パロールとは……?
南ノさんのモーラ言語とアクセント言語についてのお話と、発声器官の未熟さから「s」音を「ch」音または「t」音で代替するというお話、皆さんと同じく目からウロコでした!!
この南ノさんのお話に、ソシュールと結びつけてアンサーされた成瀬川さんのお話もとても面白く読みました。
ソシュールの言語学に登場する重要な三つの概念があり、それが「ランガージュ」「ラング」「パロール」です。
ランガージュ:広い意味での「言葉」の概念。ラングとパロールの両方を含む。
パロール:「発話」の概念。空気の振動、発声器官の運動、発声作用のこと。
ラング:「言語」の概念。日本語、フランス語などの意味での言語のこと。
ソシュールは「パロール」(発話)ではなく「ラング」(言語)を言語学という学問の中心的研究対象として定めて、「ラング」を「記号の体系、差異の体系」と規定したのです。
今回の南ノさんのお話は、まさに「パロール」(発話)を主題としたお話ということになりますね。
そういうわけで、南ノさんの視点は「パロールの実践の場にいる」かたならではのもの、と成瀬川さんはおっしゃっているのですね。
ジュネーブ大学で行ったソシュールの言語学講義を、彼の死後に弟子たちがまとめた本『一般言語学講義』がフランス語で書かれているので、言語学の学術用語はフランス語由来のカタカナ語で表記されているんです。
ソシュール自身は母語であるフランス語のほかに、ドイツ語、英語、ラテン語、ギリシア語を習得していました!
これほどの言語知識があると、言語というのは「差異の体系」だと言いたくもなるのでしょうか。
ここからは余談です。
日本語で「パロール」と言えば、言語学の学術用語の意味で使うかたが多いかと思いますが、フランス語では哲学とは全く関係ない場面で、普通の日常会話のなかで使われる言葉なんですよ。
parole
①言葉、文句
②【単数】約束、確約、保証
③【単数】発言
④【単数】言語能力、話しぶり、声の調子
⑤【複数】言葉、歌詞
⑥名言
⑦(ソシュール言語学での)パロール
(クラウン仏和辞典より)
フランスの懐メロで、「Paroles, paroles」(パローレ、パローレ)という超有名な歌があります。
ダリダという女性歌手とアラン・ドロンという俳優がデュエットした歌で、なんとレコード総売上1億7千万枚だそうです。
日本でも70年代に「甘い囁き」という邦題で大ヒットしたそうです。
Dalida, Alain Delon - Paroles, paroles
この歌のサビで、男性は「なんてきみは美しいんだ」と口説いていて、女性は「パローレ、パローレ、パローレ」とひたすら繰り返しています。
1曲通して聴くと、40回くらい「パローレ」と言っているので、とにかく「パローレ」という単語が耳に残る歌ですね。
この歌は、男性側が女性に口説き文句を必死で語っているのに対して、女性側は「男っていつも言葉だけなんだから」とあしらっているという、笑える構造になっています。
あなたはいつも口先ばっかり! という意味合いでparole(言葉)の複数形paroles(言葉たち)が使われていますね。
ちなみにフランス語ではparoleもparolesもパロールという音(よりフランス語らしく表記するとパホール。フランス語の「r」はハ行の音がいちばん近い)なのですが、ダリダさんが「パローレパローレ」と歌っているのは、この歌の原曲がイタリア語の歌だからです。
ダリダさんはイタリア語の歌をフランス語でカバーしているのですが、サビだけイタリア語風に発音しておしゃれさをだしているわけですね。
日本語の歌でもサビだけ英語にしたりしますよね。
大昔にフランス語を勉強していたとき、授業でこの歌をみんなで聞いて、訳詞したのです。
何が言いたいかというと、わたしは「パロール」と聞くと、ソシュールよりも真っ先にこちらの懐メロの方が浮かんでしまって、思わず笑っちゃうという話でした。
『文芸部は眠らせない』115話~119話もとても楽しく拝読しましたので、クリステヴァの話題もふれたかったのですが、余談が長くなったのでまた今度。