このアルバムに言葉はいらない
Sigur Rós(シガー・ロス)はアイスランドを代表するバンドです。
1994年、レイキャヴィークにて結成。

わたしが一番好きなアルバムは、こちらの『 ( ) 』。
Untitled(無題)などと呼ばれています。
2002年にリリースされた、三番目のアルバムです。
なんと昨年の2022年、このアルバムが20周年記念としてリマスター盤がリリースされました!!
『( )』は、8つの無題のトラックによって構成されています。
8つの楽曲は36秒間の無音によって前半と後半に分けられ、レコードの表面・裏面をイメージさせます。
前半4つはより明るく、後半4つはより憂鬱。
全体にギターよりもキーボードに重点が置かれ、ヴォーカルであるJónsi(ヨンシー)の中性的な歌声がサンプリングされています。
歌詞が聴き取れないからって、臆病になる必要はありません。
ヨンシーは、意味のない単語と音節で構成された人工言語"Vonlenska"(Hopelandic)で歌っているのです!!
アイスランド国内のファンにとっても、日本人のファンにとっても、全く同じ意味不明の歌なんです。
シガー・ロスの公式発表によると、「You xylo。You xylo no fi lo。You so ..」という11音節で1つのフレーズから構成されていて、このフレーズの繰り返しやアレンジが歌われているそうです。
この言語は「音楽にフィットする意味不明なボーカルの形」だそうで、ヴォカリーズと同じと考えれば分かりやすいでしょう。
アルバム『Von』と『Takk ...』の一部でもこの言語で歌われています。
シガー・ロスの音楽的特色は、このヨンシーの歌声と、ヴァイオリンの弓でエレキギターを弾く独特な奏法、幻想的なキーボード。
さらに、シガー・ロスの音楽には欠かせないのは、弦楽アンサンブルであるAmiina(アミナ)の存在です。
アミナの演奏者は、María Huld Markan(ヴァイオリン)、Edda Rún Ólafsdóttirviolin(ヴァイオリン)、Ólöf Júlía Kjartansdóttir(ヴィオラ)、Sólrún Sumarliðadóttir(チェロ)。
(現在は男性2人が加わり男女混成6人組となっていますが、2002年当時は女性だけでした)
男性バンドであるシガー・ロスと、女性アンサンブルであるアミナの合奏によって、彼らの奥深い調和的な音楽が成り立っているのです。
このアルバムでわたしが最も好きな曲は、最初のUntitled #1("Vaka")です。
澄んだ美しいピアノのメロディーに、静謐な弦楽器とオルガンの通奏低音が重なり、電子音とギターのノイズが浮遊感を与え、ヨンシーの煌めくような高音が調和します。
この楽曲のミュージックビデオは、2003年にMTVヨーロッパ・ミュージック・アワードの最優秀ビデオ賞を受賞しました。
『 ( ) 』は無題のアルバムであり、トラックも全て無題で、聴き手が自分で曲名を思い浮かべることが出来ます。
このような手法は、モンドリアンのコンポジションなど抽象絵画を思い起こさせますね。
またアルバムの前半と後半を分ける36秒間の無音は、ジョン・ケージの「4分33秒」を思い起こさせます。
本盤はグラミー賞にノミネートされるなど、その芸術性を高く評価されました。
『( )』の楽曲は、映画やドラマ、舞台のBGMとしてたびたび使われているので、思いがけないところで耳にすると嬉しくなりますね!