術後の話②
先週末、手術から2週間経ち、退院後初めての外来診察へ行ってきました。
今回の手術で執刀してくださった婦人科の主治医の先生の実況解説を聞きながら、実際の手術の動画を見ました。
(全部見ると3時間半かかるので、ダイジェストで)
本物の手術の映像を見たのは、初めてです!!
日頃から、医療ドラマなどそれほど見たことがなかったので、衝撃的でした。
まず最初に卵巣嚢腫の病理検査の結果を聞き……
婦人科の先生「脂肪や軟骨や髪の毛とかが入った腫瘍です」
わたし「は? 髪の毛??? どうして卵巣にそんなのがあるんですか??」
先生「卵は人の体になるものだからね」
核出した嚢腫の内部には、脂肪や軟骨や甲状腺や髪の毛などの細胞組織が含まれていたそうです。
これは卵巣嚢腫の中でも皮様嚢腫と呼ばれるものなのだとか。
原因はわかっていませんが、受精していないのになぜか卵子の細胞分裂が起きて途中で停止したため、中途半端にできた人の体の成分がたまって腫瘍化すると考えられているそうです。
今週、腎臓内科の外来診察にも行ってきました。
腎臓内科の主治医は、電子カルテで手術と病理検査の結果を見ながら……
腎臓内科の先生「手術おつかれさまでした」
わたし「髪の毛とかが入った腫瘍だったんですよ」
先生「ブラック・ジャックのピノコちゃんですよ。この病気を拡大解釈してファンタジーにしたのが、ピノコちゃん」
わたし「ピノコちゃんの元ネタってこれだったんですか!?」
実際の皮様嚢腫には人の体のすべての組織が入っているわけではないので、嚢腫から人体を組み立てるというのはファンタジーですが、ピノコのアイディアの元ネタとなった病気がわたしのお腹のなかにあったとは、本当に驚きです。
人体って精密すぎるから、こんな不思議な誤作動が起こるものなのでしょうか。
婦人科の先生の手術動画実況の話に戻ると、5センチ大の腫瘍だけを取り除いて(核出)、正常な卵巣を温存してくださいました。
映像で見ると、正常な部分が腫瘍に押しつぶされて、ぴろぴろのひものようになっていました。
先生によると、このひも状のものが時間をかけて正常な大きさ(2センチ程度の球状)に戻っていくのだそうです。
人体の回復力ってすごいですよね。
そして、鼠径ヘルニアではなく「謎の物体」と言われていた鼠径部のしこりは、病理検査の結果、子宮内膜症でした。
外科の先生の見立てが正しかったです。
今年7月頃、婦人科の先生からの紹介で、同じ病院の外科へ行くことになり、その最初の診察の時に……
外科の先生「(触診して)腸じゃないですね!」
わたし「ええ!?」
先生「腸はこんなにかたくないです」
わたし「腸じゃないなら、なんなんですか!?」
先生「謎の物体です」
わたしの外科の主治医は消化器外科の専門医だそうです。
触診しただけで即座に言い当てるとは、今まで10年以上、鼠径ヘルニアだと信じてきたのはなんだったんだという思いになります。
子宮内膜症は、本来子宮の内側にあるべき子宮内膜の細胞組織が、子宮の内側以外の臓器にできてしまい、増殖と炎症を繰り返す病気だそうです。
そう言われてみると、鼠径部のしこりが痛む時は月経周期と連動していました。
月経血が出る前、前日あたりから痛み始め、月経の間は痛み止めを服用していても、強い痛みを感じました。
これはおかしい、そんなわけないと、もっと疑いをもつべきでした。
月経痛はあって当たり前、生理は痛いもの、という間違った思い込みがあるせいで、自分が月経困難症である自覚が無い女性が少なくないのではないかと思います。
婦人科の先生の説明によると、子宮以外の臓器にできた子宮内膜症の組織は、自分が子宮だと勘違いしているため、月経の時に子宮と同じように出血するのだそうです。
わたしの場合は鼠径部に子宮内膜症ができていましたが、子宮内膜症は体のどの臓器にもできる可能性があり、肺にできた患者さんは月経のたびに血を吐くのだとか。
わたし「全身どこの臓器にもできるって、ガンじゃないんですか」
婦人科の先生「ガンみたいですけど、ガンじゃないです」
わたし「子宮内膜症の原因は何なんですか?」
先生「生理の血がお腹に逆流するためという説があります」
子宮内膜症の発症原因は、はっきりしていないそうですが、月経血がお腹のなかに逆流し、そこに子宮内膜組織がとどまるという説が有力なのだとか。
婦人科の先生「子宮内膜症が鼠径部だけでなく、子宮まわりにもありました」
わたし「子宮まわりにあるとどうなるんですか」
先生「(動画を一時停止しながら)子宮と卵巣と腸が癒着していました」
わたし「ええ!? ちょっとだけですか?」
先生「ちょっと以上ですね」
わたしの子宮内膜症は、外科の先生が切除してメッシュで修復してくださった場所だけでなく、子宮まわりのあちこちにあったそうです。
婦人科の先生は、「卵巣嚢腫と子宮内膜症は発症原因が異なる全く別々の病気」だと強調していましたが、結果的に子宮と卵巣と腸が癒着が起きてしまっていたのです。
映像を見ると、癒着した腸と子宮と卵巣を剥して、卵巣の嚢腫だけを核出したあと、全体を癒着防止シートで覆っていました。
子宮内膜症というのは完全に除去できるわけではなく、閉経までは月経のたびに悪化していくのだそうです。
また別の場所に同じようなしこりができる可能性が十分にあるとのことでした。
それで今後は、子宮内膜症を悪化させないためのホルモン療法を行うことにしました。
ジエノゲストという卵巣の機能や子宮内膜の増殖をおさえるホルモン剤を内服します。
わたし「このお薬はどんな効果があるんですか?」
婦人科の先生「排卵がなくなるので、生理が来なくなります。避妊薬ではないですよ」
わたし「妊娠を希望する時はどうするんですか?」
先生「その時はお薬をスパッとやめます」
わたしにとって、閉経とはもっとずっと先のことだと思っていました。
当面の間とは言え、こんなに早く閉経したような状態になるとは、思いもよりませんでした。
しかし、あの若い頃の誤診がなければ、もっと早期にホルモン療法を受けることができて、ここまで悪化することもなかったのではないかと思えてなりません。
返す返すも悔しいです。
もともとは、妊娠・出産したいという希望があって、腎臓内科の先生から今年6月頃に婦人科に紹介してもらったのでした。
婦人科と呼んでいますが、リプロダクティブセンターという今どきらしい名前がついていて、専門的な不妊治療を行っている科です。
それが、あれよあれよという間に手術することになり、今や排卵を止めるお薬まで飲むことになって、むしろ最初の目的から遠ざかっている気がします。
術後の外来検査では、腎機能が術前よりも低下していました。
手術の影響による一時的な低下であってほしいです。
そのため、今まで飲んでいたお薬から、腎臓保護効果のあるお薬に変えることになりましたが、このお薬も妊娠を希望する時には使えないそうです。
腎臓内科の主治医の先生とは、初診の時から妊娠を希望しているという話をしていました。
今週の外来診察で、先生は「妊娠するなと命令することは人道に反するので言えませんが、医学的見地から言って、妊娠はおすすめできません」とはっきり言いました。
妊娠を希望する場合、今使っているお薬を全部切って、妊娠中でも使えるお薬に変える必要があります。
現在のわたしのからだの状態では、仮に妊娠したとしても、出産まで耐えられないのだそうです。
せっかく妊娠できても、母体のいのちの危険があれば、母体優先の原則があるので、あかちゃんをあきらめなければいけなくなる可能性が高いのです。
あきらめないという選択をとり、自分が死んでもいいから産みたいと言っても、最終的に母子とも死んでしまうか、母体が生還しても重篤な後遺症が残り、あかちゃんは死んでしまう可能性の方が高い。
という話を主治医の先生は具体的に説明してくれて、わたしとしては薄々予想していたものの、あらためて言われてショックでした。
この問題については、これまで何度も夫と話し合っていて、40歳までは自分で産むという望みを捨てないでいようという結論(先送りとも言う)になっていました。
自分で産むことにこだわらなければ、養子という選択肢もありますし、代理母出産(1000万円~2000万円ほどらしい)という選択肢もあります。
一生、子どもを持たないという選択肢もあります。
来年、再来年のことを今ここで思い悩んでも意味がないのは分かっていますが、もやもや考えてしまいますね。
現在、術後3週間目に入り、着実に回復を感じています。
からだの内側の見えないところも回復していってほしいものです。
来週は、退院後初の外科の外来診察があります。
外科の主治医の先生には、子宮内膜症を見つけてもらって、本当に感謝しかないです。
早くお礼を言いたいです。