老病猫ホーム

最近、叔母から相談を受けて、有料老猫ホームの存在を知りました。


有料老人ホームではなく、有料老猫ホームってなに?


叔母は今、二頭の猫さんと一緒にひとりで暮らしています。

夫はすでに亡くなっていて、子どもはいません。

姪であるわたしが唯一の相続人、叔母に何かあった時にすべての面倒をみる約束になっています。


その叔母が「自分が死んだら、猫たちはどうなるのか」ということを非常に心配して、思い悩んでいます。

叔母が急にそんなことを言い出したのは、わたしの母(叔母にとっては姉)の急死がきっかけです。


わたしの亡母は、遺伝性の病気が原因で腎不全となり、50歳から人工透析療法を受けていました。

この病気には心臓弁膜症と脳動脈瘤の合併症があります。

母は心臓の手術を乗り越え、脳の方も早期治療とリハビリのおかげで、支障なく日常生活ができるほど回復していました。

この遺伝性の病気とは別に、母の場合は40代の頃に乳がんの手術も受けていました。

本当に病気と闘い続けた人生だったと思います。


叔母も母と同じ遺伝性の病気が原因で、人工透析療法を受けています。

今年になって、わたし自身も母と叔母と同じ遺伝性の病気を発症していると分かりました。

なので、叔母が母の急死にすごくショックを受けて、「自分もいつ死ぬか」と不安になる気持ちはよく分かります。


もちろん、叔母の一番の願いは、自分が責任を持って最後まで猫たちの面倒をみることです。

しかし、叔母が入院するなどして、猫たちの世話ができなくなる事態というのは、突然訪れる可能性があります。

万が一のことを考えて、あらかじめ準備しておくというのは、悪いことではないと思います。


叔母が考えたのは、終生飼養(終生あずかり)をしてくれる有料老病猫ホームに費用を支払ってお願いするという案です。

今回、わたしも初めて知ったのですが、有料老人ホームのように、有料の老猫・老犬ホームというのがあります。

そのなかでも、特別なケアを必要とする猫を受け入れてくれる、老病猫ホームというのがあるのです。

資料を取り寄せたところ、入居時の費用が100万~200万ほどかかるそうです。

わたしは今まで一度も猫を飼ったことがないので、この金額が正当な対価なのか(あるいは安すぎるのか高すぎるのか)全く分かりません。



そこで、老病猫ホームにアポをとり、施設を見学させてもらえることになりました。

夫に運転してもらって教えられた住所に向かうと、自然に囲まれた郊外の住宅地の一角にある、ごく普通の一軒家でした。

大きな看板などもないので、職員さんが出迎えてくれなければ、素通りしてしまいそうです。

(落ち着いた環境で猫たちが暮らすことを目的とする施設なので、猫カフェのように一般公開していません)


実際に猫たちの暮らしぶりを見て、館長さんと職員さんから詳しいお話をお聞きし、ホームに入居するということの具体的なイメージが持てるようになりました。


まず、猫たちにはそれぞれの個室(床から天井までの縦長ケージ)があります。

足が悪いため、縦長ではなく横長のケージで暮らしている猫さんもいます。

ケージの扉は常時開放されていて、ケージ内でじっとしている猫さんもいれば、自由に歩き回ったり、お昼寝している猫さんたちもいました。

(じっとしていたのは、わたしたち見知らぬ人間が来たことで、警戒していたからかもしれませんね)

常駐するスタッフは、館長さんと職員さんの二人だけで、施設内の掃除・食器洗い・消毒などを手伝ってくれるボランティアスタッフさんが日替わりで来られるそうです。



わたしから館長さんたちに質問したことは、健康管理(主に食事)についてです。

叔母の猫たちは、獣医師さんの処方により、ヒルズ社の特別療法食を与えているそうなのです。

食物アレルギー(食物不耐性)対応の療法食でなければ、下痢がつづくのだとか。

ただ、この特別療法食なるものは、動物病院から買わなければいけないので、はっきり言ってお高いです。

叔母が心配していたのは、そんなお金のかかる食事をホーム入居後も与え続けてくれるかどうか、ということでした。



このホームを運営する団体は、飼い主のいない猫の保護と里親探しの活動を行っている認定NPOです。

譲渡につながりやすいのは、若くて健康な猫たち。

一方で、野良生活や飼育放棄の現場から保護されるのは、病気や障がいなどのハンディを背負った猫たちが多い。


そういった活動の積み重ねから、一時的なシェルターだけでなく、高齢の猫や病気の猫の終生飼養を目的とするホームができたのだそうです。

そのため、有料の「終生あずかり」で入居している猫というのは思っていたよりも少なく、里親を探している猫たちがほとんどでした。


わたしも見学して初めて知ったのですが、このホームではFIV(猫エイズ)キャリアの猫たちも同じ屋根の下で暮らしていて、キャリアの猫たちと、ノンキャリアの猫たちは、居住区を完全に分けて生活していました。


近年、団体の活動に賛同してくれる獣医師さんが見つかり、直営の診療所(スペイクリニック)の開設まで至ったのだそうです。

レスキュー対応も行うシェルター付き保護猫医療施設なのだとか。


ホームにも、獣医師さんと動物看護師さんが定期往診してくれるとのことで、入居後も継続した栄養指導や必要に応じた治療が受けられるというお話を聞き、叔母さんが心配していた食事問題はおまかせして大丈夫そうです。


そしてもし入居するとなれば、スムーズに治療の引継ぎができるよう、かかりつけ医から紹介状(診療情報提供書)を出してもらう必要があるということを教えてもらいました。




今回、老病猫ホームの見学をさせてもらい、館長さんと職員さんからお話をお聞きし、学ぶことがたくさんありました。

資料に提示されていた100万円という入居費は、決して高いものではないと感じます。

館長さんは、わたしと同世代(わたしよりちょっと年上)のかたで、労働時間を考えると、対価が見合わないのでは、思ってしまいました。

こういうボランティアのかたちもあるのだな、と初めて知ることばかりでした。


そして、わたし自身、もっと叔母と話をして、猫たちについて情報共有する必要があるな、と思いました。

これは叔母が元気なうちでなければ、できないことです。


もし母と同じように、叔母の容態が急変する事態になったら、わたしが猫たちの一時あずかりをすることになるはずです。

(さいわいにも、今年引っ越したマンションはペット可だそうです)

特別療法食を与えていることも、今回話し合って初めて知ったので、もし知らないままだったら、悪気なく市販のフードを与えて、猫たちの健康状態を悪化させていたに違いありません。

叔母の猫たちのかかりつけ医がどこなのかも、いずれ聞いておかなければいけないですね。


叔母には、母よりも長生きしてほしいと願っています。

「自分が死んだら」とばかり思いつめていないで、前向きになってほしいです。


2022/11/27 21:55

術後の話②

先週末、手術から2週間経ち、退院後初めての外来診察へ行ってきました。


今回の手術で執刀してくださった婦人科の主治医の先生の実況解説を聞きながら、実際の手術の動画を見ました。

(全部見ると3時間半かかるので、ダイジェストで)

本物の手術の映像を見たのは、初めてです!!

日頃から、医療ドラマなどそれほど見たことがなかったので、衝撃的でした。


まず最初に卵巣嚢腫の病理検査の結果を聞き……


婦人科の先生「脂肪や軟骨や髪の毛とかが入った腫瘍です」

わたし「は? 髪の毛??? どうして卵巣にそんなのがあるんですか??」

先生「卵は人の体になるものだからね」


核出した嚢腫の内部には、脂肪や軟骨や甲状腺や髪の毛などの細胞組織が含まれていたそうです。


これは卵巣嚢腫の中でも皮様嚢腫と呼ばれるものなのだとか。

原因はわかっていませんが、受精していないのになぜか卵子の細胞分裂が起きて途中で停止したため、中途半端にできた人の体の成分がたまって腫瘍化すると考えられているそうです。



今週、腎臓内科の外来診察にも行ってきました。

腎臓内科の主治医は、電子カルテで手術と病理検査の結果を見ながら……


腎臓内科の先生「手術おつかれさまでした」

わたし「髪の毛とかが入った腫瘍だったんですよ」

先生「ブラック・ジャックのピノコちゃんですよ。この病気を拡大解釈してファンタジーにしたのが、ピノコちゃん」

わたし「ピノコちゃんの元ネタってこれだったんですか!?」


実際の皮様嚢腫には人の体のすべての組織が入っているわけではないので、嚢腫から人体を組み立てるというのはファンタジーですが、ピノコのアイディアの元ネタとなった病気がわたしのお腹のなかにあったとは、本当に驚きです。


人体って精密すぎるから、こんな不思議な誤作動が起こるものなのでしょうか。




婦人科の先生の手術動画実況の話に戻ると、5センチ大の腫瘍だけを取り除いて(核出)、正常な卵巣を温存してくださいました。

映像で見ると、正常な部分が腫瘍に押しつぶされて、ぴろぴろのひものようになっていました。

先生によると、このひも状のものが時間をかけて正常な大きさ(2センチ程度の球状)に戻っていくのだそうです。

人体の回復力ってすごいですよね。


そして、鼠径ヘルニアではなく「謎の物体」と言われていた鼠径部のしこりは、病理検査の結果、子宮内膜症でした。

外科の先生の見立てが正しかったです。



今年7月頃、婦人科の先生からの紹介で、同じ病院の外科へ行くことになり、その最初の診察の時に……


外科の先生「(触診して)腸じゃないですね!」

わたし「ええ!?」

先生「腸はこんなにかたくないです」

わたし「腸じゃないなら、なんなんですか!?」

先生「謎の物体です」


わたしの外科の主治医は消化器外科の専門医だそうです。

触診しただけで即座に言い当てるとは、今まで10年以上、鼠径ヘルニアだと信じてきたのはなんだったんだという思いになります。




子宮内膜症は、本来子宮の内側にあるべき子宮内膜の細胞組織が、子宮の内側以外の臓器にできてしまい、増殖と炎症を繰り返す病気だそうです。


そう言われてみると、鼠径部のしこりが痛む時は月経周期と連動していました。

月経血が出る前、前日あたりから痛み始め、月経の間は痛み止めを服用していても、強い痛みを感じました。

これはおかしい、そんなわけないと、もっと疑いをもつべきでした。

月経痛はあって当たり前、生理は痛いもの、という間違った思い込みがあるせいで、自分が月経困難症である自覚が無い女性が少なくないのではないかと思います。



婦人科の先生の説明によると、子宮以外の臓器にできた子宮内膜症の組織は、自分が子宮だと勘違いしているため、月経の時に子宮と同じように出血するのだそうです。


わたしの場合は鼠径部に子宮内膜症ができていましたが、子宮内膜症は体のどの臓器にもできる可能性があり、肺にできた患者さんは月経のたびに血を吐くのだとか。


わたし「全身どこの臓器にもできるって、ガンじゃないんですか」

婦人科の先生「ガンみたいですけど、ガンじゃないです」

わたし「子宮内膜症の原因は何なんですか?」

先生「生理の血がお腹に逆流するためという説があります」


子宮内膜症の発症原因は、はっきりしていないそうですが、月経血がお腹のなかに逆流し、そこに子宮内膜組織がとどまるという説が有力なのだとか。


婦人科の先生「子宮内膜症が鼠径部だけでなく、子宮まわりにもありました」

わたし「子宮まわりにあるとどうなるんですか」

先生「(動画を一時停止しながら)子宮と卵巣と腸が癒着していました」

わたし「ええ!? ちょっとだけですか?」

先生「ちょっと以上ですね」


わたしの子宮内膜症は、外科の先生が切除してメッシュで修復してくださった場所だけでなく、子宮まわりのあちこちにあったそうです。


婦人科の先生は、「卵巣嚢腫と子宮内膜症は発症原因が異なる全く別々の病気」だと強調していましたが、結果的に子宮と卵巣と腸が癒着が起きてしまっていたのです。

映像を見ると、癒着した腸と子宮と卵巣を剥して、卵巣の嚢腫だけを核出したあと、全体を癒着防止シートで覆っていました。


子宮内膜症というのは完全に除去できるわけではなく、閉経までは月経のたびに悪化していくのだそうです。

また別の場所に同じようなしこりができる可能性が十分にあるとのことでした。


それで今後は、子宮内膜症を悪化させないためのホルモン療法を行うことにしました。

ジエノゲストという卵巣の機能や子宮内膜の増殖をおさえるホルモン剤を内服します。


わたし「このお薬はどんな効果があるんですか?」

婦人科の先生「排卵がなくなるので、生理が来なくなります。避妊薬ではないですよ」

わたし「妊娠を希望する時はどうするんですか?」

先生「その時はお薬をスパッとやめます」


わたしにとって、閉経とはもっとずっと先のことだと思っていました。

当面の間とは言え、こんなに早く閉経したような状態になるとは、思いもよりませんでした。

しかし、あの若い頃の誤診がなければ、もっと早期にホルモン療法を受けることができて、ここまで悪化することもなかったのではないかと思えてなりません。

返す返すも悔しいです。



もともとは、妊娠・出産したいという希望があって、腎臓内科の先生から今年6月頃に婦人科に紹介してもらったのでした。

婦人科と呼んでいますが、リプロダクティブセンターという今どきらしい名前がついていて、専門的な不妊治療を行っている科です。

それが、あれよあれよという間に手術することになり、今や排卵を止めるお薬まで飲むことになって、むしろ最初の目的から遠ざかっている気がします。



術後の外来検査では、腎機能が術前よりも低下していました。

手術の影響による一時的な低下であってほしいです。

そのため、今まで飲んでいたお薬から、腎臓保護効果のあるお薬に変えることになりましたが、このお薬も妊娠を希望する時には使えないそうです。


腎臓内科の主治医の先生とは、初診の時から妊娠を希望しているという話をしていました。

今週の外来診察で、先生は「妊娠するなと命令することは人道に反するので言えませんが、医学的見地から言って、妊娠はおすすめできません」とはっきり言いました。


妊娠を希望する場合、今使っているお薬を全部切って、妊娠中でも使えるお薬に変える必要があります。

現在のわたしのからだの状態では、仮に妊娠したとしても、出産まで耐えられないのだそうです。


せっかく妊娠できても、母体のいのちの危険があれば、母体優先の原則があるので、あかちゃんをあきらめなければいけなくなる可能性が高いのです。

あきらめないという選択をとり、自分が死んでもいいから産みたいと言っても、最終的に母子とも死んでしまうか、母体が生還しても重篤な後遺症が残り、あかちゃんは死んでしまう可能性の方が高い。

という話を主治医の先生は具体的に説明してくれて、わたしとしては薄々予想していたものの、あらためて言われてショックでした。


この問題については、これまで何度も夫と話し合っていて、40歳までは自分で産むという望みを捨てないでいようという結論(先送りとも言う)になっていました。

自分で産むことにこだわらなければ、養子という選択肢もありますし、代理母出産(1000万円~2000万円ほどらしい)という選択肢もあります。

一生、子どもを持たないという選択肢もあります。


来年、再来年のことを今ここで思い悩んでも意味がないのは分かっていますが、もやもや考えてしまいますね。


現在、術後3週間目に入り、着実に回復を感じています。

からだの内側の見えないところも回復していってほしいものです。

来週は、退院後初の外科の外来診察があります。

外科の主治医の先生には、子宮内膜症を見つけてもらって、本当に感謝しかないです。

早くお礼を言いたいです。


2022/11/19 16:54

術後の話①

13時に手術室へ入り、自分の病室へ戻ってきたのは18時半頃でした。

酸素マスクと点滴をしていて、意識はありましたが、まだ半分眠っているような状態でした。

看護師さんが「もうすぐ旦那さんが来ますからね」と声をかけてくれて、一瞬、夫が手を握ってくれたのが分かりました。


このときのわたしは、自分では目が覚めているつもりでしたが、夫から見ると、あまりに朦朧としていて、握り返す力も弱々しかったそうです。


夫は入退院の日と手術の日に休みをとって付き添ってくれたのでした。

手術が始まる1時間程から、夫は待機場所(病棟のラウンジ)でひたすら窓の外を眺めていたそうです。

時折、看護師さんが手術の経過を伝えに来たのだとか。

手術が終わった後に、外科の先生から詳しい説明を受けたそうです。

約7時間ほどラウンジで待って、ようやく顔を合わせることができたのでした。


感染症対策のため、家族でも基本的に病室には入室できず、病室での面会が許されたのはこのときだけでした。

ほとんど会えなかったのに、ずっと付き添ってくれた夫に感謝の気持ちでいっぱいです。


意識が戻ってから、まだ痛みはなく、のどの渇きだけがありました。

看護師さんに何か飲みたいとお願いすると、「まだダメですからねー」と言って、濡らしたガーゼでくちびるを湿らせてくれました。

目が覚めている気になっているだけで、実際には麻酔が抜けきっていないので、水を飲むとむせたりする恐れがあるため、飲水禁止なのでしょう。


本当にはっきり目が覚めて、水を飲む許可がでたのが22時半頃。

OS-1がめちゃくちゃおいしかったです。

自発呼吸が十分に戻ってきていたので、酸素マスクも外してもらいました。




術後1日目、痛みはありませんでしたが、吐き気に苦しめられました。

手術当日から翌朝まで絶食し、すっごくお腹が空いているのに、せっかく食べたお粥をほとんど吐いてしまい、つらかったです。

この吐き気は、点滴で入れているお薬(抗生剤と痛み止め)の副作用とのことでした。

午後になって看護師さんと一緒に立つ練習をし、ベッドから降りてほんの数歩の距離ですが、自分で歩いてトイレまで行くリハビリをしました。

自分で歩いてトイレまで行けるようになると、尿道カテーテルを抜いてもらえました。

自分でトイレに行けるって大事です。大げさな言い方かもしれませんが、人間としての尊厳が回復したような気になります。



術後2日目、点滴のお薬が終わり、内服薬の痛み止めに変わりました。

1日日に苦しめられた吐き気が嘘のように消えて、しっかり食事をとれるようになりましたが、今まで感じなかった痛みが出てきました。

日中にシャワー浴の許可が出て、術後初めてシャワーを浴びましたが、右足を少し上げようとすると、とんでもなく痛いのです。

パジャマを脱ぎ、シャワーを浴びて、下着を着がえて、再びパジャマを着て、髪を乾かすという日常の何気ない動作が、そのときのわたしには超大仕事でした。


手術部位が右卵巣と右鼠径部なので、右わき腹から下腹部、右足のつけ根にかけて痛むようでした。

お腹を壊したときや筋肉痛、月経痛とも違う、今まで一度も感じたことのない、からだの深い場所で痛みを感じました。

痛み止めを服用した上で、こんなに痛いのかとショックでした。

このときばかりは、もう足鍵盤のあるオルガン曲は弾けないかも……と弱気になっていました。



2日目の夕食後に婦人科の先生の診察があり、術後初めて透明なテープをはがして、自分の傷口を見ました。

傷口から出血したり、化膿したりということが無く、お腹の中に水が溜まっていたりすることもなかったそうで、術後3日目に退院する許可がでました!


2日目の夜中、咳きこんで目が覚めることが何度もあり、よく眠れませんでした。

これほど感染症対策をしている病棟にいて、風邪や何らかのウィルスとは思えず、なぜこれほど咳がひどいのか不思議でした。


術後3日目に夫が迎えに来てくれて、次回の外来診察の日などを約束し、退院しました。

退院当日の夜、自宅で寝ているときも咳がひどくて、なかなか寝つけません。

この咳は何なのか、加湿した方がいいのかと部屋の湿度計を見ると、特に乾燥しているわけではありません。


退院翌日に、手元の病状説明書をあれこれ読み返しながら、この咳の原因を考えてみました。

手術の前日、婦人科の先生と外科の先生と麻酔科の先生からそれぞれ説明を受け、手術に関連するたくさんの同意書に署名していたのです。

そのとき、麻酔科の先生が「風邪をひいたみたいにのどが痛くなりますが、いずれ治ります」と言っていたことを思い出しました。

これか!!

麻酔の説明書を読むと、「命には別状のない合併症」の項に「のどの痛みや声がかすれる」と確かに書いてありました。


全身麻酔で不可欠な気管挿管の影響でのどが痛くなるのだそうです。

のど風邪のような症状(咳、のどの痛み、声のかすれ)は、術後1週間経つ頃には自然に消えていました。




退院翌日は何もせず、自宅でゆっくり過ごしました。

退院翌々日(術後5日目)、デスクワークならできるだろうと思い、仕事を再開。

それが、ただイスに座ってデスクに向かっているだけで、右足が耐え難いほど痛くなってくるのです。

なぜか右足のつけ根だけでなく、右ひざが熱くなり、右ふくらはぎまでつりそうになります。


ふとももに力が入らないから、不自然に膝やふくらはぎの筋肉に力を入れることなって、連動して痛みが出るのでしょうね。

ただ座って、上体を起こした姿勢でいるだけでも、わたしたちは無意識にたくさんの筋肉を使って、バランスをとっているのだなぁと思いました。


1日3回痛み止めを内服していても、術後8日目頃までは痛みが強くて、2時間集中してデスクワークし、疲れを感じたら足を伸ばして休み、またデスクワークをするというように工夫し、日に4~5時間程度仕事をしていました。


術後2週間を過ぎると、足のつけねの痛みがだいぶ軽減し、歩行や階段の昇り降りもゆっくりとなら問題なくできるようになり、自分でも回復を感じてうれしかったです。

現在は、下腹部やわき腹の奥で痛みを感じるときだけ、その都度、痛み止めを服用するようにしています。


術後2週間が経って、退院後最初の外来診察に行ってきました。

大学病院の帰りに薬局に行き、ついでに郵便局とスーパーにも足を伸ばして、退院後では一番長い距離を歩き回って疲れたせいか、最近ではめったになかったほどの痛みが出てきて、帰る頃にはもう一歩も歩けないというほどの疲労困憊でした。


いやー、回復したからと油断して疲れすぎると、これほど痛みがぶり返すのだと痛感したので、日々の生活でもなるべく疲れをためないよう注意しなければ、と思いました。


2022/11/13 20:33

手術の話

手術が問題なく終わり、無事に退院できました!


いま、下腹部と鼠径部に1センチから1.5センチ程度の切開傷跡が計7か所あり、おへそからも器具を入れたので、おへその切開傷跡も目立ちます。



わたしが受けたのは、腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術と腹腔鏡下ヘルニア修復術という二つの手術で、婦人科と外科の合同チームで施術してくださいました。

まず婦人科の先生が右卵巣の5センチくらいの嚢腫を摘出(核出)します。

(正常な卵巣の大きさは2センチ程度らしく、わたし自身、病状説明のときにMRI画像を見てその大きさに仰天しました。)


卵巣の手術終了後、すぐに外科の先生へバトンタッチ。

外科の先生が右鼠径部の腫瘤を切除し、切除すると筋肉が弱くなるため、筋肉の内側にメッシュと呼ばれる医療用合成繊維を入れてふさぎます。

この人工物、メッシュは一生入れたままとなります。



鼠径部のしこりはずいぶん前から自覚症状があったもので、定期的に痛みも感じていました。

わたしはこれを鼠径ヘルニアだと信じて疑わなかったのですが、今年になって鼠径ヘルニアではない、全く違う病気だということが明らかになったのです。


初めてしこりに気づいた学生の頃のわたしは、小奇麗なレディースクリニックに行き、そこの院長から「鼠径ヘルニア、いわゆる脱腸ですね。押さえていればひっこみます」と言われ、以来ずっとその言葉を信じていたのでした。

あの時の医師、名前も覚えていませんが、実は完全な誤診だったのです!



今回の手術で執刀してくださった、大学病院の外科の先生によると、わたしの鼠径部のしこりは腸との連続性が無く、謎の物体なのだそうです。

考えられる仮説が三つあり、そのうち最有力なのは異所性子宮内膜症。

またまた思いもかけない病名が飛び出てきました。

外科の外来診察で病名を初めて聞いたとき、意味がわかりませんでした。

「異所性」って脳内で正しく漢字変換できませんでしたし。

本来の子宮とは全く関係ない場所(異所性)で、子宮内膜の細胞が炎症を起こしているって、どういうことなんでしょうか??


日本産婦人科学会の説明によると、子宮内膜症は「痛み」と「不妊」の原因となるそうです。

もし子宮内膜症だとすると、自覚症状が出てすぐレディースクリニックを受診した判断は正しかったのに、クリニックの医師の誤診によって、適切な治療を受ける機会を失ったわけです。

それで10年以上にわたって炎症を繰り返して、しこりが大きくなっていったと言えます。


本当に子宮内膜症かどうかは、手術後に病理検査をしてみなければ断定できないそうで、退院したばかりの現時点では、まだ謎の物体Xのままですね。




手術の話に戻ります。

ややこしい話ですが、わたしの場合、鼠径ヘルニアではないにもかかわらず、謎の物体Xを切除するとどうしても欠損が生じるので、脱腸部切除後の再建に準じる、メッシュ修復術が必要なのだそうです。


外科の先生からもらった腹腔鏡下ヘルニア手術の説明書に、「ヘルニアバンドなどによる保存的治療は効果がないことが証明されています」と書いてありました。

効果がないことが証明されてるんだ……。

じゃあ、もしわたしが本当に鼠径ヘルニアだったとしても、あのレディースクリニックの医師が言った、何かで押さえて脱腸部をひっこませるという治療法は正しくなかったわけですね。



手術前夜、三種類の下剤を内服し、お腹を空っぽにしました。

手術当日の朝から手術翌日の朝まで絶食。

手術開始の3時間前まではOS-1だけ飲んでもOKでした。

時間になり、婦人科の先生と看護師さんが病室まで迎えにきてくれ、一緒に歩いて手術室へ入りました。


そこではすでに手術室看護師さんと麻酔科の先生たちが待っていて、点滴でお薬を入れ始め、ちょっと血管がぴりぴりするなと感じているうちに意識がなくなっていました。

全身麻酔って、自然に眠りにつくのとは違い、まどろんでいる時間がなく、突然シャットダウンしたように意識がなくなるものなんですね。


腹腔鏡下手術では、炭酸ガスでお腹をふくらませて施術するそうです。


ここまで書くのに3日も費やしてしまいました。

次回、術後の話を振り返ってみようと思います。


2022/11/03 14:53

酵母を入れないパン 小麦vs.大麦

現在連載中の『バイブル・フード・レシピ』のために、過越の祭りのための酵母を入れないパンを作りました。


作中で紹介したレシピは、現代のカシュルート(ユダヤの食物規定)の厳格なルールに従ったもので、18分以内で焼き上げることにもチャレンジしました。


作中では、大麦を使った過越のパンのみを紹介しましたが、実際には小麦でも作りました。


材料はとてもシンプルです。


石臼挽き全粒粉(小麦または大麦) 1.5カップ

水 0.5カップ

オリーブオイル 大さじ1



北海道産小麦「キタノカオリ」石臼挽き全粒粉で作ったのがこちら。



なんか茶色いし、粒感がありますよね!

これは焦げているのではなく、全粒粉だからです。


味はですね、作中で書いたとおり、無味です。

パン作りの基本の材料は、粉・水・塩・油・酵母です。

このうち、塩と酵母を抜いて作っているのですから、味が無いのは当然ですね。


全粒粉100%のパンって、スーパーやコンビニでは見かけませんよね。

成城石井の「アーモンドと胡桃のフランス産全粒粉カンパーニュ」の全粒粉配合比率は15%以下だそうです。

商品名のわりに少ないですよね。

実際、全粒粉100%で作ると、上の写真の通りで色味が茶色くなるし、けっこう雑味があるので、精白粉で作ったパンの方が普通においしいです。



聖書の話題からそれますが、国の麦品種緊急開発プロジェクトというのがあってですね、北海道や東北、九州などの農業研究センターで育成に取り組んでいるのです。


その成果として、北海道産「キタノカオリ」「春よ恋」、岩手・宮城・福島県産「ゆきちから」、秋田県産「ハルイブキ」、九州産「ニシノカオリ」などの新品種の小麦が栽培されています。

研究報告を読んでみますと、今回使った「キタノカオリ」は、精白粉を製パンした際の色味が黄色っぽくなる特徴があるようです。

精白粉で作った食パンに黄色みが出る品種なんだから、全粒粉ではもっと茶色かったわけですね。

「春よ恋」と「ゆきちから」は白度が高いそうです。



本題に戻って、

福井県産六条大麦「ファイバースノウ」石臼挽き全粒粉で作ったパンがこちら。



え、白い! 本当に全粒粉なの? と疑いたくなる白さですね。


小麦粉と同じ分量で作りましたが、大麦粉で作ったパンの方が小さくなってしまいました。(小麦パンと同じ皿にのせて撮影しています)

大麦粉の方が粘り気が少ないので、麺棒で伸ばしても、あまり薄くできなかったから(無理に伸ばそうとすると真っ二つになりそう)です。


「ファイバースノウ」も麦品種緊急開発プロジェクトで育成された新品種です。

これも農水省の海外持出禁止種子(改正種苗法)に指定されていますね。


「ゆきちから」は白度が高い品種で、この「ファイバースノウ」も見ての通り、白度がとても高いです。

となると、雪的な名前がつけられた品種は、白度が高いのが特性ということなのかも?


全粒粉入りパンやライ麦入りパンは、健康志向のお店でちょくちょく売っていますが、大麦粉配合のパンって見たことないですよね。

ましてや大麦粉100%パンなんて、初めて食べました。

大麦粉自体、大きなスーパーでも製菓材料専門店でも取り扱っていないです。麦ごはん用の丸麦は健康食品の売り場で見かけますが……。

それで、自社製粉している大麦倶楽部さんから買いました。

注文を受けてから製粉するそうで、本物の挽きたての大麦粉が届き、生まれて初めて見た大麦粉の白さに感動したのでした。



聖書では、イエスが五千人に食べものを与えるエピソードで「五つのパンと二匹の魚」が登場します。

マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネと四つの福音書に共通して描かれる重要なお話です。

そのうち、ヨハネでは「大麦のパン」とはっきり書いているんですよね。


次は平たいパンではなく、酵母を入れた大麦パンを作ってみたいですね。

粘り気が少ない大麦粉100%で、ちゃんとふくらんだパンになるのでしょうか……?


2022/10/15 21:02

樹海ホーストレッキング

特急かいじ・富士回遊に乗って、河口湖駅まで。

山梨県鳴沢村の紅葉台木曽馬牧場へ行ってきました!


牧場の外へ出て、青木ヶ原樹海脇の林道をお散歩。

ススキがぼうぼうの道なき道を、一列になって進みます。



遠くに小さく見えている黄緑色の背中がわたしです。

夫が乗った「藤風」君はマイペースな性格らしく、頻繁に立ち止まって道草を食う(文字通りの意味)ので気づけば遠くに……。


お馬さんにとって、ふだんのごはんを十分に食べていても、お散歩のときの草は別腹なのだとか。


森の中ではアケビが実っていて、青紫色のトリカブトの花が咲いていました。

樹皮が剥がれた木々もよく見かけて、これは鹿が食べた跡なので、姿は見えなくても、鹿がたくさんいることが分かります。



時々やる気を出して、追いつく藤風君。


わたしが乗った「黒曜」君は、前の馬にぴったり着いて行く方が安心するタイプなのだそう。

先導するインストラクターさんの馬に追突しないよう、手綱を引いたりゆるめたり。


手綱を軽く引くことで、ブレーキの合図となります。

止まってくれたら、すぐに手綱をゆるめなければいけません。

止まった後も引きつづけると、バックの合図になってしまいます。


砂利道やぬかるんだ道も力強く進みました。


坂道では、馬が歩きやすいような姿勢をとる必要があります。

下り坂では踵を下げて体重を後ろに乗せ、上り坂では前傾姿勢に。

黒曜君は小柄な馬ですが、坂道も勢いよく登っていきました。


お馬さんたちはお散歩コースをすっかり覚えていて、走る場所に近づくと、早く走りたくてうずうずした様子に。

途中の林道を速歩で駆け抜けました。


少し開けた場所で、お馬さんたちのごほうびタイム。



藤風君は、道産子(北海道和種馬)と馬車を牽く馬ブルトンの血を引く、木曾馬牧場で一番大きなお馬さんでした。

大河ドラマ「天地人」で阿部寛さん演じる上杉謙信が騎乗したそうです。


ごほうびタイムを終え、再び速歩で林道を駆け抜け、アップダウンのある細い道をたどり、牧場まで帰ります。


帰り道、黒曜君が急に立ち止まって、進まなくなりました。

道草を食べるのでも、トイレタイムでもなく、なぜかと思っていたら、インストラクターさんが「耳をピンと立ててるから、警戒している」と教えてくれました。


黒曜君は、珍しいたれ耳なのです。その片耳が、ぴんと立っています。

近くの林の中から砕石を運ぶ重機が動いている音が聞こえてきました。

どうやらこの、ふだんの森には無い不審な音を警戒しているようでした。


そこに、道草をもさもさ食べて一行から遅れていた藤風君が追いつきました。

藤風君は、黒曜君のお尻を鼻先でトントンとつついて、進むようにうながします。

まるで「怖くないよー、早く行けよー」と話しかけているようでした。

藤風君につつかれて、黒曜君は歩き出し、無事に牧場まで帰りつきました。



黒曜君は木曽馬系の和種馬で、おばあちゃんが道産子。

やさしい目をしていますね。たれ耳がチャームポイント。

先日、松本潤さんがこの黒曜君にお乗りになったそうです。

松本潤さんと言えば、来年の大河ドラマ「どうする家康」ですね。


たしかに大河ドラマの時代考証を考えると、和種馬でなければおかしいですが、現在では希少な和種馬だけで撮影するのは難しそうですよね。


河口湖駅前で熱々のほうとうを食べ、特急富士回遊(途中から連結して特急あずさ)に乗って東京へ帰りました。



今月末に入院・手術を予定しているので、今のうちに好きなことをしておこうと思っていてですね。

木曾馬牧場行きは、もともと9月に予約していたのですが、台風で一旦延期となり、今回はお天気に恵まれて良かったです。


森の澄んだ空気を味わい、思い出深い一日となりました。

インストラクターさん、黒曜君、藤風君、一緒に歩いてくれてどうもありがとう!!

いつかまた会いに行きたいです。


2022/10/10 22:50

Stable Diffusion

昨日、8月23日にオープンソースで公開され、世界中で話題の画像生成AI「Stable Diffusion」をさっそく試してみました!


Stable Diffusionは任意の文章で指示を与えると、画像を生成してくれます。


わたしが与えた命令と生成された画像はこちら。


"Two girls reading the bible by Alfons Maria Mucha, matte painting trending on artstation HQ"



"Two girls reading the bible by Kitagawa Utamaro, matte painting trending on artstation HQ"


「聖書を読んでいる二人の少女」というお題で、ミュシャ風と歌麿風の画像を生成してみました。


ミュシャ風の方、かなりきれいに仕上がっています!

18世紀~19世紀の西洋絵画の学習サンプルが多いのでしょうね。

素晴らしい再現度です。

人物や光の描写が美しい一方、持っている本は微妙におかしいですね。


歌麿風の方は、浮世絵と言えなくもない、という感じです。

日本風の着方をしている女性と、中国風の着方をしている女性がいますね。

背景の文字も漢字風の謎の文字ですね。

日本画と中国画のサンプルを学習していても、着方や文字で国の違いを区別するまでは学習していないのでしょう。


試してみたところ、日本のアニメ絵は苦手としているようです。

抽象画や歴史的に著名な画家の模倣は得意のようですね。


画像を生成するためには、具体的に人物や風景を指定する文章力が必要。

小説の挿絵を生成するなどの使い方は、面白いのではないかと思います。


2022/08/24 20:57

摺り友禅の半衿

第3回三題噺バトル参加として、「夏を染めて」を公開しました。

お題は「浴衣、足跡、ベース」だそうです。


今回、摺り友禅で半衿をつくるお話を書きました。


京都の摺り友禅師さんからご指導いただき、実際に半衿を染めた体験をもとに書いています。

こちらが完成した品です。



白い正絹の半衿生地に、鈴の型紙を使って染めました。

鈴は「鈴なり」から吉祥文様のひとつで、季節を問わず使えるので重宝するかなと思い、選びました。



お話のなかで書いた通り、丸刷毛と型紙は染料の色によって使い分けるので、青い鈴と緑の鈴は別々の型紙で染めています。


この鈴の柄のほかに、梅の花柄の半衿と朝顔の花柄の半衿をつくりました。



伝統的な友禅染めには、手描き染めと型染めがあるそうです。

手描き友禅(本友禅とも呼ばれる)は、模様の輪郭を糊で描いて、その中に筆で色を挿したもの。

摺り友禅(型染め)は、丸刷毛に染料を付けて、型紙の上で回転させながら染めていきます。


実際に体験してみて、職人さんの手仕事の一端を垣間見ることができ、尊敬の念をおぼえました。

摺り友禅は熟練の技術と根気が必要で、高価な品が多いのにも納得でした。



デジタルプリント技術の進歩により、本物の友禅は今では本当に希少な技術になりつつあり、これからますます本物を目にする機会が無くなるだろうなと思います。


2022/08/22 00:21

歯と心臓

右下の親知らずを抜歯することになり、かかりつけの歯科医院の紹介で大学病院の口腔外科に行ってきました。


親知らずの抜歯で大学病院ってどゆこと!?


歯の頭が歯ぐきの中に埋まっていて外に出ていない水平埋伏智歯なのだそうです。

レントゲン写真を見ると、親知らずが横に倒れるように生えていて、並んでいる隣の歯を押しているのが分かりました。

歯が生えるスペースがないと、このような症状になりやすいのだとか。


あごの中の神経に歯根が接触しているため、抜歯することで麻痺が残るリスクがあるそうです。

そのため、2回法抜歯という手術を選択しました。

1回目に歯冠を除去し、歯根が動いたのを観察(一般的に2~12カ月)し、2回目の手術で歯根を抜歯するそうです。


口腔外科の担当医師から、思いがけない説明を受けました。

ここから今回の本題です。


抜歯後に感染性心内膜炎という心臓の病気になるリスクがある。


親知らずを抜いたせいで、心臓病になって死ぬかもしれないなんて、信じられませんよね!?


わたしは現在、とある遺伝性の病気(指定難病のひとつ)により大学病院に定期受診しています。

この病気の合併症として、心臓弁膜症や脳動脈瘤などのリスクがあります。


早期発見が大切なので、つい最近も心臓エコー検査をしたばかり。


弁膜症というのは、心臓に血液を出し入れする弁が誤作動して、血液が逆流したりする病気です。


もし抜歯後の傷口から血液に細菌が紛れ込み、弁を含む心内膜に感染が起これば、命の危険があるのだそうです。


口腔外科の担当医師は、わたしの内科の主治医にコンサルした上で、親知らずの手術をすると言っていました。


必要であれば、予防措置として抜歯手術前にあらかじめ抗生剤を点滴しておくのだとか。


最近では、院内のどこの診療科を受診しても電子カルテで情報共有されていますよね。

診療記録や検査画像を横断的に見ることができるというのは、検査の重複などの無駄を省くことができるので有益だなと感じます。


わたしは現在、内科と婦人科と外科に通っていて、年内中に手術も決まっています。

これからさらに口腔外科が追加されるなんて、正直なところうんざりでした。

とは言え、情報共有システムのおかげで、口腔外科の担当医師が内科の診療記録を見ることができて、リスクヘッジできるというのは、ありがたいことだなぁと思いました。




感染性心内膜炎について説明を受けて、わたしはひとつ思い出したことがあります。


わたしの友人、清見さん(仮名)は数年前に心臓の手術をしました。

その手術に至った原因が、まさに親知らずの抜歯だったのです。


最初、清見さんには、全身のだるさや倦怠感などの自覚症状がありました。


その時点では、心臓病だなんて誰も思わなかったので、心療内科を受診し、精神的な症状であると診断され、抗うつ剤を処方されていました。

症状はどんどん悪化していき、原因不明の発熱がつづくようになり、ついには起き上がることもできなくなります。


心療内科では発熱の原因を特定できず、大きな病院に紹介されて、ようやく原因を突き止めたときには、手遅れになる直前だったそうです。


清見さんは、それまで自分が弁膜症だと知らずにいたため、ごく一般的な歯科医院で抜歯した結果、感染性心内膜炎になってしまったのです。


自分のからだの状態を理解しておく、というのは大事なことだなと思います。


とは言え、大きな病気というのは無自覚のうちに進行し、自覚症状が出たときにはもう手遅れというケースがいかに多いことか……。


沈黙の臓器が多すぎる! と叫びたくなりますね。


もうひとつ言えることは、精神的な症状なのか、身体的な症状なのか、見極めるのは難しいということです。


個人的な意見ですが、初診で血液検査をしてくれる心療内科・精神科を選びましょう。



慢性的なだるさや疲労感、起き上がれないなどの症状があって、精神的な投薬治療でも何ら改善が見られないときは、ぜひとも別の病気を疑ってみてくださいね。


2022/08/08 23:11

Week 2:Resilience

Resilience(レジリエンス)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


SDGsにさまざまな形で頻繁に登場する言葉が、resilience(レジリエンス)である。

17のSDGsのうち、6つの目標でこの言葉が使われている。


目標1では、貧困層のレジリエンス(回復力)について。

目標2では、レジリエントな農業の実践について。

目標9では、持続可能で回復力のあるインフラについて言及している。

目標11は、災害に強い都市と居住地、弾力性のある建物。

目標13は、気候変動に関連する災害に対する回復力と適応力に焦点をあてている。

目標14は、海洋・沿岸生態系の回復力の強化について。


レジリエンスとは何か、どうすればそれを育むことができるのか、またそれが実際に持続可能な開発とどう関係しているのかを考える必要がある。


持続可能な開発の文脈では、レジリエンスという言葉は「急激な変化や長期的な変化から回復する能力」という意味で使われている。


レジリエンス(回復力)を向上させる一般的な戦略として、多様性の確保と維持、連結性の管理などが挙げられる。

システム内に異なるタイプのメンバー、つまり多様性を持たせることで、レジリエンスを生み出すことができる。


また、学習と実験を促進することでも、レジリエンスを高めることができる。

自分たちが置かれている状況や、それに対処するための選択肢をより多く理解すればするほど、目の前の状況に対処できる可能性は高くなる。

SDGsの目標4にある「質の高い教育の推進」は、実は社会システム全般のレジリエンスを促進するためのツールであると考えることができる。


レジリエンスは、災害リスク軽減や気候変動への適応など、専門的なサブ分野ですでに適用されている概念だ。

レジリエンスという考え方は、突然の変化や急激な変化に直面する社会にとって、特に有効なものとなっている。




専門家インタビュー

Christian Cedervall Lauta

(コペンハーゲン大学法学部の准教授、コペンハーゲン災害研究センター(COPE)を率いている)


Q:レジリエンスについてどのように考えるか?


A:災害研究において、これまで社会の脆弱性に着目してきた時代から、15年前に大きな変化があった。

レジリエンスは「立ち直る力」である。

災害研究において、大きな外圧やショックを受けた後、社会が構造的、地域的、文化的に再起する能力ということだ。

レジリエンスというのはさまざまな意味や解釈があり、そのうち二つが最も重要である。

1つ目は、レジリエンスは現状復帰の能力があるということ。これはレリジエンスに対する保守的な考え方だ。

2つ目は、外圧やショックに耐えるだけでなく、コミュニティの外からやってくる将来のショックに適応する能力があること。回復力だけでなく適応力。



Q:レジリエンスは持続可能性に反するのか?


A:ここ数年、レジリエンスに対する批判が盛んだ。なぜならレリジエンスは、私たちがどのような社会に立ち直りたいのか、という中心的な問いを忘れさせてしまうからだ。

むしろ、「どのように社会を変革して、長期的に悲惨な事態を防ぎ、持続可能な社会を実現するのか」という真の問いを投げかけることになる。

レジリエンスをより適応的なもの、より複雑なもの、より持続可能性の課題と結びついたものとして注目している研究者もいる。

アメリカではハリケーン「サンディ」の後、レジリエンスの大勝利を収めた。

アメリカの東海岸がハリケーンにうまく対処できたのは、レジリエンス(回復力)があったからだが、その後、FEMA(連邦緊急事態管理庁)への資金提供を削減する論拠として利用されてしまった

つまり、新自由主義的な政策に資金を提供するために使われた。

「いいですか、あなた方は今、とても回復力があります。もう国家は必要ない。私たちに何かしてもらう必要はないのです」。

ここ数年の間に、レジリエンスの概念が「誰が災害に対応すべきか」という考え方の大改革に利用されてきた。

レジリエンスの概念を悪用すれば、単に立ち直るだけではなく、将来こうした事態に対処するための責任を、制度から個人に移すことさえありえる。



Q:ハリケーン「サンディ」と「カトリーナ」では同じ国の出来事にもかかわらず、その対応には大きな違いがあった。

このような違いはどのような要因によってもたらされるのか?


A:ハリケーン「カトリーナ」は、国家の脆弱性と失敗を示す恐ろしい例であり、米国の公共システム全体の改革につながった。

カトリーナは現代を象徴する災害であり、国家は当面予測されるような衝撃に対処することができないことを教えてくれた。

災害研究の観点から言うと、災害そのものが自然のプロセスではなく、社会的なプロセスであることは明らかだ。

災害の結果を見てみると、ハリケーン「カトリーナ」の原因は、アメリカ南部に上陸した最悪の熱帯ハリケーンのせいではない。

堤防の建設がひどかったから、管理がひどかったから、アメリカ南部の人種問題があったから、そのコミュニティの一部として腐敗や不平等があったから。

つまり、サンディとカトリーナの大きな違いの一つは、被害を受けた地域である。

これを世界的なレベルにまで拡大すると、どのようなハザードプロファイルであっても、災害は常に地球上で最も脆弱な場所を襲うということが明らかになる。

そのため、長年にわたり、災害研究は、災害に対処するための強固なコミュニティや制度の構築に重点を置いて行われてきた。

そして、こうしたコミュニティを構築する際に、ある程度まではレジリエンスという考え方が非常に有効なのだ。

地元の人々が気候を理解し、自分たちの置かれた状況を理解する能力を強化する必要がある。

しかし、それは問題の一部しか解決していない。なぜなら、もともと自然災害に対して脆弱であった根本的な社会的不平等を変えることができないからである。



Q:SDGsではさまざまな文脈で、レジリエントな建物、レジリエントな生態系、レジリエントな社会と何度も言及している。レジリエンスという言葉は使い古されているのか?


A:レジリエンスはポジティブな流行語であり、災害後に起こった悪いこと、不正行為、災害特有の社会的不公正に焦点を当てるのではなく、笑顔をもたらし、良いストーリーに焦点を当てさせる効果がある。

レリジエンスの概念を多用することに対する批判も出てきている。

SDGsの観点から見たレジリエンスのポジティブな点は、気候変動問題、災害問題、そして持続可能性問題の両方を結びつけていることだ。

つまり、レジリエンスは接着剤なのだ。

学術的な「接着剤」であると同時に、このような世界的な体制、世界的な合意を結びつける「接着剤」でもある。

2015年、我々はパリで協定を結んだ。仙台フレームワークと呼ばれる、災害リスク軽減のための15年間の世界戦略に関する協定も結ばれた。

私の考えでは、これらのことはすべて、一つの大きな世界的な枠組み、一つの世界的な戦略に統合されるべきであり、我々はそれを追求すべき。



Q:SDGsは、これらの異なる条約や協定を統合するための枠組みなのか?


A:災害に関する組織は仙台フレームワークに焦点を合わせている。SDGsは、次の15年後には、このような一貫した世界戦略を始めるきっかけとなる可能性がある。




(Katherine Richardson教授によるまとめ)


SDGsの多くは、社会やインフラのレジリエンス(回復力)を高めることに焦点を当てている。

クリスチャン准教授の意見では、レジリエンスはそれ自体が目標ではなく、むしろレジリエンスは人間の福祉を維持または向上させるための有用なツールを提供することができる。

アジェンダ2030やSDGsで示された社会的ビジョンを達成するためには、食糧生産やエネルギー供給など、人類の最も中心的な活動において大きな変化が必要だ。

レジリエンスとは、衝撃や変化から回復する力、立ち直る力を意味するため、レジリエンス単体では、必ずしも持続可能な発展を促進するものではない。

SDGsが持続可能な開発に大きく貢献するのは、我々が目指すべき方向性を示してくれることだ。

最終的なゴールを知ることは、現在のスタート地点がゴールに到達することに適合しているかどうかを評価するための前提条件となります。

SDGsで示された未来社会のビジョンは、持続可能な発展のために、どのような現在のシステムを抜本的に変革すればよいのかを評価するための有効な基準点となるものである。



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【メモ】


ハリケーン「カトリーナ」

2005年8月下旬にニューオリンズ市とその周辺地域を中心に、死者1800人以上、被害額1250億ドルを記録した、カテゴリー5の大西洋台風。

ニューオーリンズ市周辺の洪水防止システム(堤防)の致命的な工学的欠陥の結果として引き起こされた洪水は、人命損失の大部分をもたらした。

最終的には市の80%が数週間にわたって浸水した。

ハリケーン上陸前に避難していなかった何万人もの人々は、食料、避難所、その他の基本的な必需品をほとんど手に入れることができなかった。

後に、数十年前にこの地域の堤防を設計し建設した米国陸軍工兵隊が、洪水制御システムの故障に責任があると結論付けられたが、連邦裁判所は工兵隊の責任は問わないとの判決を下した。


Week 2:ディスカッションプロンプト

Week2のディスカッションは「農業と惑星限界」がテーマ。


ディスカッションプロンプト

Can you think of ways to transform the agricultural sector in your country, to help reduce the pressures on Earth’s critical systems – i.e. freshwater use, climate change, biosphere integrity, biogeochemical flows, land-system change? 

(淡水の利用、気候変動、生物圏の保全、生物地球化学の流れ、土地システムの変化など、地球の重要なシステムに対する圧力を軽減するために、あなたの国の農業部門を変革する方法を考えることができるか?)


資料としてAgriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) が提示されている。



わたしの意見としては、次のような内容を書き込みました。


・日本には小規模な稲作農家が多い。

・日本の人口は都市部に集中しており、逆に農村部では人口の減少や高齢化が進んでいる。

・農業の人手不足は深刻な問題である。

・少ない農業従事者で効率的に栽培・作付けを行うために、自動走行トラクターなどの農業用ロボットの開発が進められている。

・e-agricultureの導入により、遠隔地から効率的な水管理を行うことが可能になる。

・農業用ドローンとe-agricultureを組み合わせれば、農薬や肥料の使いすぎを防ぐことができるのではないではないか。

・例えば、稲の生育状況をセンサーで計測し、最適な肥料量を瞬時に算出できれば、環境負荷の低減と収量アップを同時に実現できるだろう。



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【メモ】


e-agriculture、日本では農林水産省が「スマート農業」という呼び方で、農業分野における技術革新を推進しています。

「スマート農業の展開について」(農林水産省、2020)

わたしの意見は、こちらの資料を参考して書いたものです。


これを読んで驚きだったのは、ヤンマーがすでに自動走行トラクターを開発、2018年から販売しているのです!

遠隔操作で無人自動走行するロボットトラクターを使って、耕うん整地を自動化することで、限られた人員でも農地の大規模化が可能になります。


無人草刈りロボットというのも開発されているそうで、2020年以降実用化の見通しだとか。


作物の生長に応じた最適なかん水と施肥を自動供給するシステムは、肥料の過剰による環境汚染を防ぐためにも、ぜひ実用化してほしい技術ですね。


病害虫の発生状況を人工知能を活用した画像診断等をし、被害リスクに応じた対応策を提供するシステムは、農薬の過剰使用による環境汚染の防止に役立ちますよね。

新規就農者であっても、病害虫リスクを最小限に抑えることができるはずです。

ビッグデータを活用することで、熟練農業者の知識や判断を継承することが容易になるのではないか、と期待されますね。


日本の農業は、とにかく高齢化と担い手不足が喫緊の課題なので、農業分野におけるICTやロボット技術の導入は、今後ますます注目されると思います。


キリスト教系新宗教
安倍元首相暗殺事件を契機として、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に注目が集まっている。


アメリカのテレビ局A&Eが2018年に制作したドキュメンタリー・シリーズ『カルト集団と過激な信仰(Cults and Extreme Belief)』の第5話「世界平和統一聖殿(World Peace and Unification Sanctuary)」で、統一教会の分派である武装カルトが取り上げられている。


この番組によれば、統一教会の教祖サン・ミョン・ムーン(文鮮明)の死後、現在の統一教会は三派に分裂している。

①サン・ミョン・ムーンの妻ハク・チャ・ハン:教団組織を統率

②サン・ミョン・ムーンの三男プレストン・ムーン:教団の巨額資金を手中に

③サン・ミョン・ムーンの七男ショーン・ムーン:サンクチュアリ教会を設立


ペンシルベニア州ニューファンドランドのサンクチュアリ教会は、信徒にAR-15ライフルを所有し、武装することを推奨している。

2018年2月28日、サンクチュアリ教会で、儀式の参加者全員がAR-15を捧げ筒する合同結婚式が行われた。

サンクチュアリ教会では「平和軍・平和警察」と称して、若い信徒たちに軍事訓練を受けさせている。迷彩服を着て森の中を走って銃を撃ち、効率的に人を殺すためのナイフ戦闘術を教えている。

ショーン・ムーンは、『ヨハネ黙示録』に記された「鉄の杖」とはAR-15ライフルのことだと演説する。


当たり前だが、黙示録が書かれた古代ローマ帝国時代に、銃は存在しない。



キリスト教を宗教的源泉とする新宗教と言えば、モルモン教、エホバの証人、シェーカーなどが有名だ。

統一教会とその過激な分派であるサンクチュアリ教会も、キリスト教系新宗教に分類される。


ローマ・カトリック教会、正教会、プロテスタント教会などは伝統的なキリスト教派に分類される。

プロテスタントはルーテル教会、聖公会、バプテスト教会、長老派教会、改革派教会、クエーカーなどがある。

ルーテル教会はその名の通りルター、長老派はカルヴァン、改革派はツヴィングリを指導者とする。


日本では、プロテスタント諸派の合同教会として日本基督教団がある。

日中戦争中、政府の宗教統制に基づいてプロテスタント33教派が合同で、1941年に日本基督教団を設立した。

戦後は教団に残る教派と離脱する教派に分かれた。


伝統的な教派と新宗教は大きな違いがある。

新宗教では、新しい宗教的な教えを説く人物(教祖)を神の啓示を受けた預言者とみなす。

これに当たるのが、モルモン教だ。

ジョセフ・スミスが1830年に設立したモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)は、神の啓示を受けた預言者を自称し、教典である『モルモン書』を授かったと主張した。


新宗教では、教祖をキリストの再臨、超越的存在、神そのものであると称する教団もある。

統一教会はこれに当たる。

番組の中で、サン・ミョン・ムーンの息子で、ショーン・ムーンの異母兄サミュエル・パクは「父は人類のメシアであると公言していた」と取材に答えている。

ショーン・ムーンは父親を「キリストの再臨」であると主張し、「王の中の王」の息子で後継者である自分自身は「第二の王」であると自称している。


番組の中で、元統一教会信者のテディ・ホースが「サンクチュアリ教会はキリストを語るが、キリスト教の組織ではない」と語っていたのは、こういう理由だ。


具体的に言えば、現在のカトリックの指導者であるフランシスコ教皇は、自らを「メシア」だとか「キリストの再臨」と公言したことは一度もないし、今後もないだろう。

ルターもカルヴァンもツヴィングリも同様で、彼ら自身が信仰対象の超越的存在、というわけではない。


教皇はもともと、イエスの弟子ペテロの後継者という位置づけである。生まれつきの血統による世襲制ではない。


日本の天皇位が世襲制なのは、神の子孫と称する血筋が代々引き継がれるべき神聖なものとして位置付けられ、信仰の柱だからだ。

戦後、いわゆる「人間宣言」で昭和天皇は自分が現人神であることを否定したが、そもそも昭和天皇が「自分は神である」と公言したことはない。

しかし、この詔書は天皇が神の子孫であることを否定しなかったし、歴代天皇を神として崇める祭祀も廃止されなかった。


「神の子孫」と「弟子の後継者」では、全く意味が異なる。

そのため、天皇と教皇は立場が似ているようで、全く違う存在だ。


新宗教に話を戻すと、統一教会の創始者サン・ミョン・ムーンは、亡くなる前にショーン・ムーンを後継者として指名し、2008年にショーンの戴冠式を執り行い、力を継承する儀式をした。

統一教会は、教祖の神性を血によって継承する世襲制の教団と言える。

自らを「イエスの再臨」であり「メシア」であると公言したサン・ミョン・ムーンの立場は、宗教分類としては天皇に近い存在であると言えるかもしれない。


ジョセフ・スミスが亡くなってから170年以上経つが、教祖の死後もモルモン教の勢力は衰えず、世界中に信徒は増え続けている。

500年後もすれば、伝統的な教派に位置づけられているにちがいない。

サン・ミョン・ムーンは2012年に亡くなったばかりだ。このままモルモン教のように、勢力を維持しつづけるのだろうか。


2022/07/18 12:33

Week 2:学習教材 要点⑩
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


結論

9つの惑星限界(PB)のうち、5つは高リスクまたはリスク増加のゾーンにあり、そのうち4つの主要な推進力は農業である。残りの1つについても農業は重要な推進要因となっている。

現在は安全圏にあるPBでも、農業は重要な推進要因となっている。

農業がPBに与える影響を軽減するためには、生産のあらゆる側面に数多くの変更を加え、景観レベルの管理にもっと注意を払い、より広範な食糧システムのあらゆる側面に変更を加えて、システムを根本的に変革する以外にないだろう(Beddington et al.2012, Ingram and Porter 2015)。

これは、農業生産から加工、物流、小売、消費に至るまで、すべての食品システム活動がPBに影響を与えるためである(Ingram 2011)。


人類は、世界で10億人が十分なカロリーを摂取できず(FAO 2014)、20億人以上が十分な栄養素を欠いているという問題(WHO and FAO 2014)に対処しなければならないが、同時に世界の別の地域では20億人以上がカロリーを過剰に摂取している事実がある(Ng 2014)。

世界の人口は2050年までに約90億人に達すると予想され、平均的な富の増加によって全体的により多くの食品、特に肉類を消費するようになり、食品の消費パターンが急速に変化している(Kearney 2010)。

PBに関して特に懸念されるのは、過剰消費につながる食生活の変化である。

この不足と過剰消費により、栄養失調のいわゆる「三重苦」が増大しており(IFPRI 2015)、これに対処することが急務となっている。


需要の管理をしながら、より多くの土地を耕作地にする必要がある。

しかし、これは惑星限界(PBs)への影響を軽減するために、慎重に選択・管理する必要がある。

環境、社会、経済的な利益を目的とした土地管理戦略の改善も必要である。

Foley ら(2005)は次のような例を挙げている。

(i) 単位面積、単位肥料投入量、単位水消費量あたりの農業生産量を増やすこと 

(ii) 保水能力、栄養利用可能性、炭素隔離の鍵となる農地の土壌有機物を維持し増やすこと 

(iii) 食料と繊維を提供しながら絶滅危惧種の生息地を維持するアグロフォレストリーの実践 

(iv) 地域の生物多様性と授粉や害虫駆除などの関連生態系サービスを維持すること

例えば、酸性水の流出を防ぐための沿岸植生の利用、マングローブの回復、水辺の緩衝材の確立と維持など、景観レベルの解決策を模索する必要がある。


より少ない燐酸塩の使用に関する選択肢には、糞尿、食品残渣からの再生燐酸塩の使用を増やすことが含まれる。

貯蔵中または市販後の食品廃棄物を減らし、生産量を減らすことが急務である。

肉と乳製品の消費量を減らすことが重要であろう。

メタン排出量の少ない家畜の飼育や、食品加工や貯蔵といったポストファームゲートフードチェーン活動の効率を向上させるための作物の品質改良が含まれる。


まとめると、全体としてよりバランスのとれた消費-生産アプローチが必要である。

全体論的アプローチは、ビジネス・アズ・ユージャルからより持続可能な食糧システムへの移行を円滑にするのに役立つ機会も生み出すはずである(Ingram 2016)。

農業と食料システム全体の改善は、地球の持続可能な発展に向けた重要なステップである。




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【メモ】

“triple burden” of malnutrition 

栄養失調の「三重苦」とは?

(オックスフォード大学環境変化研究所のフードシステムプログラムのリーダー、John Ingramによる解説を参照)


国連食糧農業機関(FAO)による定義では、食料安全保障とは「十分なカロリーと十分な栄養素の両方を利用できること」を意味する。

「十分」とは適切な量を意味する。つまり、少なすぎず多すぎないことを意味する。

1996年の世界食糧サミットで最初に起草された当時は、少なすぎるものだけに重点が置かれていた。

しかし現在では、過剰な消費が世界の大きな課題となっている。


世界の食料安全保障を達成するためには、食料システムに対する圧力を考慮する必要がある。

栄養失調の「三重苦」と呼ばれているものは、次のようなものである。

①人口増加

②食生活の変化

③気候変動や他の環境問題の影響による食料需要の高まり

食料生産を増やすだけでは、三重の課題に対処することはできない。


これまでの開発プログラムはカロリーに重点を置いており、栄養素が不足していることを考慮していない。

世界の栄養失調は、利用可能な食料の不足よりも、カロリーと栄養素の消費パターンに密接に関連している。

手ごろな価格で高エネルギー食品が入手できるようになり、西洋型の食事をしたいという願望が相まって、世界の新興中産階級には食事関連疾患が流行となっている。


肥満は、アメリカなどの先進国では一般的な病気だが、所得が増加し、食生活が変化するにつれて、発展途上国でも肥満率が上昇している。

例えば、中国では食生活の変化によって、2050年までにタンパク質(鶏肉、豚肉、牛肉)輸入量が3500%急増すると予測されている。


過剰消費であると同時に栄養失調である問題に対処するためには、栄養失調の根本原因を見つけるために、消費パターンの変化に焦点をあてる必要がある。

政府には、税金や補助金などを通じて、企業が栄養を改善するためのインセンティブを生み出すことが求められている。

高カロリーかつ低栄養の食事の害を人々に教える教育も必要とされている。


Week 2:学習教材 要点⑨

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


新規物質の導入

Rockströmら(2009a)は、chemical pollution(化学汚染)からNovel entities(新規物質)のPBを設定した。

Steffenら(2015)は、新規化学物質だけでなく、他の新しい人工材料または人工生物、transgenic organisms(トランスジェニック生物、遺伝子組換え生物)を含むように定義を広げた。


人為的な化学物質が生態系に与える影響については、多くの研究で説明されており(Milton 2011, Pease 2011)、農業が強く関与している。

多くの農薬は、農業と水産養殖の両方で広く使用されている。農業用殺虫剤が淡水に与える影響についての調査によれば、世界の50%の淡水から検出された殺虫剤の濃度が規制の閾値を超えている(Stehle and Schulz 2015)。


農業における遺伝子組み換え作物の使用に関する懸念としては、アレルゲン性、食品の安全性の欠如、生物多様性の完全性を脅かすトランスジーンの流れ、望ましくない形質の雑草への拡散などが想定されているが、今のところ証明されていないため、論争がある(Trumbo and Powell 2016)。

種子の知的財産権(IPR)についての懸念もあるが、IPRはPBの概念とは関係ない。


一方、Abbertonら(2016)は、生産量の増加、食糧供給の多様化、気候変動への適応強化や影響の緩和を目的として、主要作物とマイナー作物の育種を加速するためにゲノムツールを使用し適応させる方法について報告している。

遺伝子組み換えトウモロコシとダイズの世界的なメタ分析によると、遺伝子組み換え作物は従来の作物よりも収量が多く、生産コストを削減して粗利益を増加させることが示されている(Areal 2013)。

遺伝子組み換え作物は化学農薬の使用を37%減らす一方で、収量を22%増やし、農家の利益を68%増加させたという研究結果もある(Klümper and Qaim 2014)。


最近の研究によると、遺伝子組み換え作物は、気候変動下の世界の農業システムにおいて、より栄養価が高く、投入効率の高い作物を開発する上で、非常に有望であるとみなされている(Ortiz 2014)。

トランスジェニック生物は、農薬に含まれる化学物質のような、より有害な新規物質の使用を減らすことなどを通じて、農業が良い方向に変化する手助けとなる可能性がある。


Week 2:学習教材 要点⑧

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


8 大気エアロゾル負荷

大気中のエアロゾルは、人間の健康に有害であり、気候に影響を与える(Ramanathan 2007)。

エアロゾルであるブラックカーボンの排出は、二酸化炭素の排出に次いで、地球温暖化の原因となる(Bond 2013)。

作物残渣燃焼は、世界的に重要な大気エアロゾルの発生源である(van der Werf 2010)が、その正確な数値についてはほとんど研究されていない。

ブラックカーボンと有機炭素の人為的排出の割合は約3~14%とされている(Bond 2013)。


大気エアロゾル負荷の惑星限界(PB)は、エアロゾル光学深度(AOD)が使用されている。

AODは地球の表面で非常に変化しやすいため、地球規模のPBは設定されていない。

Steffenら(2015)は、モンスーンに影響を与える、インド亜大陸上のPBを設定した。

インド亜大陸上のAODは約0.15(Chin 2014)であり、PBは0.3(Steffen 2015)に設定されている。

しかし、AODは強い季節性と空間的な不均質性を持っており、インド・ガンジス平原では乾季に1.0に近い値が日常的に観測される。


エアロゾルは、ほぼすべての排出が地表に由来するため、地表の小さな粒子状物質(PM)とも相関がある。

年間平均の人口加重PM曝露量は、ブラックカーボンおよび有機炭素が約38%、アンモニアが約11%である(Shindell 2015)。

農業燃焼による排出が世界のPMの約3%、肥料の生産と使用による排出が約11%を占めており、農業関連の排出は一部の人口密集地ではPMの主要な発生源となっている(Bauer 2016)。

Global Burden of Disease(グローバル疾病負荷)は、毎年約320万人の早死がPMに起因すると推定している(Lim 2012)。

この分析及びLelieveldら(2015)の研究に基づくと、大気エアロゾル負荷に対する農業の寄与は、毎年45万~66万人の早死をもたらす可能性がある。


農業は大気エアロゾル負荷に大きく寄与しており、AODのPBは汚染地域で定期的に(季節的に)超過しており、人間の健康に極めて有害な影響を及ぼしている。

農業廃棄物の野外焼却を禁止し、肥料をより効率的に使用することは、実質的な利益につながる。




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【メモ】

炭素成分は、無機炭素と有機炭素に大きく分けられる。

無機炭素は、元素状炭素と炭酸塩炭素からなる。


black carbon(ブラックカーボン、黒色炭素)

元素状炭素は、炭化水素が高温で不完全燃焼する際などに生成する。

元素状炭素は人間の目には黒く見え、光を吸収することから黒色炭素(ブラック・カーボン)と呼ばれる。

ブラックカーボンは、エアロゾル(大気中を浮遊する微小粒子)の成分の一つで、ディーゼルエンジンの排気ガス、石炭の燃焼、森林火災、バイオマス燃料の燃焼など、炭素を主成分とする燃料を燃焼した際に発生する。

大気汚染物質であるだけでなく、太陽光を吸収する性質があるため、大気を加熱したり、積雪や海氷面に沈着して太陽光の反射率を下げ、氷の融解を促進することで、温室効果を有し、気候変動を加速させる。

2020年9月13日に北極海の海氷面積が観測史上2番目の小ささになっており、ブラックカーボンによって氷の融解が進行した可能性が考えられている。(日本の国立極地研究所と宇宙航空研究開発機構の調査による)



organic carbon(有機炭素)

有機炭素は、有機物に含まれる炭素のこと。

有機炭素の発生源から直接排出される一次生成粒子だけでなく、大気中で反応したり、浮遊している別の粒子に吸着してできる二次生成粒子もある。

一次生成粒子には、元素状炭素と共存してボイラーやエンジンから排出される粒子や、森林火災の煙のような有機炭素などがある。

代表的な物質には、多環芳香族炭化水素とそのニトロ化誘導体、半揮発性の鎖状炭化水素などがある。

二次生成粒子には、自動車の排気ガスに含まれる炭化水素が光化学反応により粒子となるものがあり、これが光化学スモッグを構成するものの一つである。

代表的な物質には、カルボン酸や芳香族カルボン酸などがある。



大気汚染の人体への影響

WHOの「PMに関する大気質ガイドライン」によれば、PM10の曝露量の閾値(それ以下なら健康に影響がないとみなされる下限値)は1立方メートル当たり年平均で20マイクログラム、PM2.5の場合は年平均で10マイクログラム。

WHOは、PM10とPM2.5の質量濃度を健康リスクの指標として用いることを提案している。

大気汚染が健康にどのように影響をおよぼすかは、これらの汚染物質に対する感度と曝露量(どれだけ長く曝されていたか)によって決まる。

疫学的研究によれば、大気中のPM濃度の増加と、心臓血管系及び呼吸器系疾患の罹病率の増加や早期死亡率の増加は有意な相関関係があるとされる。


Week 2:学習教材 要点⑦

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


7 成層圏オゾン層破壊

Rockströmら(2009a)は、オゾンレベルの惑星限界(PB)を、1964年から1980年の値に関して、特定の緯度のカラムオゾンレベルが5%未満の減少にとどめることを提案している。

歴史的なオゾン層破壊は、クロロフルオロカーボン排出から放出されたハロゲンが主である。

現在、N2O(亜酸化窒素)はオゾンを破壊する唯一で最も重要な排出物であり、21世紀を通じて最も大きな排出物であり続けると予想される(Ravishankara 2009)。


土壌からのN2Oは、主に土壌に施される窒素肥料と畜糞に関連する人為的な発生である。

窒素肥料の使用量と家畜排泄物の生産量の増加は、2030年までに農業からのN2O排出量を35~60%増加させると予測されている(Smith 2008)。

Crutzenら(2008)によれば、人為的なN2O排出量は年間5.6 ~ 6.5 Mtであり、そのうち農業は年間4.3~5.8 Mtに相当する。

したがって、世界の人為的なN2O排出量の66-90%は農業活動に起因している。


農業において人為的なN2O排出を削減するために、最も効果的なのは、肥料の効率的な使用である(Ravishankara 2009)。

将来のN2O排出を制限すれば、枯渇状態にあるオゾン層の回復を促進することができる。それによって、気候系への人為的強制力を減らすことにもなる。


Week 2:学習教材 要点⑥

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


6 海洋酸性化

海洋酸性化は、大気中に排出された二酸化炭素が原因であり、その約25%が海水に吸収され、炭酸を形成している。

1800年以降、すでに海水の酸性度が34%上昇しており、CO2排出量を削減しない限り、2100年までに表層海水の酸性度が約150%上昇すると予測されている(Hönisch 2012)。これは数百万年の間で、最も速い海洋の化学変化速度である。


サンゴやカキなどの多くの海洋生物は、アラゴナイトやカルサイトを使って殻や骨格を形成している。海水の二酸化炭素濃度が上昇すると、簡単に腐食してしまう(Rodolfo-Metalpa 2011)。

サンゴ礁はアラゴナイトでできており、「アラゴナイト飽和度」(Ω arag)が1以下になると、サンゴ礁は溶けてしまう

サンゴ礁は、アラゴナイトの過飽和度 Ω arag > 3の状態で形成され、それ以下ではサンゴ礁は弱くなり、藻類や海綿動物、ウニやブダイなどの捕食者によって簡単に侵食される。


Rockströmら(2009b)は、海洋酸性化の惑星限界(PB)として海洋のアラゴナイト飽和度が、産業革命前の世界平均の表層海水 Ω arag 3.44の80%以上に維持されることを提唱した。

現在、海洋のアラゴナイト飽和度は産業革命前の値の約84%であり、急速に低下している(Gattuso 2015)。


農業は、CO2排出の主要な原因であるため、海洋酸性化に直接寄与している。

耕作地の集水域の酸性化や、海洋への農業用肥料の流入による間接的な影響もある。

沿岸水域に投入された硝酸塩は藻類の成長を刺激し、藻類が腐敗すると溶存酸素濃度を低下させる。

微生物呼吸の際に生成されるCO2は酸性度を高め、海洋酸性化の地域的な影響に拍車をかける(Ekstrom 2015)。


海洋酸性化という世界的な問題に対する地域的な解決策には、農業の変革が必要である。

IUCNブルーカーボンイニシアチブでは、沿岸植生(藻類、海草、マングローブ)が、酸性水の流出を防ぎ、炭素を捕捉・蓄積し、沿岸水のpHを上昇させる能力を持つことを認めている。

海藻の養殖や、エビ養殖場に転換された地域のマングローブを徐々に回復させることは、海洋酸性化を食い止めることにつながり、農業をより安全に運営する方法である(Siikamäki 2013)。




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【メモ】

Ocean acidification 海洋酸性化

海洋酸性化とは、大気中の二酸化炭素濃度の上昇の結果として海洋のpH値が低下すること。

海水のアラゴナイト飽和度とは、炭酸カルシウム析出能の指標。

サンゴの骨格は炭酸カルシウム(CaCO3)からなるアラゴナイト(アラレ石)でできている。

アラゴナイト飽和度が1を下回るとアラゴナイトは溶解する。

3,581か所のサンゴ礁の観測に基づいてグレートバリアリーフ全体のアラゴナイト飽和度を推定したところ、これまで考えられていたよりも酸性化が進んでおり、内礁の溶解が予測よりも早く進むことが報告されている(Mathieu Mongin 2016)。


Week 2:学習教材 要点⑤
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


5 気候変動

農業は、CO2以外の重要な温室効果ガスを大量に排出するだけでなく、農業のためのスペースを確保するための森林伐採によって、大量のCO2を放出している。

肥料の生産から食料品の流通にいたるまでの活動全体も、大量のCO2を排出している。

このように、農業は気候変動に影響を与える最も重要な人為的活動の一つである。

さらに、気候変動はそれ自体が農業の条件に影響を及ぼし、農業システム全体に大きな影響を与えることになる。


Rockströmら(2009a)は、地球規模の制御変数として大気中のCO2濃度と大気圏上層部の放射強制力の両方を用いて気候変動にアプローチし、350 ppm CO2と産業革命前レベルからの1 W m-2を惑星限界(PB)として提案した(US EPA 2011)。

これは、(i)温室効果ガス強制力に対する気候システムの平衡感度の分析、(ii)完新世より温暖な気候下での大型極地氷床の挙動、(iii)現在のCO2濃度約387ppm、純放射強制力+1.6W m-2(+0.8/-1.0W m-2)での気候システムの観測結果に基づいている。

Rockströmら(2009a)は氷床量の減少や、エアロゾルの冷却効果の消滅をPB設定時に考慮しなければならないと指摘している。

エアロゾルPBと気候変動PBの間には、もう一つ重要な相互作用がある(Mahowald 2017)。


100年の地球温暖化係数に基づくと、農業は1年間で約5.0~5.8GtのCO2を排出している。これは、農業による土地利用変化を除いた、人為的温室効果ガス排出総量の約11%にあたる(Smith 2014)。

発展途上国は世界全体で農業関連排出量の大部分を占めており、今後も発展途上国での農業生産を増加させる必要性があることから、排出量が最も速く増加すると予測される(Smith 2014) 

農業からのCO2排出量は、途上国では平均35%、先進国では12%を占めている(Richards 2015)。

生産から消費までの食料システム全体からの排出を含めると、温室効果ガス総排出量に占める割合は14~24%(農業による土地利用変化を含む)から19~29%へと増加する(Vermeulen 2012)。

この数字には、サプライチェーン全体、肥料製造、農業生産そのもの、加工、輸送、小売、家庭での食品管理、廃棄物処理などが含まれる。


Wollenbergら(2016)は、人為的な地球温暖化を産業革命時の平均気温の2度以下に抑えるという目標内にとどまると同時に、より豊かになった人口を養うためには、農業は2030年までに年間で1 Gt CO2の排出を削減しなければならないと推定している。

1t CO2あたり最大20USドルの価格を設定した場合でも、必要な削減量のうち21〜40%しか達成できないと試算している。

これは、技術的な農法の普及と効率向上を伴う作物と家畜の増産を含む。


望ましいCO2削減量と妥当な成果との間に大きなギャップがあるため、より変革的な技術・政策オプションが必要であることがわかる。

例えば、メタン生成の少ない家畜品種や土壌有機物の土壌への保持を強化するなどのハイテク解決策が考えられている。

同時に、農業のための開墾による土地利用の変化を減らし、食品の損失と廃棄を減らし、食生活のパターンを転換することも必要だろう。




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【メモ】

Radiative forcing(放射強制力)とは?

気候変動の自然または人為的要因によって引き起こされる大気中のエネルギーの変化を放射照度  W m-2(ワット毎平方メートル)によって測定したもの。

地球のエネルギーバランスに変化をもたらす外部要因を定量化して比較するために使われる科学的概念。

正の放射強制力とは、地球が太陽光から受け取るエネルギーが宇宙へ放射するエネルギーよりも多いことを意味する。このエネルギーの正味の増加が、温暖化を引き起こす。

負の放射強制力とは、地球が太陽から受け取るエネルギーよりも多くのエネルギーを宇宙へ失うことを意味し、これは冷却を生み出す。


Rockströmら(2009a)は気候変動に関して、大気中のCO2濃度のPBだけでなく、放射強制力もPBを設定することで、二重のアプローチをしている。

CO2濃度のPBが350ppmと設定されているが、2019年のCO2濃度は500ppm(NOAA年次温室効果ガス指数より)であるため、すでにPBを越えている。

放射強制力のPBは1 W m-2 と設定されているが、2019年の総放射強制力は3.140 W m-2(NOAA年次温室効果ガス指数より)であり、すでにPBを越えている。

放射強制力の要素のうち、2000年と比べるとCO2とCH4(メタン)およびN2O(亜酸化窒素)は増加しており、CFC(クロロフルオロカーボン)は減少している。


Week 2:学習教材 要点④
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


4 生物圏の完全性の変化

Rockströmら(2009a)は、九つの惑星限界(PB)の一つとして “rate of biodiversity loss”(生物多様性の損失率)を設定していた。

Steffenら(2015)はこれを“change in biosphere integrity”(生物圏の完全性の変化)に変更し、遺伝的多様性と機能的多様性の両方を網羅することによって、人間活動が生物圏に与える影響をより反映しようとした。

遺伝的多様性はextinction rates(絶滅率)によって、機能的多様性はthe biodiversity intactness index (BII)(生物多様性無損傷指数)によって測定される。


地球上には約500±300万種の生物が存在し、現在のモデルでは10年当たり5%未満の絶滅率を予測しているが、気候変動が絶滅に与える影響は不確実である(Costello 2013)。

Steffenら(2015)は、遺伝的多様性の損失を測定するための指標として、100万種あたり・1年あたりの平均絶滅数(E/MSY)を設定しているが、測定が難しく、どうしてもタイムラグがあるとの批判がある。

10年当たり5%の絶滅率は破滅的とは言えないが、Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYという「願望的」なものと、10E/MSYというより現実的なものとを提案している。

化石記録における海洋生物の過去の平均絶滅率は、0.1~1E/MSYであると推定される。

しかし、現在では100E/MSY以上と考えられ、将来的には1000-10000E/MSYで消失すると予測されている。


機能的多様性は、地球システム機能における生物圏の全体的な役割を示すものである。

Steffenら(2015)は、機能的多様性のPBとしてBII90%を提案した。

Newboldら(2016)は、世界の地表の58%において、すでにPBを越えてBIIが減少していると推定している。


遺伝的多様性と機能的多様性の両方の損失が、土地システムの変化によって引き起こされることを考えると、生物圏の完全性PBの状態における農業の役割は80%である。

農業は、生物圏の完全性をPBを越えてシフトさせた。

生物多様性の損失は生息地の面積だけの関数ではなく、生物圏の完全性は遺伝的多様性よりも機能的多様性と関係があるかもしれない(Steffen 2015)。

世界の森林は、インフラへの投資の大幅な拡大により急速に分断されており、農業は新しい景観の重要な構成要素となっている(Sloan and Sayer 2015)。


Development corridors(開発回廊)は、途上国の農業をより高いレベルの生産性に転換させる方法と考えられている。

これらの開発回廊は、特に熱帯地方において、既存の森林を大きく分断し、占有する危険性があり、生物圏の完全性に悲惨な結果をもたらす可能性がある(Laurance 2015)。

気候変動と生息地の断片化は、外来侵入種の自然生息地への拡散をかつてないレベルで促進し、生物多様性と生態系機能に対して憂慮すべき結果をもたらしている。




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【メモ】

the average number of extinctions per million species-years (E/MSY)

100万種あたりの年間の平均絶滅数


化石記録から推定される過去の海洋生物の年平均絶滅数は、0.1~1E/MSYなので、100万種あたり0.1種から1種であった。

現在では100E/MSYなので、1年間に100万種あたり100種が絶滅している。そして将来的には1000-10000E/MSY、すなわち100万種あたり年間で1000種から10000種が絶滅すると推定されている。

地球上には約500±300万種が生息しているので、そのうち1年間に約500±300種が絶滅している計算となる。

生物多様性科学において、「地球上の生物は6回目の大量絶滅に突入しているか、すでに突入している」と言われているのが、うなずける数字である。


Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYすなわち1年間に100万種あたり1種の絶滅にとどめるのが理想だが、それはもはや現実的ではないため、せめて10E/MSYすなわち1年間に100万種あたり10種の絶滅におさえることを提案している。


Week 2:学習教材 要点③
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


3 生物地球化学的フロー

窒素(nitrogen, 以下N)とリン(phosphorus, 以下P)に関する分析。


窒素(N)は必須多量栄養素であり、多くの陸上および水生生態系における植物成長を促す元素である。

人間活動は、化石燃料の使用量の増加、農業や産業による窒素需要の増加、利用効率の低さなどを主な要因として、地球上の窒素循環を大きく変化させてきた (Swaney 2012)。

現在、人為的な窒素供給は、すべての自然な陸上プロセスの合計よりも多くの窒素を地球システムに供給している(Rockström 2009a, Canfield 2010)。

過剰な窒素は土壌や大気の汚染を引き起こし、生物多様性の損失を早め、沿岸の海域や流域を汚染し(Howarth 2011, Swaney 2012)、対流圏のN2Oや活性窒素ガスのレベルを上昇させる(Robertson and Vitousek 2009) 。


Steffenら(2015)は、de Vriesら(2013)の分析に基づいて、水生生態系の富栄養化を回避するための窒素に関する惑星限界(PB)を、産業および意図的な生物学的窒素固定から62 Tg N yr-1と提案した。

Steffenら(2015)によれば、窒素のPBをすでに越えている地域は、特に北米、欧州、南アジア、中国である。


Fixen and West(2002)によると、農業における窒素肥料の使用量は、1960 年から 2000年の間に約800% 増加した。

Bouwman ら(2009)は、農業への総窒素投入量を 249 Mt N yr-1 と見積もっている。世界の人為的窒素使用量(187 Mt N yr-1)に占める農業の割合は86.1%と推定されている(Galloway 2008)。


いくつかの研究で、作物における窒素の利用効率が低いことも明らかにされた。

作物に施された窒素の約半分しか植物に取り込まれず、残りは溶出(16%)、土壌侵食(15%)、ガス放出(14%)によって失われてしまう(Liu 2010, Bodirsky 2012)。

Robertson and Vitousek(2009)によれば、輪作、作物の窒素要求量・時期・配置の予測の改善、および窒素の損失を回収する戦略のすべては現実に可能な手段であり、それによって窒素の損失を大幅に削減し、窒素の過剰供給を回避することができる。



ほとんどの農業生産は、肥料や堆肥からのリン酸塩(PO43-)の形でリン(P)に依存しており、土壌を改良し、作物の収穫時に除去されたものを補充している(Cordell and White 2013)。

人間活動は、農業用のリン酸肥料を生産するためにリン鉱石を採掘することによって、惑星のリン循環を大きく変化させてきた

リン循環は自然プロセスの2~3倍に加速され(Smil 2000)、意図した農業生産の増加に加えて、淡水および河口域システムの富栄養化(Diaz and Rosenberg 2008)につながっている。


Steffenら(2015)は、Carpenter and Bennett(2011)の分析に基づいて、海洋生物の過去の大量絶滅を説明する可能性のある大規模な海洋無酸素現象を避けるために、淡水系から海洋へ流れるリンのPBを11 Tg P yr-1に設定している (Handoh and Lenton 2003)。

淡水の富栄養化を防ぐために地域的なPBが設定されており、窒素と同様に、特定の地域でリンに関するPBがすでに越えられている。


Smil(2000)によれば、世界のリン酸塩生産量の90%(年間約148 Mt)が農業用肥料に使用されている。

さらに最近の研究では、採掘されたリン鉱石の96%が肥料生産に使われ(人為的な総生産量23.5 Mt yr-1のうち22.6 Mt yr-1)、そのほぼすべてが陸上土壌に加えられている(Carpenter and Bennett 2011)。


人口増加と食生活の変化に伴う世界的な食糧需要の増加により、リンの需要は2050年までに50~100%増加する可能性があり(Cordell and White 2013)、すでに超えているリンのPBに対する農業の影響はさらに大きくなるだろう。


リンのPBを越えないためには、新しいリン酸塩の使用を減らすことが必要である。

そのためには、農地土壌のリン酸塩収支のバランスをとることと、堆肥、人糞、食物残渣からの再利用リン酸塩の使用を増やし、新たに採掘するリン鉱石への依存を減らすことである。

この種の堆肥の流出は、よりよい耕作方法、水辺のバッファーの設置と維持、湿地帯の復元によって最小限に抑えることが可能である。

最後に、貯蔵中または市販後の食品廃棄物を減らし、そもそもリン酸塩を生産する必要がないようにすることは、緊急の課題である。




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【メモ】

N2O=亜酸化窒素:二酸化炭素の約300倍の温室効果があり、オゾン層破壊物質でもある(日本の独立行政法人農業環境技術研究所による定義)


Reactive nitrogen=活性窒素(反応性窒素):生育を促進する様々な窒素化合物の総称。大気中の窒素酸化物(NOx)、水に溶け込んでいるアンモニア(NH3)、亜酸化窒素(N2O)、硝酸塩(NO3-)などが代表的。


【疑問】

窒素のPBは年間62Tg、リンのPBは年間11Tgと設定されていますが、このTgとはどのような単位なのでしょうか?

熱重量測定におけるthermogravimetry(TG)なのではないか、と思いますが確信が持てません。


【所感】

1906年ドイツで、工業的な窒素固定であるハーバー・ボッシュ法が確立されました。

ハーバー・ボッシュ法は、20世紀の人口の爆発的な増加を支えましたが、過剰な反応性窒素が土壌や湖沼の富栄養化を引き起こし、オゾン層破壊の原因となり、全地球規模の温室効果をもたらしました。

反応性窒素は、アントロポセン(人新世)を象徴する物質と言えます。

さまざまな問題を引き起こすと分かっていても、人類が反応性窒素を手離すのは化石燃料以上に難しいのです。

反応性窒素はただ減らせばよいのではなく、どこにどう使うのかが重要であると思いました。


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