"The Sustainable Development Goals"講義ノート

Week 2:学習教材 要点⑧

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


8 大気エアロゾル負荷

大気中のエアロゾルは、人間の健康に有害であり、気候に影響を与える(Ramanathan 2007)。

エアロゾルであるブラックカーボンの排出は、二酸化炭素の排出に次いで、地球温暖化の原因となる(Bond 2013)。

作物残渣燃焼は、世界的に重要な大気エアロゾルの発生源である(van der Werf 2010)が、その正確な数値についてはほとんど研究されていない。

ブラックカーボンと有機炭素の人為的排出の割合は約3~14%とされている(Bond 2013)。


大気エアロゾル負荷の惑星限界(PB)は、エアロゾル光学深度(AOD)が使用されている。

AODは地球の表面で非常に変化しやすいため、地球規模のPBは設定されていない。

Steffenら(2015)は、モンスーンに影響を与える、インド亜大陸上のPBを設定した。

インド亜大陸上のAODは約0.15(Chin 2014)であり、PBは0.3(Steffen 2015)に設定されている。

しかし、AODは強い季節性と空間的な不均質性を持っており、インド・ガンジス平原では乾季に1.0に近い値が日常的に観測される。


エアロゾルは、ほぼすべての排出が地表に由来するため、地表の小さな粒子状物質(PM)とも相関がある。

年間平均の人口加重PM曝露量は、ブラックカーボンおよび有機炭素が約38%、アンモニアが約11%である(Shindell 2015)。

農業燃焼による排出が世界のPMの約3%、肥料の生産と使用による排出が約11%を占めており、農業関連の排出は一部の人口密集地ではPMの主要な発生源となっている(Bauer 2016)。

Global Burden of Disease(グローバル疾病負荷)は、毎年約320万人の早死がPMに起因すると推定している(Lim 2012)。

この分析及びLelieveldら(2015)の研究に基づくと、大気エアロゾル負荷に対する農業の寄与は、毎年45万~66万人の早死をもたらす可能性がある。


農業は大気エアロゾル負荷に大きく寄与しており、AODのPBは汚染地域で定期的に(季節的に)超過しており、人間の健康に極めて有害な影響を及ぼしている。

農業廃棄物の野外焼却を禁止し、肥料をより効率的に使用することは、実質的な利益につながる。




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【メモ】

炭素成分は、無機炭素と有機炭素に大きく分けられる。

無機炭素は、元素状炭素と炭酸塩炭素からなる。


black carbon(ブラックカーボン、黒色炭素)

元素状炭素は、炭化水素が高温で不完全燃焼する際などに生成する。

元素状炭素は人間の目には黒く見え、光を吸収することから黒色炭素(ブラック・カーボン)と呼ばれる。

ブラックカーボンは、エアロゾル(大気中を浮遊する微小粒子)の成分の一つで、ディーゼルエンジンの排気ガス、石炭の燃焼、森林火災、バイオマス燃料の燃焼など、炭素を主成分とする燃料を燃焼した際に発生する。

大気汚染物質であるだけでなく、太陽光を吸収する性質があるため、大気を加熱したり、積雪や海氷面に沈着して太陽光の反射率を下げ、氷の融解を促進することで、温室効果を有し、気候変動を加速させる。

2020年9月13日に北極海の海氷面積が観測史上2番目の小ささになっており、ブラックカーボンによって氷の融解が進行した可能性が考えられている。(日本の国立極地研究所と宇宙航空研究開発機構の調査による)



organic carbon(有機炭素)

有機炭素は、有機物に含まれる炭素のこと。

有機炭素の発生源から直接排出される一次生成粒子だけでなく、大気中で反応したり、浮遊している別の粒子に吸着してできる二次生成粒子もある。

一次生成粒子には、元素状炭素と共存してボイラーやエンジンから排出される粒子や、森林火災の煙のような有機炭素などがある。

代表的な物質には、多環芳香族炭化水素とそのニトロ化誘導体、半揮発性の鎖状炭化水素などがある。

二次生成粒子には、自動車の排気ガスに含まれる炭化水素が光化学反応により粒子となるものがあり、これが光化学スモッグを構成するものの一つである。

代表的な物質には、カルボン酸や芳香族カルボン酸などがある。



大気汚染の人体への影響

WHOの「PMに関する大気質ガイドライン」によれば、PM10の曝露量の閾値(それ以下なら健康に影響がないとみなされる下限値)は1立方メートル当たり年平均で20マイクログラム、PM2.5の場合は年平均で10マイクログラム。

WHOは、PM10とPM2.5の質量濃度を健康リスクの指標として用いることを提案している。

大気汚染が健康にどのように影響をおよぼすかは、これらの汚染物質に対する感度と曝露量(どれだけ長く曝されていたか)によって決まる。

疫学的研究によれば、大気中のPM濃度の増加と、心臓血管系及び呼吸器系疾患の罹病率の増加や早期死亡率の増加は有意な相関関係があるとされる。


2022/06/09 22:06

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