Jeffrey A. Sayer and Drew Shindell

(地球システムの惑星限界を超える主要な推進力としての農業生産)


2009年、Rockströmら(2009)は、「惑星限界」(PB)と「人類の安全な活動空間」という概念を導入し、最近Steffenら(2015)により改訂された。現在認識されている9つのPB(Steffen 2015)は以下の通りである。


1 土地 - システムの変化

2 淡水の利用

3 生物地球化学の流れ - 窒素とリンの循環

4 生物圏の完全性

5 気候変動。

6 海洋酸性化

7 成層圏のオゾン層破壊

8 大気エアロゾル負荷

9 新規物質の導入


気候変動、土地システムの変化、生物地球化学の流れ、生物圏の完全性の少なくとも4つのPBがすでに超過しているか、不確実性のゾーンにある。

淡水利用PBが超過しているかどうかについても、かなりの議論がある(Gerten 2015)。

PBの概念は、農業が地球システムに及ぼす影響を評価するための有用な基礎を提供し、食料・農業部門の緊急の変革を促すために利用できる。



1 土地 - システムの変化

Rockströmら(2009a)は、地球の氷のない表面の15%以上を農地に転換すべきではないと提案した。彼らはその限界を75%(熱帯林、温帯林、北方林の境界の加重平均)とし、54〜75%(元の面積に対する森林の残存率)を不確実性のゾーンとし、現在の値を62%と計算している。


2000年には、地球上に1500万km²の農地と2800万km²の牧草地があり、それぞれ氷のない地表の12%と28%に相当した(Ramankutty 2008)。

2050年までにさらに1000万km²の土地が伐採されることが予想される。これは、Rockströmらが設定したPBを越える。


農業用地の拡大は、過去300年間に700万から1100万km²の森林の純喪失を引き起こした(Foley 2005)。

地球規模で見ると、1980年から2000年の間に温帯落葉樹林の約30%が耕作地に転換された。

1990年から2005年の間に森林破壊が起こった地域では、農業が森林破壊の75%を引き起こしたと推定される(Blaser and Robledo 2007)。

肯定的な見方をすれば、熱帯の貧しい国々では森林の損失が続いているものの、高緯度と豊かな国々で森林の増加が起こっている(Sloan and Sayer 2015)。


気候目標を達成するための重要な要素として、炭素回収・貯留を伴うバイオエネルギー(BECCS)が提案されることが多くなっている。

しかし、これは食料生産との競合を増やし、大規模な土地利用の変化を誘発する可能性がある。

最近の研究では、BECCSはより小規模でしか実現できない可能性が示唆されている(Boysen 2017、Smith 2016)。

農業収量の大幅な増加と集約化を行ったとしても、人類が食糧とバイオ燃料に対する将来の需要を満たすためには、農業の正味面積を拡大しなければならず、重要な生物群にさらなる圧力がかかることになる。




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【所感】


BECCSとは?

Bioenergy with carbon capture and storage(回収・貯留(CCS)付きバイオマス発電)

大気中のCO2を除去・減少させる技術をネガティブエミッション(NETs)あるいはCDRと呼び、研究が進んでいるが、BECCSはその代表的なもの。

エネルギー利用のためバイオマスを燃焼させたとき、CO2は排出されるが、バイオマスのライフサイクル全体での排出量は変わらないため、CO2排出量としてカウントしない(カーボンニュートラル)。

このバイオマス燃焼時のCO2を回収・運搬し、地中に貯留すれば(CCS)、大気中のCO2は純減となる、という理論である。

パリ協定のCO2の排出を実質ゼロにするという長期削減目標実現のために、BECCSの実用化が期待されている。

2021年現在、北米ではエタノール発酵で発生するCO2を対象として、CO2回収量100万t/年規模のBECCSが稼働中である。

しかし、 Campbell(2017)らはBECCSが食料生産と競合し、食料生産とバイオマス燃料生産の両方の需要を満たすためには、惑星限界を超える森林伐採と農地拡大を引き起こすと予想している。

気候変動問題に取り組むためには、バイオマス燃料は有効な技術の一つであるが、決して銀の弾丸ではないのだな、と感じた。


Week 2:Planetary boundaries and biodiversity ②
Planetary boundaries and biodiversity(惑星限界と生物多様性)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


惑星限界では、biodiversity(生物多様性)biosphere integrity(生物圏の完全性)と表記されている。

これは、生物多様性で重要なのは、種の数や絶滅の多さだけでなく、生態系の無傷さや性能も重要であるためだ。

そのため、生物圏の完全性は、地球システム全体における生物学的プロセスの役割を表す指標として使用される。


この惑星が宇宙の中でユニークなのは、生命が存在するからだ。地球の歴史において、気候と生命の共進化、すなわち生物多様性によって決定される。

惑星限界の概念では、気候変動と生物圏の保全の2つを、人間が地球システムのプロセスに干渉することを懸念しなければならない中核的なプロセスとして位置づけている。

つまり、生物多様性や生物圏の保全に対する人間の影響も、気候に対するものと同じように心配しなければならない。

SDGsのうち、目標14と15は生物多様性や生物圏の保全に特化しているが、残念ながら気候変動ほど注目されていない。

気候変動と同様に、生物多様性に特化した国連条約が存在する。この条約は、IPBES(Intergovernmental Panel on Biodiversity and Ecosystem Services)という科学委員会によってサポートされている。



専門家インタビュー

Neil Burgess

(UNEP WCMCの科学部長であり、コペンハーゲン大学の保全科学教授)

世界自然保全モニタリングセンター(UNEP WCMC)は、1988年に発足した、ケンブリッジに本部を置く、国連環境計画(UNEP)の下部組織。


Q:ほとんどの人は、生物多様性が大きな課題であるとは認識していない。「地球上の生物は6回目の大量絶滅を迎えるかもしれない」という話はよく言われているが、これはどういうことなのか?


A:生物多様性科学の世界では、地球上の生物は6回目の大量絶滅に突入しているか、すでに突入しているというのが科学的な意見の一致するところだ。

種の絶滅率は、IUCNレッドリストと呼ばれる、地球上のあらゆる種類の種の状態を調べるものによって測定されているため、このことが分かる。

この指標は、種が絶滅に向かっている事を教えてくれる。鳥類、哺乳類、両生類、その他の動物や植物のグループがたくさんあり、これらは現在、絶滅の危機に瀕しており、残念ながら近い将来、絶滅する可能性が高くなっている。

特に太平洋の小さな島々では、ここ数十年の間にかなりの数の絶滅が起こっていることが分かっている。

この件に関する科学的な見解は、おそらく地質学的な背景よりも絶滅の速度が1000倍ほど速くなっているということだ。

過去何百万年もの間、古い種の絶滅が起こっている。しかし、現時点の基礎科学では、私たちはその1000倍の速さで絶滅していると考えられている。


Q:6回目の絶滅と言っても、私たちはまだここにいる。では、それを心配する必要があるのだろうか?


A:恐竜が絶滅したことで、最終的に哺乳類が恐竜に食べられたりすることによるプレッシャーから解放されることができた。私たちが生まれたのは哺乳類のおかげである。

もし私たちが地球上の他のすべての種やほとんどの種の大量絶滅を引き起こした場合、私たちもその結果の犠牲者になる可能性が十分にある。

つまり、生き残ることができる他の何かが 最終的に地球を受け継ぎ、進化するだろう。しかし、私たちがその瞬間を見られる可能性は極めて低い。

私たちが依存している生命維持システム、植物や動物、生息地、海洋、陸上など、地球上のあらゆる生命の要素は、私たちが地球で生き残るための手段を提供している。

もし、私たちが地球上の生命を絶滅させてしまったら、ある種の生命は崩壊し、人類の安全な生存領域や惑星の限界から外れてしまう可能性が高くなる。

つまり、たくさんのものを絶滅させた世界で、私たちが将来生き残れるかどうかわからないということだ。


Q:SDGs14と15の達成に向けて、今、最も大きな課題はどこにあると考えるか?


A:最大の課題は、人類の人口が90億、100億、120億と増えていくと仮定した場合、一人一人が生息地や海、食料となる生物種、木材となる森林を必要とすることだ。

つまり、地球上のすべての人が、地球に対して圧力をかけている。

世界の一部の地域では、豊かな国の方が貧しい国よりも圧力をかけているが、すべての人が地球に何らかの圧力をかけているのだ。

だから、本当の課題は、増え続ける人口と、土地や土壌、水といった地球の有限な資源、つまり、私たちが食べ物を育てたり、必要なものを生産したりするための基盤との間で、何らかの形でバランスを取ることだ。

SDGs 14と15は、陸上の生命と海の生命について定めたものだ。絶滅を防ぐために、農業からの圧力と陸上の生物の要求とのバランスをどのようにとるかは、この目標の指標のひとつである。

また、SDG14では、魚からどのように食料を調達し、海洋の生息地構造と完全性を維持するかに焦点が当てられている。

しかし、私たちは皆、実際にどこかで生産された製品を買っている、その製品に使われた何かがどこかから来たものであることも事実である。そのため、生物多様性との関わりを最終的に追跡することは難しい。


Q:私たちがデンマークやその他の国で製品を購入する際に、その製品の生産において生物多様性がどのような影響を受けているかを実際に知ることができるツールはあるのか?


A:トレードフローモデルと呼ばれるものにリンクし始めている。例えば、マレーシアやインドネシアのアブラヤシを生産している企業、その原料を船で精製所まで輸送している企業、そしてデンマークやスーパーマーケットで食品やその他の製品に使用されている企業、これらすべてを網羅することができる。

つまり、貿易の追跡システムがますます整備されてきている。その貿易の影響について研究することも増えている。

例えば、アブラヤシのサプライチェーンを追跡することがで、マレーシアやインドネシアの各地で森林伐採や生息地の変化が起きていることがわかる。また、元々の森林の生物多様性の価値と、古いプランテーションの生物多様性の価値がわかれば、基本的にマレーシアやインドネシアのアブラヤシプランテーションが地上に与える実際の影響を計算でき、デンマークのスーパーの製品に至るまで、食品サプライチェーンを通じてその影響を追跡することができる。

ビットコインやブロックチェーンなど、コンピュータシステムを利用した新しい技術革新が話題になっている。このようなコンピュータ・システムは、究極的には世界貿易にも応用でき、世界貿易のどこに何があるのかを常に把握できるようになるだろう。コンピュータとビッグデータを扱うことで、人類と地球上の他の生物とのつながりをよりよく理解することができるかもしれない。




(Katherine Richardson教授のまとめ)

私たち人類は、他の生物に依存しており、進化して以来、ずっと他の生物と相互作用してきた。結局のところ、私たち自身が生物であり、生物は互いに影響し合っている。

歴史的に見ると、人間が他の生物に与える影響は、局所的な空間でのみ起こった。つまり、私たちの身近にあるものだった。

しかし、グローバル化した市場、特に食品市場は、他の生物との相互作用の多くを身近なところから遠ざけている。そのため、私たちは自分たちの行動が生物多様性にどのような影響を及ぼしているのか、気づかないことが多い。

近年、私たちは、人間と他の生物との相互作用の組み合わせが、生物圏の構成と性能の両方を変化させていることに気づいている。

つまり、この地球上のすべての生物の総和が、地球レベルで変化している。

新しいコンピュータの能力とビッグデータを扱う能力によって、地球上の生物との相互作用のすべてを追跡することができるようになるかもしれない。このような相互作用を追跡することができれば、人間の活動が他の生物に与える影響を最小限に抑えることも可能になると期待される。


Week 2:Planetary boundaries and biodiversity ①
Planetary boundaries and biodiversity(惑星限界と生物多様性)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


地球システムにおいて人間活動の影響を受ける重要なプロセスは、気候だけではない。

ストックホルム・レジリエンス・センターのJohan Rockstromは、国際的な研究者たちと共に、地球システム全体の状態を変える可能性のある9つのプロセスを特定し、そのすべてが人間活動によって地球規模で影響を受けているという分析を、2009年に発表した。

9つのプロセスとは、気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染である。


これらのプロセスすべてと人間の相互作用は、持続可能な開発目標に扱われている。

現代人は何十万年も前から地球上に存在しているが、農業の発展からコンピュータに至るまで、現代人の文明と関連するものはすべて、過去約1万2千年の間に進化してきた。

この間、気候は比較的温暖で、しかも異常に安定していた。つまり、現在の地球環境下で人類が繁栄できることは確かである。しかし、地球が他の条件になったときに、人類が繁栄できるかどうかはわからない。

したがって、地球の状態が変化するような深刻な危険をもたらすほど、これらの重要な地球プロセスの乱れを許容することは、人類にとって賢明ではない。


ロックストームのチームは、9つのプロセスのうち7つについて、人間が生存するためのboundary(限界)を提案した。

このboundaryは、thresholds(しきい値)やtipping points(ティッピングポイント)と混同してはいけない。

ロックストロームらが提示したthe planetary boundaries framework(惑星限界の枠組み)では、重要な地球システムのプロセスに対する人間の活動を惑星限界の範囲内に維持すれば、人類は安全な生存領域にあると主張している。


環境に関する持続可能な開発には、地球の資源とサービスに対する人間の需要が供給を上回らないようにすることが必要である。

惑星限界の枠組みは、重要な地球システムの潜在的な供給量を定量化する試みと見なすことができる。

したがって、SDGsの実施において、持続可能性の環境的要素を評価するには、惑星限界の枠組みのようなツールがあれば大いに役立つだろう。


2009年の論文では、広く科学コミュニティにこのフレームワークへの意見と改善を呼びかけることが含まれていた。

多くの科学者がそれに応え、2015年に2つ目の惑星限界の論文が発表された。ここでは、9つのプロセスのうち4つのプロセスに対する人間の活動が惑星限界を越えており、それによって現在は安全な活動空間の外にあると結論づけられた。

惑星限界を越えると判断されたプロセスは、気候、生物多様性、土地利用や森林の伐採、反応性窒素やリンの環境への放出の4つである。


1990年代には、オゾン層の状態が惑星限界を超えていた。しかし、オゾン層を破壊する物質を禁止するモントリオール議定書という形で世界的な協力が得られたため、現在はオゾン層の状態は惑星限界の安全域にある。


2017年にCGIARの気候変動・農業・食料安全保障研究プログラムのディレクター、Bruce Campbellらが発表した研究では、生物多様性、土地利用、反応性窒素とリンの放出について、現在の農法が惑星限界を越える原因になっていることが明らかにされた。

Campbellらの研究は、農業は水の限界も引き起こすと主張している。

このことは、持続可能な開発を達成するためには、食料システムの大幅な変更が必要であることを強調しており、この課題に特化したSDGが存在することを意味している。


Week 2:The Anthropocene ②
The Anthropocene(人新世)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


1896年にスウェーデンの化学者スヴァンテ・アレニウスが、石炭の燃焼によるCO2の放出が地球温暖化につながることをすでに予言していた。

1992年、国連は気候変動に関する枠組み条約「UNFCCC」を制定し、これを通じて国際社会は人為的な気候変動を制御できるように努めている。


2015年のパリ協定により、UNFCCC加盟194カ国は、人為的な地球温暖化を産業革命時の平均気温の2度以下に抑えるという目標に合意した。

このように気候変動をコントロールすることは、多くのSDGsの前提条件であり、目標13ではこの課題を明確に取り上げている。


UNFCCCには、IPCCという科学委員会があり、人類と気候の相互作用の可能性に関する利用可能なすべての科学的情報を評価する責任を負っている。

IPCCとはIntergovernmental Panel on Climate Changeの略である。

IPCCが政府間パネルであるということは、パネルに参加する科学者を推薦するのは各国自身であり、条約の加盟国政府はパネルの報告書を承認しなければならない。

IPCCは最新の報告書で、ここ数十年で記録された地球温暖化の半分以上は人間が引き起こしたものであることは95%以上確実である、と結論づけた。




専門家インタビュー

Jens Hesselbjerg Christensen

(IPCCのメンバーで、コペンハーゲン大学の気象学教授)


Q:IPCCが、気候変動の多くが人間の活動によるものであると確信している理由は?


A:観測、理論、モデリングから得られた証拠は、他のいかなる説明も排除するものだ。


Q:IPCCは約200カ国から認定された科学者で構成されているが、なぜ多くの人々はまだ科学を信じないのだろうか?


A:科学と関わり、科学と一緒に仕事をしない限り、科学はとても遠い存在に見える。これは、知識との付き合い方として、とても根本的なことだ。


Q:もし人間が気候系に与える影響をコントロールできなければ、社会はどのようなリスクを負うことになるのか?


A:この惑星の熱をオンにすることによって、気象現象や干ばつ、洪水のリスクがこれまでの経験をはるかに上回る段階に達する。

その上、適度な温暖化でさえ、海水面の上昇を見ることになる。そして現実には、おそらく今後数世紀の間に数メートルの上昇が起こるだろう。これは、私たちが知っている生活様式を危険にさらすことになる。

早期の対策がよりシンプルで、おそらくより安価であることは明らかだ。時間が経てば経つほど、2度以上の気温差が生じてしまい、再び気温差を縮めることは非常に難しく、コストも高くつく


Q:多くの人が、テクノロジーが私たちを救ってくれる、と言っているが、それについてどう思うか?


A:テクノロジーは私たちを助けてくれる。だが、救ってくれるわけではない。私たちを救えるのは私たちだけだ。


Q:社会が地球温暖化を2度以内に抑えることは、本当に可能だと思うか?


A:私たちはそれが可能であることを知っている。実際には、資源、資金、そしてそれを実行する政治的意志の問題なのだ。

今、私たちは今世紀の残りの期間、持続可能なエネルギー源となるグリーン開発を行うことができる。それは今後10年、場合によっては20年以内のことであり、本当に意欲的に取り組まなければならない。

私たちには技術がある。何が必要かはよく分かっている。問題は、好みと優先順位である。

そこで、この問題に取り組むために、パリ協定が設立された。もし私たちが本当に非常に迅速に排出量を調整し、今後50年以内に基本的にゼロで行かなければ、2度を超えてしてしまう。


Q:パリ協定と持続可能な開発目標との関係は?


A:気候は、持続可能な開発目標の多くから、基本的な前提条件となっている。気候問題への対処が、他の多くの目標に大きな影響を与えることは明らかだ。だからこそ、気候の危機に対処することが中心的な課題である。




(Katherine Richardson教授のまとめ)

私はこれまで、気候に関するSDGsの13番こそが最も緊急に取り組まなければならないと主張してきた。

アジェンダ2030で扱われている環境問題は、気候の問題をはるかに超えている。

これほど多くの懸念が取り上げられていることは、国連の協定の歴史においてアジェンダ2030が斬新なものであるとも言える。

これまで国連が環境問題を考える場合、オゾン層の破壊、環境への汚染物質の持ち込み、気候変動、生物多様性の損失など、ひとつの問題や課題に焦点を当てることが一般的だった。

これらすべての課題に対する関心をひとつの協定にまとめ、同時に、これらの関心事を持続可能な開発の経済・社会的要素に関連付けることは、ブルントラント報告書の結論だけでなく、人間社会が地球システムの不可欠かつ重要な構成要素であるという認識の論理的帰結であると言える。


Week 2:The Anthropocene ①
The Anthropocene(人新世)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


SDGsの目標13、14、15の三つは、私たちが地球上で維持したい環境のあり方を直接的に扱っている。そこで、人間と環境との関わりについて考えてみよう。


私たちは「人新世(アントロポセン)」に生きているとよく言われる。人間の活動が地球上のオゾン層に影響を与えていることを発見し、ノーベル賞を受賞した3人の化学者の一人であるパウル・クルッツェン氏が2000年代初頭に提唱した言葉である。

地質学者は、地球の歴史上の各時代に、その時代に蓄積された地層の特徴に基づいて名前を付けている。クルッツェン氏が「人新世」と主張したのは、現在堆積している地層が、数百年前に堆積した地層と明確に区別できるほど、人間活動の強いシグナルを含んでおり、現在を新しい地質段階あるいは地球史の一時代と見なすに十分である、ということであった。

私たちが生きている時代の正式な名称を変更すかどうか、地質学者たちはまだ審議中であるが、その結論がどうであれ、プラスチック、セメント、合成繊維など、地球にとって新しい化学物質や材料が地球の地層に残っていることは間違いない。

また、地球上には野生動物よりも家畜化された動物の方がはるかに多く、家畜化された動物でさえも時代とともに変化しているため、最終的に化石記録となるものには人間活動のシグナルがはっきりと現れるだろう。


現代人は20〜30万年前に出現し、その間に活動した痕跡を化石記録に残してきた。しかし、この100年ほどの間に、地球規模での人間活動のシグナルが強くなっている。

1750年から2010年までの期間における人間活動の様々な指標を見ると、世界人口、GDP、海外投資、都市に住む人々、エネルギーや肥料の使用、河川の堰き止め、淡水の使用、紙の生産、輸送、通信、国際観光など、いずれも1950年代頃から急激に増加している。この時期は "大加速度期 "と呼ばれている。


この大加速は、地球レベルのシステムの状態を表すさまざまな指標に反映されている。温室効果ガス、CO2、メタン、笑気ガス、オゾン層の破壊、地表付近の温度、海の酸性化、海産魚の捕獲、東南アジアでのエビの養殖、沿岸海域への活性窒素の投入による酸素欠乏、熱帯林の伐採、自然生態系の農地化、陸域の生物多様性の損失、などなど。


注意深く研究することで、地球システムの特徴に記録されたシグナルの変化が、人間活動に大きく起因していることが分かってきた。

こうした研究により、科学者たちは、地球は物理的、化学的、生物学的、そして人間的な要素が相互作用することで構成される自己完結型のシステムであると認識するに至った。

そして、これらの相互作用の総和が、地球全体の状態や環境条件を決定している。


地球システムにおける人間の活動が、惑星レベルにまで影響を及ぼすという事実は、気候変動に関する科学的な理解が進むにつれて、初めて広く認識されるようになった。

気候とは、ある地点の平均的な天候のことである。

気候は、地表付近に蓄えられた熱の量と、その熱が地球をどのように移動するか、また、地表付近や地球上に存在する水との相互作用によって制御されている。

地表付近に蓄えられる熱量は、太陽エネルギーが地表に到達する量と、その熱が地球から宇宙へ放射される量の関数である。

気候変動は、この地表の熱の出入りのバランスが変化することによって起こる


このバランスにはさまざまな要因が影響するが、最も重要な要因の一つは、大気中の温室効果ガスと呼ばれるものの濃度である。

温室効果ガスには、メタンや亜酸化窒素(笑気ガス)など、人間の活動によって発生するものも含まれる。

これらの温室効果ガスは、地表から出る熱を吸収して、地球の近くに閉じ込めている。

この温室効果は、1800年代初頭から知られていた。温室効果がなければ、地球は今よりもずっと寒くなっていたはずだ。

氷床コアのデータから、地球の歴史を通じて、温室効果ガスと気温の間には明確な関係があることが明らかになっている。

大気中の温室効果ガスが多いほど気温は高くなり、その逆もまた然りである


Week 1 雑感
Week 1の講義内容を少し振り返ってみます。

海洋生物学のKatherine Richardson教授のナビゲートで、毎回さまざまな分野のゲストのお話を聞くことができて、非常にぜいたくな講義だと思います。

Week 1では、モーエンス・リュッケトフト第70回国連総会議長を皮切りに、環境経済学、工学、農学の専門家による講義を受けました。



環境経済学のPeter Birch Sorensen教授のお話で、グリーンGDPという指標があることを初めて知りました。

まだアカデミアの世界でしか使われていないそうですが、いずれ実際の政策決定の現場でも使われるようになるのでは、と思いました。



デンマーク工科大学のMichael Zwicky Hauschild教授のお話では、ある製品の環境負荷コストを算出するためには、製品のライフサイクル全体(ゆりかごから墓場まで)を見なければいけない、ということを学びました。

例えば、太陽光発電は自然エネルギーだから環境にやさしいとよく言われていて、約10年前から急速に日本中に設置されました。しかし、太陽光パネルの耐用年数は20年~30年。

寿命を迎えた太陽光パネルは、金属くずとガラスくずと廃プラスチック類が混合した、鉛などの有害物質も含まれる産業廃棄物となります。

環境省は、ガラスや金属のリサイクルを推奨していますが、現状では埋め立て処分される場合がほとんど。2040年までには年間80万トンもの使用済みパネルが廃棄されると試算されています。

太陽光パネルの生産から廃棄処分までのライフサイクル全体を考えると、本当にどれほど「環境にやさしい」と言えるのか、疑問に思ってしまいます。

教授が語っていたように、製品のライフサイクル全体の環境への影響を定量化する研究がもっと進むことを期待したいです。



国際農業研究協議グループ(CGIAR)のBruce Campbellディレクターのお話は、Week 1でもっとも刺激的で、興味深かったです。

米農家が航空業界と同じくらいの温室効果ガス排出量であるとは、驚きでした!

持続可能な農業について、sustainable intensification(持続可能な集約化)という言葉で表現しているのが印象に残りました。

持続可能な食糧増産とは、森林地帯に農地を拡大させないこと、的を絞った効率的な肥料使用すべきだということ。

農業生産の効率化、集約化のためには大企業がリーダーシップをとる必要があり、ケロッグ社を例に出していました。


この講義を受けた後、以前に読んだ『脱「開発」へのサブシステンス論』(法律文化社、2004年)を久々に読み返してみました。本書は、横山正樹(フェリス女学院大学国際交流学部教授)、郭洋春(立教大学経済学部教授)、戸崎純(東京都立短期大学教授)をはじめ、全15名の研究者が執筆しています。※肩書は出版当時

本書全体を通して開発主義への反発があって、「脱開発」が掲げられており、強烈な反グローバリゼーションです。行き過ぎた資本主義と環境破壊に対抗するためには、地域の自立とネットワーク(いわゆるグローカル)によるオルタナティブな経済が必要だと言う主張です。


途上国の貧困と環境問題を取り扱う分野では、このような主張はきわめて多いのです。

研究者だけでなく、実際に現地で支援活動を続ける国際的なフェアトレード団体や環境保護団体も、同じようなアピールをしています。

植民地時代の名残りである単一栽培、大農場での児童労働、環境を汚染する農薬と肥料、非人道的な人口管理政策など、取り組むべき問題をあげればキリがないのですが。

簡単に言えば、巨大アグリビジネスは地方の文化と伝統を破壊する敵であり、現地を未だに経済的な植民地のままにしている諸悪の根源であるから、一致団結して戦わなければならない、という主張ですね。

ついでに、工業化に対する反発(現地の雇用が失われるから)も語られることが多いです。


しかし、CGIARの気候変動・農業・食料安全保障研究プログラムの専門家の意見は、反資本主義、反グローバリゼーションとは真逆なのです!

Bruce Campbellディレクターは、途上国の農業において男性よりも女性が多く従事しており、ジェンダーの問題もあることをきちんと語っていました。

地域ごとに事情があることをよく分かった上で、いかにして経済的なインセンティブを働かせるか、巨大アグリビジネスは敵ではなく、農業を持続可能なシステムに変革していくための強力な味方としていくべきだと主張しています。

Campbellディレクターは、「持続可能な集約化」は「銀の弾丸」ではないのだ、とあらかじめ言っていました。そもそも、魔法のように全ての問題を解決してくれる「銀の弾丸は存在しない」のです。


国際的なフェアトレード団体の児童労働撲滅のための長年の取り組みを知っているので、巨大アグリビジネスを本当に味方にできるのか、というのは疑問に思います。

寡占化が進むことで、ますます富の偏在になるかもしれません。

しかし、森林地帯を守るためにも、農業を今よりも効率化、集約化すべきであることはよく分かります。

効率化のためには機械化が欠かせませんが、人間よりも機械の方が高いので、いつまでたっても手作業がなくならないのでしょう。


つまるところ、人間の価値(労働賃金)が低くされていることが問題の根本であって、農業の女性化が進んでいるという理由も、男性よりも女性の方が安い労働力として扱われているからです。

SDGsは、世界中の誰もが健康的な生活を送り、教育を受けることができるようにすることを目標にしています。

気候変動への取り組みは喫緊の課題ですが、それは目的ではなく、人々が将来世代まで安心して暮らせる環境づくりのために必要な手段です。

農業の専門家による講義を通じて、SDGsでもっとも重要なのは、人権問題なのだな、と感じたのでした。


Week 1 修了
Week 1は次のような構成でした。


講義1(動画)A history of sustainable development

講義2(動画)How do we measure progress?

講義3(動画)SDG Interactions – One for All and All for One!


学習用教材1 UN websiteで17の目標と169のターゲット、230の指標を学習する

学習用教材2 A Guide to SDG Interactions: from Science to Implementation, International Council for Science (ICSU), Paris, 2017

→Executive summary, pp. 7-17

→Introduction: A Framework For Understanding Sustainable Development Goal Interactions, pp. 18-30

追加資料 The Brundtland Report, 1987


テスト


ディスカッションプロンプト

Which SDGs do you think your country is farthest along with and where are its greatest challenges?

How could these challenges be addressed?



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講義動画は音声が英語で、英語字幕があります。字幕はアラビア語、フランス語、ポルトガル語など複数の言語に対応していますが、日本語はありません。


わたしはこの講義を受けるまで、SDGsに17の目標があることは知っていましたが、サブゴールとして169ものターゲットがあり、進捗状況を測る指標が230も設定されているとは、知りませんでした。

学習教材として指定されていた国連のウェブサイトは英語なので、ターゲットと指標を訳しながら全部読んでいたら、一週間以上かかってしまいます。

外務省が日本語訳してくれた「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(外務省仮訳)を見つけて、だいぶ学習が進みました。外務省さん、ありがとうございます。こちらは、169あるターゲットまで訳されています。指標については国連のウェブサイトを読むしかありません。


もう一つの学習教材、ICSUの報告書「SDG相互作用のガイド:科学から実装まで」(2017年)は全239頁もあり、もちろん英語です。教材指定は7-17頁と18-30頁です。こちらは日本語訳は見つかりませんでしたので、自分で訳しながら読みました。



理解度テストは、全問正解できて成績評価100%でしたので、無事にWeek 1を修了することができました!

倫理規定があって、内容についてご紹介することはできませんが、質問と回答は英語です。

講義の専門家インタビューを聞き流していると正答できないので、しっかり理解してから、テストを受けることをおすすめします。



ディスカッションは、「あなたの国がSDGsで最も進んでいるのは何か? また最も課題であるのは何か?」という問いかけについて、世界の受講生がそれぞれの意見を投稿していました。

資料として、Sustainable Development Report 2021が提示されていたので、わたしも日本のSDGs達成順位と目標別の達成度合いについて読んで、意見を書き込みました。

2021年の日本の達成順位は世界18位でした。日本で達成されているのは、目標4(教育)、目標6(安全な水とトイレ)、目標8(働きがいと経済成長)、目標9(産業とイノベーション)です。

一方、達成度が低いのは、目標5(ジェンダー平等)、目標10(格差の解消)、目標13(気候変動対策)、目標14(海の豊かさ)です。


他の受講生の投稿をざっと読んでみたところ、インドの受講生はランクが117位から120位に下がったこと、飢餓ゼロ、健康と福祉、男女平等、持続可能な都市とコミュニティなど11のSDGsで大きな課題があることを書いていました。

ガーナの受講生は気候変動の課題について、マレーシアの受講生は生物多様性の課題について書いていました。

サウジアラビアの受講生は、陸域生態系の保護と回復、持続可能な利用の促進、森林の持続可能な管理、砂漠化との戦い、土地の劣化の阻止と回復、生物多様性の損失の阻止を課題として挙げていました。


ディスカッションを少し読んだだけで、こんなに世界中の学生がこの講義を同時に受けていることが分かって、うれしい気持ちになりました!

そして、SDGsは世界共通の目標であっても、その達成は地域ごとに異なり、地域ごとに異なるアプローチで課題に取り組む必要があるのだな、とあらためて感じました。


Week 1:SDG Interactions – One for All and All for One!
SDG Interactions – One for All and All for One!

(持続可能な目標の相互作用)


2030アジェンダの採択以来、SDGsの17の目標(169のターゲット)を相互にマッピングする研究が行われている。

最近、国際科学評議会(ICSU)が4つの目標間の相互作用を考慮した研究を行った。

目標2の「飢餓ゼロ」、目標3の「健康と福祉」、目標7の「安価でクリーンなエネルギー」、目標14の「海洋資源」という4つの目標の間には相互作用がある。これらの目標と他の目標の間にも、さらに無数の相互作用が存在する。


企業やその他の組織は、17ある目標の中から自分たちの製品や活動に最も関連があるものを選び出す傾向がある。ほとんどの場合は、自分たちの活動がポジティブな貢献をするものを選ぶが、一部の目標しか考慮していないため、異なる目標に対してはネガティブな影響を及ぼす可能性がある。

各国には、農業、健康、エネルギーなど、さまざまな部門を担当する省庁があり、法律はこれらの異なるセクター、またはシステムに関して作られる。そのため、SDGsを日常の意思決定と関連づけることが難しい。

異なるSDGs間の相互作用にはネガティブなものもあればポジティブなものもある。

SDGs全体に対して、プラスの相互作用を利用すると同時に、マイナスの影響を減らす努力をしなければ、持続可能な開発を達成することはできない。



専門家インタビュー

Bruce Campbell

国際農業研究協議グループ(CGIAR)の気候変動・農業・食料安全保障研究プログラムのディレクター

(CGIARとは、国際農業研究センターを束ねるグローバルなパートナーシップ。1971年に設立され、51年間活動を続けている。農村部の貧困を減らし、食料安全保障を高め、人々の健康と栄養を改善し、天然資源の持続可能な管理を行うことを目的としてる)


Q:食糧生産は人々が生存するために不可欠なものだが、目標3の健康以外に、SDGsとどのような相互作用があるのか?


A:まず第一に、貧困の撲滅である。農業開発は目標2の貧困削減の重要な部分を占めている。

また、目標6の水の問題にも関連している。農業は現在、地球の水資源(使用可能な水)の70%を使用している。

さらに、農業生産は、目標15の生物多様性の変化や目標13の気候変動の主な原因となっている。

水、生物多様性、気候変動は農業生産に関連する大きな問題だが、それ以外の問題にも関連性がある。例えば、目標5のジェンダーの問題である。発展途上国では、農業の大規模なfeminization(女性化)が進んでいる。つまり、男性よりも多くの女性が農業に従事しているのだ。そのため、農業開発においてもエンパワーメントアプローチが必要である。

このように、農業生産は、ほぼすべてのSDGsとの関連性を見出すことができる。


Q:SDGsはグローバルなビジョンだが、ローカルレベルでは異なる展開になる。同じ目標を達成するために、地域ごとにどのようなレバレッジをかけるか?


A:農家の畑から国レベルの政策、世界レベルの政策まで、あらゆるスケールで取り組む必要があり、それらすべてが一体とならなければならない。本当の解決策は、国や農場といったランドスケープレベルにあるのだ。

例えば、ガーナでは、農家に携帯電話を提供し、誰もがアクセスできるようにすることが解決策になるかもしれない。携帯電話があれば、次の季節の気候情報を入手し、どの種を栽培すればよいかを知ることができる。携帯電話で保険に加入することは、すでに世界のいくつかの地域で行われている。地域によっては肥料をより多く使うこと、それは別の地域ではより少なく使う実験もしている。

このように、解決策というのは非常に文脈に依存するものなのだ。トレードオフを地域レベルで理解し、解決策を地域レベルで対処する必要がある。


Q:食生活や文化についてはどう? 肉食を控えるべきだとよく言われているが。


A:世界のある地域では、肉食は健康問題と強い結びつきがあり、家畜が地球環境への悪影響の多くを引き起こしている。

しかし、別の地域では、人々は年に3、4回、儀式で肉を食べるだけである。彼らの食文化では過剰な消費は絶対にないし、畜産に依存した生活をしている。そのため、畜産をなくすことはできない。貧困問題に大きな影響を与えることになるからだ。


Q:持続可能な開発を行いながら、90億から100億の人々を養うことができると本当に信じているか?


A:本当にそれが可能だと信じている。まず第一に、多くの発展途上国における生産量は潜在的な可能性を大きく下回っている。食糧生産量を増やすことは可能だが、sustainable intensification(持続可能な集約化)によって行う必要がある。


Q:目標14と15、海と陸の生物多様性についてはどうか?


A:農業は生物多様性に大きな影響を及ぼしている。陸上では、世界の森林減少の70%以上を占め、地球上の土地被覆変化の主な要因となっている。

私たちの多くは、その解決策としてsustainable intensification(持続可能な集約化)を考えている。このアプローチでは、基本的に、より少ないインプットでより多くの生産を行うことができる。森林ガバナンスを改善し、改良農業が森林地帯に広がらないようにする必要がある。


Q:森林破壊の70%は農業が原因だと言ったが、水についてはどうか?


A:農業は、現在使用されている淡水の70%を占めている。さらに、水系に肥料や窒素を投入し、世界の一部の湖では、大規模な腐敗を引き起こしている。肥料は強力な温室効果ガスにもなり得るので、その問題にも関連している。

農業の集約化とより的を絞った肥料の使用によって、これらの問題のいくつかを解決することができる。例えば、中国では肥料使用に対する補助金があるが、実際には肥料を過剰に使用している。肥料使用をたった5%下げるだけで、同じ量の生産、つまり食糧生産を維持することができるのだ。中国では、15億ドルの補助金を削減することができる。

言い換えれば、金融システムと環境システムとの間で、何年にもわたってトレードオフが行われてきたのである。


Q:つまり、経済的なインセンティブを実際に使って、農業に必要な変化をもたらそうということか?


A:その通り。例えば、補助金制度があるが、気候的にも環境的にもあまり賢明ではなく、撤廃されるべきものが多い。補助金であることに変わりはないが、より適切な配置にすることができるだろう。マイクロクレジットのパフォーマンスを向上させることもできる。保険制度を推進することもできるかもしれない。


Q:つまり、突き詰めれば、農業システムを変えない限り、持続可能な開発は不可能だということか?


A:それは間違いない。そのため、10年以内に農業システムを大きく変え、まったく異なる形態の農業に転換しなければならない。


Q:気候変動問題に対応するためには、エネルギーシステムを抜本的に変える必要があることを誰もが知っていることだ。しかし、農業のシステムも変える必要があることを知っている人はほとんどいない。なぜなのか?


A:それはとても残念なことだ。気候に依存しているため、気候変動によって最も影響を受けるのは農業である。農業は温室効果ガス排出量の30%を占めているのだから、それに対処しなければならない。

例えば、米の農家は、航空産業と同じ温室効果ガスの排出量を出している。航空業界は気候変動に対してある程度真剣に取り組んでいるようだが、米の農家はそうではない。例えば、5億人の小規模で高齢の農家である。小さな土地を持つ多くの人々を相手にしている。

民間でこの問題に対処するアプローチのひとつに、大企業がある。例えば、ケロッグ社は米の生産にとても興味を示している。この業界では大きなプレーヤーになる可能性がある。彼らは、ビジネスのやり方を変えようとする点で、多くのリーダーシップを発揮している。



(Katherine Richardson教授のまとめ)

SDGsは世界共通の目標だが、その達成は地域レベルで異なっている。食糧システムの持続可能な変革には地域ごとに異なるアプローチを使うことが必要だ。

社会にとって重要なエネルギー、輸送、市場などのシステムはすべて、SDGsのすべてとは言わないまでも、そのほとんどと相互作用があり、地域によってその展開が異なる。

つまり、SDGsはすべて相互に関連しており、三銃士の精神(全ては一人のために、一人は皆のために)で考える必要がある。そのようにして初めて、私たちが暮らす世界の実際のシステムの文脈の中で思考し、規制し始めることができる。


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ロシア文学が大好きです。 2012年2月からロシア語を勉強しています。

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