Week 2:学習教材 要点④
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017)
4 生物圏の完全性の変化
Rockströmら(2009a)は、九つの惑星限界(PB)の一つとして “rate of biodiversity loss”(生物多様性の損失率)を設定していた。
Steffenら(2015)はこれを“change in biosphere integrity”(生物圏の完全性の変化)に変更し、遺伝的多様性と機能的多様性の両方を網羅することによって、人間活動が生物圏に与える影響をより反映しようとした。
遺伝的多様性はextinction rates(絶滅率)によって、機能的多様性はthe biodiversity intactness index (BII)(生物多様性無損傷指数)によって測定される。
地球上には約500±300万種の生物が存在し、現在のモデルでは10年当たり5%未満の絶滅率を予測しているが、気候変動が絶滅に与える影響は不確実である(Costello 2013)。
Steffenら(2015)は、遺伝的多様性の損失を測定するための指標として、100万種あたり・1年あたりの平均絶滅数(E/MSY)を設定しているが、測定が難しく、どうしてもタイムラグがあるとの批判がある。
10年当たり5%の絶滅率は破滅的とは言えないが、Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYという「願望的」なものと、10E/MSYというより現実的なものとを提案している。
化石記録における海洋生物の過去の平均絶滅率は、0.1~1E/MSYであると推定される。
しかし、現在では100E/MSY以上と考えられ、将来的には1000-10000E/MSYで消失すると予測されている。
機能的多様性は、地球システム機能における生物圏の全体的な役割を示すものである。
Steffenら(2015)は、機能的多様性のPBとしてBII90%を提案した。
Newboldら(2016)は、世界の地表の58%において、すでにPBを越えてBIIが減少していると推定している。
遺伝的多様性と機能的多様性の両方の損失が、土地システムの変化によって引き起こされることを考えると、生物圏の完全性PBの状態における農業の役割は80%である。
農業は、生物圏の完全性をPBを越えてシフトさせた。
生物多様性の損失は生息地の面積だけの関数ではなく、生物圏の完全性は遺伝的多様性よりも機能的多様性と関係があるかもしれない(Steffen 2015)。
世界の森林は、インフラへの投資の大幅な拡大により急速に分断されており、農業は新しい景観の重要な構成要素となっている(Sloan and Sayer 2015)。
Development corridors(開発回廊)は、途上国の農業をより高いレベルの生産性に転換させる方法と考えられている。
これらの開発回廊は、特に熱帯地方において、既存の森林を大きく分断し、占有する危険性があり、生物圏の完全性に悲惨な結果をもたらす可能性がある(Laurance 2015)。
気候変動と生息地の断片化は、外来侵入種の自然生息地への拡散をかつてないレベルで促進し、生物多様性と生態系機能に対して憂慮すべき結果をもたらしている。
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【メモ】
the average number of extinctions per million species-years (E/MSY)
100万種あたりの年間の平均絶滅数
化石記録から推定される過去の海洋生物の年平均絶滅数は、0.1~1E/MSYなので、100万種あたり0.1種から1種であった。
現在では100E/MSYなので、1年間に100万種あたり100種が絶滅している。そして将来的には1000-10000E/MSY、すなわち100万種あたり年間で1000種から10000種が絶滅すると推定されている。
地球上には約500±300万種が生息しているので、そのうち1年間に約500±300種が絶滅している計算となる。
生物多様性科学において、「地球上の生物は6回目の大量絶滅に突入しているか、すでに突入している」と言われているのが、うなずける数字である。
Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYすなわち1年間に100万種あたり1種の絶滅にとどめるのが理想だが、それはもはや現実的ではないため、せめて10E/MSYすなわち1年間に100万種あたり10種の絶滅におさえることを提案している。