"The Sustainable Development Goals"講義ノート

Week 2:Resilience

Resilience(レジリエンス)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


SDGsにさまざまな形で頻繁に登場する言葉が、resilience(レジリエンス)である。

17のSDGsのうち、6つの目標でこの言葉が使われている。


目標1では、貧困層のレジリエンス(回復力)について。

目標2では、レジリエントな農業の実践について。

目標9では、持続可能で回復力のあるインフラについて言及している。

目標11は、災害に強い都市と居住地、弾力性のある建物。

目標13は、気候変動に関連する災害に対する回復力と適応力に焦点をあてている。

目標14は、海洋・沿岸生態系の回復力の強化について。


レジリエンスとは何か、どうすればそれを育むことができるのか、またそれが実際に持続可能な開発とどう関係しているのかを考える必要がある。


持続可能な開発の文脈では、レジリエンスという言葉は「急激な変化や長期的な変化から回復する能力」という意味で使われている。


レジリエンス(回復力)を向上させる一般的な戦略として、多様性の確保と維持、連結性の管理などが挙げられる。

システム内に異なるタイプのメンバー、つまり多様性を持たせることで、レジリエンスを生み出すことができる。


また、学習と実験を促進することでも、レジリエンスを高めることができる。

自分たちが置かれている状況や、それに対処するための選択肢をより多く理解すればするほど、目の前の状況に対処できる可能性は高くなる。

SDGsの目標4にある「質の高い教育の推進」は、実は社会システム全般のレジリエンスを促進するためのツールであると考えることができる。


レジリエンスは、災害リスク軽減や気候変動への適応など、専門的なサブ分野ですでに適用されている概念だ。

レジリエンスという考え方は、突然の変化や急激な変化に直面する社会にとって、特に有効なものとなっている。




専門家インタビュー

Christian Cedervall Lauta

(コペンハーゲン大学法学部の准教授、コペンハーゲン災害研究センター(COPE)を率いている)


Q:レジリエンスについてどのように考えるか?


A:災害研究において、これまで社会の脆弱性に着目してきた時代から、15年前に大きな変化があった。

レジリエンスは「立ち直る力」である。

災害研究において、大きな外圧やショックを受けた後、社会が構造的、地域的、文化的に再起する能力ということだ。

レジリエンスというのはさまざまな意味や解釈があり、そのうち二つが最も重要である。

1つ目は、レジリエンスは現状復帰の能力があるということ。これはレリジエンスに対する保守的な考え方だ。

2つ目は、外圧やショックに耐えるだけでなく、コミュニティの外からやってくる将来のショックに適応する能力があること。回復力だけでなく適応力。



Q:レジリエンスは持続可能性に反するのか?


A:ここ数年、レジリエンスに対する批判が盛んだ。なぜならレリジエンスは、私たちがどのような社会に立ち直りたいのか、という中心的な問いを忘れさせてしまうからだ。

むしろ、「どのように社会を変革して、長期的に悲惨な事態を防ぎ、持続可能な社会を実現するのか」という真の問いを投げかけることになる。

レジリエンスをより適応的なもの、より複雑なもの、より持続可能性の課題と結びついたものとして注目している研究者もいる。

アメリカではハリケーン「サンディ」の後、レジリエンスの大勝利を収めた。

アメリカの東海岸がハリケーンにうまく対処できたのは、レジリエンス(回復力)があったからだが、その後、FEMA(連邦緊急事態管理庁)への資金提供を削減する論拠として利用されてしまった

つまり、新自由主義的な政策に資金を提供するために使われた。

「いいですか、あなた方は今、とても回復力があります。もう国家は必要ない。私たちに何かしてもらう必要はないのです」。

ここ数年の間に、レジリエンスの概念が「誰が災害に対応すべきか」という考え方の大改革に利用されてきた。

レジリエンスの概念を悪用すれば、単に立ち直るだけではなく、将来こうした事態に対処するための責任を、制度から個人に移すことさえありえる。



Q:ハリケーン「サンディ」と「カトリーナ」では同じ国の出来事にもかかわらず、その対応には大きな違いがあった。

このような違いはどのような要因によってもたらされるのか?


A:ハリケーン「カトリーナ」は、国家の脆弱性と失敗を示す恐ろしい例であり、米国の公共システム全体の改革につながった。

カトリーナは現代を象徴する災害であり、国家は当面予測されるような衝撃に対処することができないことを教えてくれた。

災害研究の観点から言うと、災害そのものが自然のプロセスではなく、社会的なプロセスであることは明らかだ。

災害の結果を見てみると、ハリケーン「カトリーナ」の原因は、アメリカ南部に上陸した最悪の熱帯ハリケーンのせいではない。

堤防の建設がひどかったから、管理がひどかったから、アメリカ南部の人種問題があったから、そのコミュニティの一部として腐敗や不平等があったから。

つまり、サンディとカトリーナの大きな違いの一つは、被害を受けた地域である。

これを世界的なレベルにまで拡大すると、どのようなハザードプロファイルであっても、災害は常に地球上で最も脆弱な場所を襲うということが明らかになる。

そのため、長年にわたり、災害研究は、災害に対処するための強固なコミュニティや制度の構築に重点を置いて行われてきた。

そして、こうしたコミュニティを構築する際に、ある程度まではレジリエンスという考え方が非常に有効なのだ。

地元の人々が気候を理解し、自分たちの置かれた状況を理解する能力を強化する必要がある。

しかし、それは問題の一部しか解決していない。なぜなら、もともと自然災害に対して脆弱であった根本的な社会的不平等を変えることができないからである。



Q:SDGsではさまざまな文脈で、レジリエントな建物、レジリエントな生態系、レジリエントな社会と何度も言及している。レジリエンスという言葉は使い古されているのか?


A:レジリエンスはポジティブな流行語であり、災害後に起こった悪いこと、不正行為、災害特有の社会的不公正に焦点を当てるのではなく、笑顔をもたらし、良いストーリーに焦点を当てさせる効果がある。

レリジエンスの概念を多用することに対する批判も出てきている。

SDGsの観点から見たレジリエンスのポジティブな点は、気候変動問題、災害問題、そして持続可能性問題の両方を結びつけていることだ。

つまり、レジリエンスは接着剤なのだ。

学術的な「接着剤」であると同時に、このような世界的な体制、世界的な合意を結びつける「接着剤」でもある。

2015年、我々はパリで協定を結んだ。仙台フレームワークと呼ばれる、災害リスク軽減のための15年間の世界戦略に関する協定も結ばれた。

私の考えでは、これらのことはすべて、一つの大きな世界的な枠組み、一つの世界的な戦略に統合されるべきであり、我々はそれを追求すべき。



Q:SDGsは、これらの異なる条約や協定を統合するための枠組みなのか?


A:災害に関する組織は仙台フレームワークに焦点を合わせている。SDGsは、次の15年後には、このような一貫した世界戦略を始めるきっかけとなる可能性がある。




(Katherine Richardson教授によるまとめ)


SDGsの多くは、社会やインフラのレジリエンス(回復力)を高めることに焦点を当てている。

クリスチャン准教授の意見では、レジリエンスはそれ自体が目標ではなく、むしろレジリエンスは人間の福祉を維持または向上させるための有用なツールを提供することができる。

アジェンダ2030やSDGsで示された社会的ビジョンを達成するためには、食糧生産やエネルギー供給など、人類の最も中心的な活動において大きな変化が必要だ。

レジリエンスとは、衝撃や変化から回復する力、立ち直る力を意味するため、レジリエンス単体では、必ずしも持続可能な発展を促進するものではない。

SDGsが持続可能な開発に大きく貢献するのは、我々が目指すべき方向性を示してくれることだ。

最終的なゴールを知ることは、現在のスタート地点がゴールに到達することに適合しているかどうかを評価するための前提条件となります。

SDGsで示された未来社会のビジョンは、持続可能な発展のために、どのような現在のシステムを抜本的に変革すればよいのかを評価するための有効な基準点となるものである。



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【メモ】


ハリケーン「カトリーナ」

2005年8月下旬にニューオリンズ市とその周辺地域を中心に、死者1800人以上、被害額1250億ドルを記録した、カテゴリー5の大西洋台風。

ニューオーリンズ市周辺の洪水防止システム(堤防)の致命的な工学的欠陥の結果として引き起こされた洪水は、人命損失の大部分をもたらした。

最終的には市の80%が数週間にわたって浸水した。

ハリケーン上陸前に避難していなかった何万人もの人々は、食料、避難所、その他の基本的な必需品をほとんど手に入れることができなかった。

後に、数十年前にこの地域の堤防を設計し建設した米国陸軍工兵隊が、洪水制御システムの故障に責任があると結論付けられたが、連邦裁判所は工兵隊の責任は問わないとの判決を下した。


2022/08/01 21:52

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