すごいぞVOICEPEAK
夫が予約注文していた「VOICEPEAK 商用可能 6ナレーターセット」が3月11日に発売でした。

3月は大変だったので、すっかり忘れていたのですが、最近思い出して試してみたら、これがとても楽しいのです!


最新のAI音声合成技術の進歩に驚くばかりです。

男性3名、女性3名、女の子1名の声が収録されています。

感情パラメータを調整することで喜怒哀楽の感情表現ができます。ピッチを上げると若々しい声、下げると落ち着いた声になりますし、読み上げる速度や間、イントネーションやアクセントのこまかな調整もできます。

十数年前に初音ミクが大流行していたときはピンと来なかったのですが、VOICEPEAKを自分で遊んでみて、当時の熱狂が少しわかった気がしました。


VOICEPEAKで作成した朗読作品がこちらです。

【聖書朗読】創世記27章「祝福をだまし取るヤコブ」(新共同訳)

拙作「バイブル・スタディ・コーヒー」の最新話におまけとして入れました。


初音ミクは、歌い手がいない作曲家に自作曲の演奏を可能にしました。

VOICEPEAKは、朗読作品や解説動画に向いていると思います。多くの作家が手軽に自作小説のオーディオブックを作成できるようになるでしょう。


2022/04/03 21:58

#нетвойне
最近、友人からロシア大使館に抗議文を出したいから、ロシア語で「戦争反対」はどう書くのか教えてほしいと聞かれました。

ロシア語を学んで、今年でちょうど10年ですが、こんな悲しい質問をされるようになるとは……。

ほかにも知りたいかたがおられるかも、と思うので書いておきます。


Я против войны с Украиной!

(私はウクライナとの戦争に反対します)


Против войны с Украиной!

(ウクライナとの戦争に反対!)


Я は「私は」という意味です。主語がなくても意味は通じます。


Нет войне! (戦争反対!)

No war! と同じような表現です。プラカードの標語に。ハッシュタグ #нетвойне はこちらの意味です。


2022/04/07 22:20

Week 1

The Sustainable Development Goals – A global, transdisciplinary vision for the future

(持続可能な開発目標 - グローバルで学際的な未来へのビジョン)

提供 コペンハーゲン大学

講師 Katherine Richardson(海洋生物学教授)


この講座は、2016年に国連事務総長によって「持続可能な開発に関するグローバル・レポート2019」を執筆する15人のパネルのメンバーに任命された、キャサリン・リチャードソン教授が企画・指導を担当する。

各講義では、キャサリン教授がそのトピックの専門家にインタビューする。


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これから、各講義の要点をまとめたり、気になった議論をメモしていきます。


Week 1:A history of sustainable development

A history of sustainable development

(Katherine Richardson教授の講義要点)


宇宙から見た地球の写真は、地球の資源が無限ではないことを視覚的に証明している。

国連の193の加盟国が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。

資源が有限であることを示す証拠が得られてから、それが政治の場で認められるまでに長い隔たりがあるのは、何かが限られていることを認めたら、その何かをどのように共有するかを検討し始めなければならないからかもしれない。

持続可能な開発目標(SDGs)は、2030アジェンダの一部である。

SDGsは、地球の資源をどのように分かち合うかについてのビジョンと言える。


2030アジェンダ、1987年に環境と開発に関する世界委員会が出した「ブルントラント報告書」によって導入された持続可能な開発に関する理解をさらに発展させたものだ。

ノルウェーの元首相グロ・ハーレム・ブラントラントにちなんで「ブルントラント報告書」と呼ばれる報告書は、「Our Common Future」(我ら共有の未来)というタイトルで書籍化された。ブルントラント報告書は、2つの重要な点を指摘している。

第一に、世代間公平の重要性を強調した。今日の私たちの資源利用を通じて、将来の世代の潜在的な生活水準を低下させてはならない、という主張である。

第二に、持続可能な開発には、経済の持続可能性に加えて、環境と社会の持続可能性も考慮する必要があると主張した。


しかし、ブルントラント報告書の時点では、環境と社会の持続可能性とは何を意味するのか定義することはできなかった。

この30年間で、私たちはこの2つの持続可能性を理解することができるようになった。

要するに、環境の持続可能性とは、人間の資源に対する需要を世界的な資源供給量の範囲内に収め、維持することを意味する。そして、社会的な持続可能性は、基本的な人権が尊重されることを要求している。




専門家インタビュー

Mogens Lykketoft(モーエンス・リュッケトフト)

SDGsが採択されたときの国連総会で議長を務めた。デンマークの元外務大臣で国会議員。


Q:SDGsや2030アジェンダに何か特別なものはあるのか? 国連の歴史の中で、合意に到達するまでのプロセスに何か違うとことはあるのか?


A:私たちは極度の貧困との闘いを続けるだけではいけない。私たちは、地球資源の制限やより公平な分配にもっともっと大きな関心を払わなければいけない。社会的、経済的、環境的な持続可能性についてである。それが、実は「持続可能な開発のための17の目標」なのだ。

2030アジェンダは、193カ国の政府の努力によって採択されたものだが、少なくとも800万人以上の人々がこの準備に参加した。革命的とさえ言える、グローバルなアジェンダである。


Q:多くの企業がSDGsに注目していることはとても良いニュースだが、17もの項目は多すぎて対応できないと言っているのが現状だ。


A:目標13の気候変動は、最も緊急性の高いものだと認識する必要がある。なぜなら、気候に関する開発を本当に変え、地球温暖化を本当に制限しなければ、残っている他の課題のために資源を動員することができないからだ。

なぜなら、地球温暖化は、巨大な強制移住や新たな紛争を生み出し、多くの資源がアジェンダ全体から吸い取られてしまうからだ。だからこそ、気候に関する行動が急務なのである。そうすることで、このアジェンダの他の多くの問題についても進展させることができるようになるだろう。


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【所感】

it emphasized the importance of intergenerational equity

the report argued that we must not, through our resource use, today, lower potential living standards of future generations.


生命と健康に関する将来世代の権利(=将来世代に対する私たちの義務)は分配的正義の問題と言える。

将来世代に資源を使う権利があるならば、なぜ私たち現在世代は資源を保全しないのだろうか。


私たちは自分の子供の世代や孫の世代に対する義務を負っているが、10世代後、20世代後、100世代後の子孫に対する義務まで負っているわけではない、と考える人々もいる。

しかし、私たちが近未来の世代のために資源を保全する義務を負っているとすれば、近未来の世代は、(私たちから見て)遠い将来の世代の権利を尊重するために、後代のための資源を保全する義務を負っている。

要するに、世代間倫理(私たちは将来世代に対して責任を負っている)を前提としたうえで、持続可能性に関する議論があると言える。


Week 1:How do we measure progress? ①

How do we measure progress?

(進捗をどのように測るのか?)


持続可能な開発目標には17の目標がある。多すぎるという意見も多く、目標が内部で矛盾しているのではないかという意見もある。

SDGsは政治的な交渉によって合意されたものであり、妥協の産物であることを忘れてはならない。2015年の交渉終了間際には、実際に目標の数を減らそうという声もあったが、どの目標も強力な支持者がいるため、どの目標を減らすかについて合意することは不可能だった。

その結果、17の目標が残され、それぞれにサブゴールやターゲットが設定された。SDGsは全部で169のターゲットで構成されている。

各ターゲットにはその世界的な状況を評価するための指標が示されている。SDGsに対するグローバルな進捗を測るために、合計で230の指標が設定されている。



専門家インタビュー①

Peter Birch Sorensen(コペンハーゲン大学、環境経済学教授)


Q:持続可能性とGDPはどう関係があるのか?


A:GDPとは国内総生産の略で、経済活動、主に市場活動と公共部門の活動を表す指標。GDPと物質的な生活水準との間には明確な関係がある。しかし、問題は、GDPが経済活動によって環境に与えるコストを考慮していないことである。

つまり、GDPは、human welfare(人間の福祉)を示す指標とはみなされないということだ。この概念を考案した経済学者たちは、GDPが福祉の指標になるとは考えもしなかった。

人間の福祉は、生命の基盤である生態系など多くのものに依存するが、GDPの増加がこれらの生態系の破壊や劣化を犠牲にして行われることもある。


Q:新しい指標を見つけるには、まったく新しい指標が必要なのか、それともGDPを補完すればいいのか?


A: human welfare(人間の幸福)を表す指標を見つけるのは、非常に難しいことだ。The green GDP(グリーンGDP)は、少なくとも経済活動が環境に与える影響を可能な限り考慮しようとする試みである。もし、その年に環境が破壊されたなら、そのコストを推定し、GDPから差し引く。一方、環境を改善するために何らかの投資が行われた場合は、それをグリーンナショナルプロダクトと呼び、GDPに加える。そうすることで、環境を犠牲にして成長したGDPがどこであるかをよりよく把握することができる。

しかし、環境へのダメージを測定するだけでは十分ではない。モノやサービスの環境は、市場では取引されない。市場で取引されるモノやサービスの価値に環境の価値を上乗せすることに意味があるのかどうか、疑問を持つ人さえいる。

だから、より強力な環境政策が必要だ。つまり、環境財やサービスに価格をつけるようにすることである。

例えば、汚染税によって、消費者である私たちや企業が、彼らの行動による環境コストに直面するようにする。汚染税が現実的な政治的理由で不可能な場合は、環境に有害な分野での経済活動を制限する規制、つまり環境規制が必要である。

私たちは経済政策の方向性を変える必要がある。これまでのアプローチを見直せば、持続可能な開発を実現するためのツールとして、市場を積極的に活用することができる。



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【所感】

Goals 8:Promote sustained, inclusive and sustainable economic growth, full and productive employment and decent work for all


目標8の経済成長とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を同時に実現するのは非常に難しい。たしかに内部で矛盾していると思う。

UN websiteを見ると、目標8には8.1から8.10および8.a、8.bまで12のターゲットが設定されている。

ターゲット8.1、8.2、8.9の進捗を評価するための指標は、GDPだ。


8.1

Sustain per capita economic growth in accordance with national circumstances and, in particular, at least 7 per cent gross domestic product growth per annum in the least developed countries

(各国の事情に応じた一人当たりの経済成長、特に後発開発途上国においては少なくとも年率7%の国内総生産成長率を維持すること)


Indicators

Annual growth rate of real GDP per capita

(一人当たり実質GDPの年間成長率)


8.2

Achieve higher levels of economic productivity through diversification, technological upgrading and innovation, including through a focus on high-value added and labour-intensive sectors

(高付加価値部門や労働集約型部門への注力など、多様化、技術向上、イノベーションを通じて、より高いレベルの経済生産性を達成すること)


Indicators

Annual growth rate of real GDP per employed person


8.9

By 2030, devise and implement policies to promote sustainable tourism that creates jobs and promotes local culture and products

(2030年までに、雇用を創出し、地域の文化や産物を促進する持続可能な観光を促進するための政策を考案し、実施する)


Indicators

Tourism direct GDP as a proportion of total GDP and in growth rate

(総GDPに占める観光GDP直接寄与額の割合と成長率)


Courseraでオンライン講義を受けてみる
Courseraは、オンラインで誰でも世界トップレベルの大学の講義を受けられるMOOC(Massive Open Online Course)です。

日本からは、東京大学が講座を提供しています。

情報科学やビジネスの領域では、やる気があれば学士や修士の学位まで取得することができます。


2020年以降、新型コロナウィルスの影響により、外国語学科のある国内の大学のほとんどで留学が中止となり、現地渡航せずにオンライン留学で単位認定をするようになった、という話を聞きました。


Courseraは、まさにオンライン留学だと言えます。

100%オンラインで学習できるって、魅力的ですよね!

どんな講座があるのか調べてみたところ、よく知られている情報系だけでなく、実は人文系の講座も充実していることが分かりました。(ただし学位は取得できません)


真っ先に受けてみたいと思った講座は、

Religions and Ecology: Restoring the Earth Community

(宗教とエコロジー:地球共同体の再生)

by イェール大学


リン・ホワイトの古典的名著『機械と神』など、キリスト教と環境問題を論じた著作は今までもよく読んだことがありました。

この講座は、西洋キリスト教だけでなく、先住民の宗教(アフリカ、アジア、アメリカ、太平洋地域)、南アジアの宗教(ヒンズー教、ジャイナ教、仏教、シーク教、バハイ教)、東アジアの宗教(儒教、道教、仏教、神道、韓国シャーマニズム)まで取り上げます。世界中を網羅しているのです!

ただし、学習所要時間が12カ月(推奨ペースで)と書いてあります。まる2セメスター分じゃないですか!

そのうえ、世界に公開して受講生が3万人もいるのに、評価がたった19件、レビューは8件しかありません。(もちろん高評価です)

やはり、登録しても最後までやり通すのは難しいのでしょうね。



それで、まずは次の講座を選択しました。

The Sustainable Development Goals – A global, transdisciplinary vision for the future

(持続可能な開発目標 - グローバルで学際的な未来へのビジョン)

by コペンハーゲン大学


わたしは以前から、環境倫理学(世代間倫理、土地倫理、樹木に原告適格はあるのか、動物権利論など)や生命倫理学(reproductive health and rightsなど)に興味がありました。

意外に思われるかもしれませんが、人類は倫理的(道徳的)には進歩し続けています。わたしがピーター・シンガーの動物解放論や、トム・レーガンの動物権利論について学んでいたとき、否定的な受け止めや反対意見の方が多く見られました。

そんな動物福祉の倫理が、今や日本でも「アニマルウェルフェア」とカタカナ語で定着していますね。

生命倫理も環境倫理も、SDGsに含まれています。

この講座を受講することで、知識をアップデートしたいと思っています。


ちなみに、コペンハーゲン大学とはどんな大学なのか調べてみたところ、哲学者キェルケゴールの出身校でした!


2022/04/15 19:37

Week 1:How do we measure progress? ②

How do we measure progress?

(進捗をどのように測るのか?)


SDGsの中で、多くの先進国が本当に苦労しているのは、目標12の「責任ある生産と消費」である。


専門家インタビュー②

Michael Zwicky Hauschild(デンマーク工科大学教授)


Q:私たちが購入したものが責任あるものかどうか、持続可能なものかどうか、どうすれば本当に知ることができるのか?


A:持続可能な開発とは、将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすことである。つまり、持続可能な消費とは、将来の世代を危険にさらすことなく、その消費の物質的基盤を損なうことなく行える消費なのだ。そして、その消費は、私たちが購入する製品を通じて行われる。

したがって、ある製品が持続可能かどうかを語るには、まず私たちの消費パターンが持続可能かどうかを語る必要がある。持続可能かどうかは、消費者が何人いるかによって決まる。つまり、世界の人口数、そして豊かさのレベル、そしてそれらがどのように世界に分布しているかということだ。

SDGsは、世界中の誰もが健康的な生活を送り、教育を受けることができるようにすることに焦点をあてている。そのため、私たちの消費には絶対的な限界がある。

さらに、もし私がこの製品を消費するとしたら、この製品に関連する温室効果ガスの排出量はどうなるのか、ということである。それを判断するためには、製品のライフサイクル全体(ゆりかごから墓場まで)を見る必要がある。

例えば、ガソリン車を運転すればCO2は排出されるが、車を製造する際にも、車に使われる金属の原料となる鉱石を採掘する際に、CO2をはじめとする温室効果ガスが排出されている。車が寿命を迎えて廃棄されるときにも、CO2などの温室効果ガスが排出される。


Q:私たちが生産と消費について語るとき、持続可能性とは何か、ということは理論的には分かっている。しかし、ひとつの製品にそれが「持続可能性」であるというラベルを貼れるような仕組みはまだない。


A:この空間を定量化するという科学的な課題があり、それをどのように共有するかを決めるという政治的な課題がある。

しかし、私は、環境への影響に基づく製品へのさまざまな課税方法を研究することは、非常に有望だと考える。環境への影響を数値で表すことができる。

製品税も環境への影響に応じたものにすることができる。つまり、環境への影響が大きい製品は、良い製品よりも製品税が高くなるようにすることができるのだ。そうすることで、より持続可能な製品に需要を誘導することができるだろう。



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【所感】

Goals 12:Ensure sustainable consumption and production patterns

(持続可能な消費と生産パターンの実現)


環境への影響に基づく課税は、すでに日本でも行われている取り組みだ。環境性能によって税額が下がるエコカー減税や、国から補助金が出る制度(クリーンエネルギー自動車導入促進対策費補助金)がある。


環境と人権に配慮して生産された製品であることを示す認証マークは、すでにさまざまな取り組みがある。


Rainforest Alliance

1987年にアメリカで設立され、35年間活動を続けている国際NGO。農業に関する認証マーク(小さな緑のカエル)で知られている。


Fairtrade International

1997年に設立され、ドイツを本拠地に25年間活動を続けている非営利団体。農業従事者の自立支援のための認証マークで知られている。コーヒー、ココア、バナナ、花、紅茶、砂糖が主な対象製品。


認証マークがあっても、それを消費者が選ばなければ意味がないです。

わたしがフェアトレード認証された製品を紹介する取り組みをしていたときは、この認証マークについてほとんど知られていなかったし、説明しても、なぜその製品を選んでほしいのか、共感してもらえないことが多かったです。

近年では、フェアトレードという概念は教科書でも教材として取り上げられることが多くなり、感慨深いです。

最近では、「エシカル消費」(倫理的消費)というマーケティング用語が、日本でも定着しつつありますね。


幸せに関する誤解

最近、Courseraで夫はポジティブ心理学を学んでいます。

受講中の講座は、


The Science of Well-Being

by イェール大学

講師 Laurie Santos(心理学教授)


なんと、世界に389万人も受講生がいる超人気講座なのです!

やっぱり誰もが幸せになりたいと思っていて、怪しげな自己啓発セミナーに通うよりかは、エビデンスに基づく話が聞きたいんだな。

well-beingというのは「良い状態」、つまり「幸福」を意味する言葉です。この言葉は、SDGsでも目標に掲げられています。

Goals 3:Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages

(あらゆる年齢層の人々の健康な生活と幸福の増進を確保する)

ただし日本では、誤解が生じるのを避けるためか、well-beingを「幸福」ではなく、「ウェルビーイング」とカタカナ語で表記したり、「福祉」と訳したりしていますね。


夫は毎回、視聴した講義の要点を教えてくれます。おかげで、わたしもポジティブ心理学について知見を広げつつあります。

今週、Week 2のテーマはぜひ覚えておきたい内容でしたので、メモしておきます。



Misconceptions about Happiness(幸福に関する誤解)

What do we think will make us happy?

(私たちは、何をすれば幸せになれると考えているのだろうか?)


これがあれば幸せになれる、と私たちが考えているもの。それは、

Awesome Stuff, True Love, Perfect Body & Good Grades

つまり、お金、良い就職先、良い物、真の愛、美容、良い成績(学歴)である。


これらの要素は、私たちがそれを手に入れるまでの間(就職試験や大学入試などで合否を待っている間)に想像していたほど、実際に手に入ったときには幸福度は上がらない

しかし、これらが幸福度を上げてくれる、と私たちは信じ込んでしまっている

なぜなら、年収や良い就職先、良い物(家、車、服飾品など)、美容、良い成績・学歴は、人と比較しやすいからである。

人と比べやすいものは、幸せの指標であると脳が錯覚しやすい


良い就職先や良い学歴を手に入れたからと言って、人生に満足感を得られる、ポジティブな感情が増大するというわけではなく、さらに良いものを持っている人と比べてしまい、むしろネガティブな感情が増大することが、長年にわたる心理学の調査と実験によって分かっている。

一般的に、アメリカ人の幸福度は1940年代と現代とを比べると、ほぼ変わらず、むしろ現代の方が若干下がっている。

1940年代は、現代のような下水道も整備されておらず、給湯器も家電製品もなかった。

1940年代と比べれば、生活水準がきわめて高くなっているにもかかわらず、現代のアメリカ人の多くがうつ病になって、日常的に抗うつ薬を服用している。


現代では、特にSNSの登場によって、人との比較がかつてよりも格段にしやすくなってしまった。

したがって、何が幸福かに関する誤解は数十年前の人々も、現在の私たちも同じなのだが、人と比べやすい環境になればなるほど、幸福度は下がる結果になる。


特に美容整形を求める人々は、醜形恐怖症など、何らかの精神的な病が背景にある場合が多い。

もともと精神的な疾患のある人が、美容整形をした後に、病状がどのように変化したかを追跡した調査によれば、ネガティブな気持ちが増大し、むしろ病状は美容整形前よりも悪化していたことが分かった。

にもかかわらず、患者本人は美容整形によって幸福が得られると思い込んでしまっている。

ここにも、幸福に関する誤解がある。


私たちは、自分の思考のくせをrewiring(リワイヤリング、配線の組み換え)をしなければならない。

しかし、これらの幸福に関する誤解は、脳の錯覚と同じなので、それが間違いであると頭で理解しても、思い込みを変えるのは難しい

二つの矢印を見て、両方同じ長さだと分かっても、どちらか片方が長く、もう片方が短く見えてしまう、目の錯覚と同じだ。


2022/04/18 20:48

Week 1:SDG Interactions – One for All and All for One!
SDG Interactions – One for All and All for One!

(持続可能な目標の相互作用)


2030アジェンダの採択以来、SDGsの17の目標(169のターゲット)を相互にマッピングする研究が行われている。

最近、国際科学評議会(ICSU)が4つの目標間の相互作用を考慮した研究を行った。

目標2の「飢餓ゼロ」、目標3の「健康と福祉」、目標7の「安価でクリーンなエネルギー」、目標14の「海洋資源」という4つの目標の間には相互作用がある。これらの目標と他の目標の間にも、さらに無数の相互作用が存在する。


企業やその他の組織は、17ある目標の中から自分たちの製品や活動に最も関連があるものを選び出す傾向がある。ほとんどの場合は、自分たちの活動がポジティブな貢献をするものを選ぶが、一部の目標しか考慮していないため、異なる目標に対してはネガティブな影響を及ぼす可能性がある。

各国には、農業、健康、エネルギーなど、さまざまな部門を担当する省庁があり、法律はこれらの異なるセクター、またはシステムに関して作られる。そのため、SDGsを日常の意思決定と関連づけることが難しい。

異なるSDGs間の相互作用にはネガティブなものもあればポジティブなものもある。

SDGs全体に対して、プラスの相互作用を利用すると同時に、マイナスの影響を減らす努力をしなければ、持続可能な開発を達成することはできない。



専門家インタビュー

Bruce Campbell

国際農業研究協議グループ(CGIAR)の気候変動・農業・食料安全保障研究プログラムのディレクター

(CGIARとは、国際農業研究センターを束ねるグローバルなパートナーシップ。1971年に設立され、51年間活動を続けている。農村部の貧困を減らし、食料安全保障を高め、人々の健康と栄養を改善し、天然資源の持続可能な管理を行うことを目的としてる)


Q:食糧生産は人々が生存するために不可欠なものだが、目標3の健康以外に、SDGsとどのような相互作用があるのか?


A:まず第一に、貧困の撲滅である。農業開発は目標2の貧困削減の重要な部分を占めている。

また、目標6の水の問題にも関連している。農業は現在、地球の水資源(使用可能な水)の70%を使用している。

さらに、農業生産は、目標15の生物多様性の変化や目標13の気候変動の主な原因となっている。

水、生物多様性、気候変動は農業生産に関連する大きな問題だが、それ以外の問題にも関連性がある。例えば、目標5のジェンダーの問題である。発展途上国では、農業の大規模なfeminization(女性化)が進んでいる。つまり、男性よりも多くの女性が農業に従事しているのだ。そのため、農業開発においてもエンパワーメントアプローチが必要である。

このように、農業生産は、ほぼすべてのSDGsとの関連性を見出すことができる。


Q:SDGsはグローバルなビジョンだが、ローカルレベルでは異なる展開になる。同じ目標を達成するために、地域ごとにどのようなレバレッジをかけるか?


A:農家の畑から国レベルの政策、世界レベルの政策まで、あらゆるスケールで取り組む必要があり、それらすべてが一体とならなければならない。本当の解決策は、国や農場といったランドスケープレベルにあるのだ。

例えば、ガーナでは、農家に携帯電話を提供し、誰もがアクセスできるようにすることが解決策になるかもしれない。携帯電話があれば、次の季節の気候情報を入手し、どの種を栽培すればよいかを知ることができる。携帯電話で保険に加入することは、すでに世界のいくつかの地域で行われている。地域によっては肥料をより多く使うこと、それは別の地域ではより少なく使う実験もしている。

このように、解決策というのは非常に文脈に依存するものなのだ。トレードオフを地域レベルで理解し、解決策を地域レベルで対処する必要がある。


Q:食生活や文化についてはどう? 肉食を控えるべきだとよく言われているが。


A:世界のある地域では、肉食は健康問題と強い結びつきがあり、家畜が地球環境への悪影響の多くを引き起こしている。

しかし、別の地域では、人々は年に3、4回、儀式で肉を食べるだけである。彼らの食文化では過剰な消費は絶対にないし、畜産に依存した生活をしている。そのため、畜産をなくすことはできない。貧困問題に大きな影響を与えることになるからだ。


Q:持続可能な開発を行いながら、90億から100億の人々を養うことができると本当に信じているか?


A:本当にそれが可能だと信じている。まず第一に、多くの発展途上国における生産量は潜在的な可能性を大きく下回っている。食糧生産量を増やすことは可能だが、sustainable intensification(持続可能な集約化)によって行う必要がある。


Q:目標14と15、海と陸の生物多様性についてはどうか?


A:農業は生物多様性に大きな影響を及ぼしている。陸上では、世界の森林減少の70%以上を占め、地球上の土地被覆変化の主な要因となっている。

私たちの多くは、その解決策としてsustainable intensification(持続可能な集約化)を考えている。このアプローチでは、基本的に、より少ないインプットでより多くの生産を行うことができる。森林ガバナンスを改善し、改良農業が森林地帯に広がらないようにする必要がある。


Q:森林破壊の70%は農業が原因だと言ったが、水についてはどうか?


A:農業は、現在使用されている淡水の70%を占めている。さらに、水系に肥料や窒素を投入し、世界の一部の湖では、大規模な腐敗を引き起こしている。肥料は強力な温室効果ガスにもなり得るので、その問題にも関連している。

農業の集約化とより的を絞った肥料の使用によって、これらの問題のいくつかを解決することができる。例えば、中国では肥料使用に対する補助金があるが、実際には肥料を過剰に使用している。肥料使用をたった5%下げるだけで、同じ量の生産、つまり食糧生産を維持することができるのだ。中国では、15億ドルの補助金を削減することができる。

言い換えれば、金融システムと環境システムとの間で、何年にもわたってトレードオフが行われてきたのである。


Q:つまり、経済的なインセンティブを実際に使って、農業に必要な変化をもたらそうということか?


A:その通り。例えば、補助金制度があるが、気候的にも環境的にもあまり賢明ではなく、撤廃されるべきものが多い。補助金であることに変わりはないが、より適切な配置にすることができるだろう。マイクロクレジットのパフォーマンスを向上させることもできる。保険制度を推進することもできるかもしれない。


Q:つまり、突き詰めれば、農業システムを変えない限り、持続可能な開発は不可能だということか?


A:それは間違いない。そのため、10年以内に農業システムを大きく変え、まったく異なる形態の農業に転換しなければならない。


Q:気候変動問題に対応するためには、エネルギーシステムを抜本的に変える必要があることを誰もが知っていることだ。しかし、農業のシステムも変える必要があることを知っている人はほとんどいない。なぜなのか?


A:それはとても残念なことだ。気候に依存しているため、気候変動によって最も影響を受けるのは農業である。農業は温室効果ガス排出量の30%を占めているのだから、それに対処しなければならない。

例えば、米の農家は、航空産業と同じ温室効果ガスの排出量を出している。航空業界は気候変動に対してある程度真剣に取り組んでいるようだが、米の農家はそうではない。例えば、5億人の小規模で高齢の農家である。小さな土地を持つ多くの人々を相手にしている。

民間でこの問題に対処するアプローチのひとつに、大企業がある。例えば、ケロッグ社は米の生産にとても興味を示している。この業界では大きなプレーヤーになる可能性がある。彼らは、ビジネスのやり方を変えようとする点で、多くのリーダーシップを発揮している。



(Katherine Richardson教授のまとめ)

SDGsは世界共通の目標だが、その達成は地域レベルで異なっている。食糧システムの持続可能な変革には地域ごとに異なるアプローチを使うことが必要だ。

社会にとって重要なエネルギー、輸送、市場などのシステムはすべて、SDGsのすべてとは言わないまでも、そのほとんどと相互作用があり、地域によってその展開が異なる。

つまり、SDGsはすべて相互に関連しており、三銃士の精神(全ては一人のために、一人は皆のために)で考える必要がある。そのようにして初めて、私たちが暮らす世界の実際のシステムの文脈の中で思考し、規制し始めることができる。


Week 1 修了
Week 1は次のような構成でした。


講義1(動画)A history of sustainable development

講義2(動画)How do we measure progress?

講義3(動画)SDG Interactions – One for All and All for One!


学習用教材1 UN websiteで17の目標と169のターゲット、230の指標を学習する

学習用教材2 A Guide to SDG Interactions: from Science to Implementation, International Council for Science (ICSU), Paris, 2017

→Executive summary, pp. 7-17

→Introduction: A Framework For Understanding Sustainable Development Goal Interactions, pp. 18-30

追加資料 The Brundtland Report, 1987


テスト


ディスカッションプロンプト

Which SDGs do you think your country is farthest along with and where are its greatest challenges?

How could these challenges be addressed?



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講義動画は音声が英語で、英語字幕があります。字幕はアラビア語、フランス語、ポルトガル語など複数の言語に対応していますが、日本語はありません。


わたしはこの講義を受けるまで、SDGsに17の目標があることは知っていましたが、サブゴールとして169ものターゲットがあり、進捗状況を測る指標が230も設定されているとは、知りませんでした。

学習教材として指定されていた国連のウェブサイトは英語なので、ターゲットと指標を訳しながら全部読んでいたら、一週間以上かかってしまいます。

外務省が日本語訳してくれた「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(外務省仮訳)を見つけて、だいぶ学習が進みました。外務省さん、ありがとうございます。こちらは、169あるターゲットまで訳されています。指標については国連のウェブサイトを読むしかありません。


もう一つの学習教材、ICSUの報告書「SDG相互作用のガイド:科学から実装まで」(2017年)は全239頁もあり、もちろん英語です。教材指定は7-17頁と18-30頁です。こちらは日本語訳は見つかりませんでしたので、自分で訳しながら読みました。



理解度テストは、全問正解できて成績評価100%でしたので、無事にWeek 1を修了することができました!

倫理規定があって、内容についてご紹介することはできませんが、質問と回答は英語です。

講義の専門家インタビューを聞き流していると正答できないので、しっかり理解してから、テストを受けることをおすすめします。



ディスカッションは、「あなたの国がSDGsで最も進んでいるのは何か? また最も課題であるのは何か?」という問いかけについて、世界の受講生がそれぞれの意見を投稿していました。

資料として、Sustainable Development Report 2021が提示されていたので、わたしも日本のSDGs達成順位と目標別の達成度合いについて読んで、意見を書き込みました。

2021年の日本の達成順位は世界18位でした。日本で達成されているのは、目標4(教育)、目標6(安全な水とトイレ)、目標8(働きがいと経済成長)、目標9(産業とイノベーション)です。

一方、達成度が低いのは、目標5(ジェンダー平等)、目標10(格差の解消)、目標13(気候変動対策)、目標14(海の豊かさ)です。


他の受講生の投稿をざっと読んでみたところ、インドの受講生はランクが117位から120位に下がったこと、飢餓ゼロ、健康と福祉、男女平等、持続可能な都市とコミュニティなど11のSDGsで大きな課題があることを書いていました。

ガーナの受講生は気候変動の課題について、マレーシアの受講生は生物多様性の課題について書いていました。

サウジアラビアの受講生は、陸域生態系の保護と回復、持続可能な利用の促進、森林の持続可能な管理、砂漠化との戦い、土地の劣化の阻止と回復、生物多様性の損失の阻止を課題として挙げていました。


ディスカッションを少し読んだだけで、こんなに世界中の学生がこの講義を同時に受けていることが分かって、うれしい気持ちになりました!

そして、SDGsは世界共通の目標であっても、その達成は地域ごとに異なり、地域ごとに異なるアプローチで課題に取り組む必要があるのだな、とあらためて感じました。


Week 1 雑感
Week 1の講義内容を少し振り返ってみます。

海洋生物学のKatherine Richardson教授のナビゲートで、毎回さまざまな分野のゲストのお話を聞くことができて、非常にぜいたくな講義だと思います。

Week 1では、モーエンス・リュッケトフト第70回国連総会議長を皮切りに、環境経済学、工学、農学の専門家による講義を受けました。



環境経済学のPeter Birch Sorensen教授のお話で、グリーンGDPという指標があることを初めて知りました。

まだアカデミアの世界でしか使われていないそうですが、いずれ実際の政策決定の現場でも使われるようになるのでは、と思いました。



デンマーク工科大学のMichael Zwicky Hauschild教授のお話では、ある製品の環境負荷コストを算出するためには、製品のライフサイクル全体(ゆりかごから墓場まで)を見なければいけない、ということを学びました。

例えば、太陽光発電は自然エネルギーだから環境にやさしいとよく言われていて、約10年前から急速に日本中に設置されました。しかし、太陽光パネルの耐用年数は20年~30年。

寿命を迎えた太陽光パネルは、金属くずとガラスくずと廃プラスチック類が混合した、鉛などの有害物質も含まれる産業廃棄物となります。

環境省は、ガラスや金属のリサイクルを推奨していますが、現状では埋め立て処分される場合がほとんど。2040年までには年間80万トンもの使用済みパネルが廃棄されると試算されています。

太陽光パネルの生産から廃棄処分までのライフサイクル全体を考えると、本当にどれほど「環境にやさしい」と言えるのか、疑問に思ってしまいます。

教授が語っていたように、製品のライフサイクル全体の環境への影響を定量化する研究がもっと進むことを期待したいです。



国際農業研究協議グループ(CGIAR)のBruce Campbellディレクターのお話は、Week 1でもっとも刺激的で、興味深かったです。

米農家が航空業界と同じくらいの温室効果ガス排出量であるとは、驚きでした!

持続可能な農業について、sustainable intensification(持続可能な集約化)という言葉で表現しているのが印象に残りました。

持続可能な食糧増産とは、森林地帯に農地を拡大させないこと、的を絞った効率的な肥料使用すべきだということ。

農業生産の効率化、集約化のためには大企業がリーダーシップをとる必要があり、ケロッグ社を例に出していました。


この講義を受けた後、以前に読んだ『脱「開発」へのサブシステンス論』(法律文化社、2004年)を久々に読み返してみました。本書は、横山正樹(フェリス女学院大学国際交流学部教授)、郭洋春(立教大学経済学部教授)、戸崎純(東京都立短期大学教授)をはじめ、全15名の研究者が執筆しています。※肩書は出版当時

本書全体を通して開発主義への反発があって、「脱開発」が掲げられており、強烈な反グローバリゼーションです。行き過ぎた資本主義と環境破壊に対抗するためには、地域の自立とネットワーク(いわゆるグローカル)によるオルタナティブな経済が必要だと言う主張です。


途上国の貧困と環境問題を取り扱う分野では、このような主張はきわめて多いのです。

研究者だけでなく、実際に現地で支援活動を続ける国際的なフェアトレード団体や環境保護団体も、同じようなアピールをしています。

植民地時代の名残りである単一栽培、大農場での児童労働、環境を汚染する農薬と肥料、非人道的な人口管理政策など、取り組むべき問題をあげればキリがないのですが。

簡単に言えば、巨大アグリビジネスは地方の文化と伝統を破壊する敵であり、現地を未だに経済的な植民地のままにしている諸悪の根源であるから、一致団結して戦わなければならない、という主張ですね。

ついでに、工業化に対する反発(現地の雇用が失われるから)も語られることが多いです。


しかし、CGIARの気候変動・農業・食料安全保障研究プログラムの専門家の意見は、反資本主義、反グローバリゼーションとは真逆なのです!

Bruce Campbellディレクターは、途上国の農業において男性よりも女性が多く従事しており、ジェンダーの問題もあることをきちんと語っていました。

地域ごとに事情があることをよく分かった上で、いかにして経済的なインセンティブを働かせるか、巨大アグリビジネスは敵ではなく、農業を持続可能なシステムに変革していくための強力な味方としていくべきだと主張しています。

Campbellディレクターは、「持続可能な集約化」は「銀の弾丸」ではないのだ、とあらかじめ言っていました。そもそも、魔法のように全ての問題を解決してくれる「銀の弾丸は存在しない」のです。


国際的なフェアトレード団体の児童労働撲滅のための長年の取り組みを知っているので、巨大アグリビジネスを本当に味方にできるのか、というのは疑問に思います。

寡占化が進むことで、ますます富の偏在になるかもしれません。

しかし、森林地帯を守るためにも、農業を今よりも効率化、集約化すべきであることはよく分かります。

効率化のためには機械化が欠かせませんが、人間よりも機械の方が高いので、いつまでたっても手作業がなくならないのでしょう。


つまるところ、人間の価値(労働賃金)が低くされていることが問題の根本であって、農業の女性化が進んでいるという理由も、男性よりも女性の方が安い労働力として扱われているからです。

SDGsは、世界中の誰もが健康的な生活を送り、教育を受けることができるようにすることを目標にしています。

気候変動への取り組みは喫緊の課題ですが、それは目的ではなく、人々が将来世代まで安心して暮らせる環境づくりのために必要な手段です。

農業の専門家による講義を通じて、SDGsでもっとも重要なのは、人権問題なのだな、と感じたのでした。


Week 2:The Anthropocene ①
The Anthropocene(人新世)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


SDGsの目標13、14、15の三つは、私たちが地球上で維持したい環境のあり方を直接的に扱っている。そこで、人間と環境との関わりについて考えてみよう。


私たちは「人新世(アントロポセン)」に生きているとよく言われる。人間の活動が地球上のオゾン層に影響を与えていることを発見し、ノーベル賞を受賞した3人の化学者の一人であるパウル・クルッツェン氏が2000年代初頭に提唱した言葉である。

地質学者は、地球の歴史上の各時代に、その時代に蓄積された地層の特徴に基づいて名前を付けている。クルッツェン氏が「人新世」と主張したのは、現在堆積している地層が、数百年前に堆積した地層と明確に区別できるほど、人間活動の強いシグナルを含んでおり、現在を新しい地質段階あるいは地球史の一時代と見なすに十分である、ということであった。

私たちが生きている時代の正式な名称を変更すかどうか、地質学者たちはまだ審議中であるが、その結論がどうであれ、プラスチック、セメント、合成繊維など、地球にとって新しい化学物質や材料が地球の地層に残っていることは間違いない。

また、地球上には野生動物よりも家畜化された動物の方がはるかに多く、家畜化された動物でさえも時代とともに変化しているため、最終的に化石記録となるものには人間活動のシグナルがはっきりと現れるだろう。


現代人は20〜30万年前に出現し、その間に活動した痕跡を化石記録に残してきた。しかし、この100年ほどの間に、地球規模での人間活動のシグナルが強くなっている。

1750年から2010年までの期間における人間活動の様々な指標を見ると、世界人口、GDP、海外投資、都市に住む人々、エネルギーや肥料の使用、河川の堰き止め、淡水の使用、紙の生産、輸送、通信、国際観光など、いずれも1950年代頃から急激に増加している。この時期は "大加速度期 "と呼ばれている。


この大加速は、地球レベルのシステムの状態を表すさまざまな指標に反映されている。温室効果ガス、CO2、メタン、笑気ガス、オゾン層の破壊、地表付近の温度、海の酸性化、海産魚の捕獲、東南アジアでのエビの養殖、沿岸海域への活性窒素の投入による酸素欠乏、熱帯林の伐採、自然生態系の農地化、陸域の生物多様性の損失、などなど。


注意深く研究することで、地球システムの特徴に記録されたシグナルの変化が、人間活動に大きく起因していることが分かってきた。

こうした研究により、科学者たちは、地球は物理的、化学的、生物学的、そして人間的な要素が相互作用することで構成される自己完結型のシステムであると認識するに至った。

そして、これらの相互作用の総和が、地球全体の状態や環境条件を決定している。


地球システムにおける人間の活動が、惑星レベルにまで影響を及ぼすという事実は、気候変動に関する科学的な理解が進むにつれて、初めて広く認識されるようになった。

気候とは、ある地点の平均的な天候のことである。

気候は、地表付近に蓄えられた熱の量と、その熱が地球をどのように移動するか、また、地表付近や地球上に存在する水との相互作用によって制御されている。

地表付近に蓄えられる熱量は、太陽エネルギーが地表に到達する量と、その熱が地球から宇宙へ放射される量の関数である。

気候変動は、この地表の熱の出入りのバランスが変化することによって起こる


このバランスにはさまざまな要因が影響するが、最も重要な要因の一つは、大気中の温室効果ガスと呼ばれるものの濃度である。

温室効果ガスには、メタンや亜酸化窒素(笑気ガス)など、人間の活動によって発生するものも含まれる。

これらの温室効果ガスは、地表から出る熱を吸収して、地球の近くに閉じ込めている。

この温室効果は、1800年代初頭から知られていた。温室効果がなければ、地球は今よりもずっと寒くなっていたはずだ。

氷床コアのデータから、地球の歴史を通じて、温室効果ガスと気温の間には明確な関係があることが明らかになっている。

大気中の温室効果ガスが多いほど気温は高くなり、その逆もまた然りである


Week 2:The Anthropocene ②
The Anthropocene(人新世)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


1896年にスウェーデンの化学者スヴァンテ・アレニウスが、石炭の燃焼によるCO2の放出が地球温暖化につながることをすでに予言していた。

1992年、国連は気候変動に関する枠組み条約「UNFCCC」を制定し、これを通じて国際社会は人為的な気候変動を制御できるように努めている。


2015年のパリ協定により、UNFCCC加盟194カ国は、人為的な地球温暖化を産業革命時の平均気温の2度以下に抑えるという目標に合意した。

このように気候変動をコントロールすることは、多くのSDGsの前提条件であり、目標13ではこの課題を明確に取り上げている。


UNFCCCには、IPCCという科学委員会があり、人類と気候の相互作用の可能性に関する利用可能なすべての科学的情報を評価する責任を負っている。

IPCCとはIntergovernmental Panel on Climate Changeの略である。

IPCCが政府間パネルであるということは、パネルに参加する科学者を推薦するのは各国自身であり、条約の加盟国政府はパネルの報告書を承認しなければならない。

IPCCは最新の報告書で、ここ数十年で記録された地球温暖化の半分以上は人間が引き起こしたものであることは95%以上確実である、と結論づけた。




専門家インタビュー

Jens Hesselbjerg Christensen

(IPCCのメンバーで、コペンハーゲン大学の気象学教授)


Q:IPCCが、気候変動の多くが人間の活動によるものであると確信している理由は?


A:観測、理論、モデリングから得られた証拠は、他のいかなる説明も排除するものだ。


Q:IPCCは約200カ国から認定された科学者で構成されているが、なぜ多くの人々はまだ科学を信じないのだろうか?


A:科学と関わり、科学と一緒に仕事をしない限り、科学はとても遠い存在に見える。これは、知識との付き合い方として、とても根本的なことだ。


Q:もし人間が気候系に与える影響をコントロールできなければ、社会はどのようなリスクを負うことになるのか?


A:この惑星の熱をオンにすることによって、気象現象や干ばつ、洪水のリスクがこれまでの経験をはるかに上回る段階に達する。

その上、適度な温暖化でさえ、海水面の上昇を見ることになる。そして現実には、おそらく今後数世紀の間に数メートルの上昇が起こるだろう。これは、私たちが知っている生活様式を危険にさらすことになる。

早期の対策がよりシンプルで、おそらくより安価であることは明らかだ。時間が経てば経つほど、2度以上の気温差が生じてしまい、再び気温差を縮めることは非常に難しく、コストも高くつく


Q:多くの人が、テクノロジーが私たちを救ってくれる、と言っているが、それについてどう思うか?


A:テクノロジーは私たちを助けてくれる。だが、救ってくれるわけではない。私たちを救えるのは私たちだけだ。


Q:社会が地球温暖化を2度以内に抑えることは、本当に可能だと思うか?


A:私たちはそれが可能であることを知っている。実際には、資源、資金、そしてそれを実行する政治的意志の問題なのだ。

今、私たちは今世紀の残りの期間、持続可能なエネルギー源となるグリーン開発を行うことができる。それは今後10年、場合によっては20年以内のことであり、本当に意欲的に取り組まなければならない。

私たちには技術がある。何が必要かはよく分かっている。問題は、好みと優先順位である。

そこで、この問題に取り組むために、パリ協定が設立された。もし私たちが本当に非常に迅速に排出量を調整し、今後50年以内に基本的にゼロで行かなければ、2度を超えてしてしまう。


Q:パリ協定と持続可能な開発目標との関係は?


A:気候は、持続可能な開発目標の多くから、基本的な前提条件となっている。気候問題への対処が、他の多くの目標に大きな影響を与えることは明らかだ。だからこそ、気候の危機に対処することが中心的な課題である。




(Katherine Richardson教授のまとめ)

私はこれまで、気候に関するSDGsの13番こそが最も緊急に取り組まなければならないと主張してきた。

アジェンダ2030で扱われている環境問題は、気候の問題をはるかに超えている。

これほど多くの懸念が取り上げられていることは、国連の協定の歴史においてアジェンダ2030が斬新なものであるとも言える。

これまで国連が環境問題を考える場合、オゾン層の破壊、環境への汚染物質の持ち込み、気候変動、生物多様性の損失など、ひとつの問題や課題に焦点を当てることが一般的だった。

これらすべての課題に対する関心をひとつの協定にまとめ、同時に、これらの関心事を持続可能な開発の経済・社会的要素に関連付けることは、ブルントラント報告書の結論だけでなく、人間社会が地球システムの不可欠かつ重要な構成要素であるという認識の論理的帰結であると言える。


Week 2:Planetary boundaries and biodiversity ①
Planetary boundaries and biodiversity(惑星限界と生物多様性)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


地球システムにおいて人間活動の影響を受ける重要なプロセスは、気候だけではない。

ストックホルム・レジリエンス・センターのJohan Rockstromは、国際的な研究者たちと共に、地球システム全体の状態を変える可能性のある9つのプロセスを特定し、そのすべてが人間活動によって地球規模で影響を受けているという分析を、2009年に発表した。

9つのプロセスとは、気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染である。


これらのプロセスすべてと人間の相互作用は、持続可能な開発目標に扱われている。

現代人は何十万年も前から地球上に存在しているが、農業の発展からコンピュータに至るまで、現代人の文明と関連するものはすべて、過去約1万2千年の間に進化してきた。

この間、気候は比較的温暖で、しかも異常に安定していた。つまり、現在の地球環境下で人類が繁栄できることは確かである。しかし、地球が他の条件になったときに、人類が繁栄できるかどうかはわからない。

したがって、地球の状態が変化するような深刻な危険をもたらすほど、これらの重要な地球プロセスの乱れを許容することは、人類にとって賢明ではない。


ロックストームのチームは、9つのプロセスのうち7つについて、人間が生存するためのboundary(限界)を提案した。

このboundaryは、thresholds(しきい値)やtipping points(ティッピングポイント)と混同してはいけない。

ロックストロームらが提示したthe planetary boundaries framework(惑星限界の枠組み)では、重要な地球システムのプロセスに対する人間の活動を惑星限界の範囲内に維持すれば、人類は安全な生存領域にあると主張している。


環境に関する持続可能な開発には、地球の資源とサービスに対する人間の需要が供給を上回らないようにすることが必要である。

惑星限界の枠組みは、重要な地球システムの潜在的な供給量を定量化する試みと見なすことができる。

したがって、SDGsの実施において、持続可能性の環境的要素を評価するには、惑星限界の枠組みのようなツールがあれば大いに役立つだろう。


2009年の論文では、広く科学コミュニティにこのフレームワークへの意見と改善を呼びかけることが含まれていた。

多くの科学者がそれに応え、2015年に2つ目の惑星限界の論文が発表された。ここでは、9つのプロセスのうち4つのプロセスに対する人間の活動が惑星限界を越えており、それによって現在は安全な活動空間の外にあると結論づけられた。

惑星限界を越えると判断されたプロセスは、気候、生物多様性、土地利用や森林の伐採、反応性窒素やリンの環境への放出の4つである。


1990年代には、オゾン層の状態が惑星限界を超えていた。しかし、オゾン層を破壊する物質を禁止するモントリオール議定書という形で世界的な協力が得られたため、現在はオゾン層の状態は惑星限界の安全域にある。


2017年にCGIARの気候変動・農業・食料安全保障研究プログラムのディレクター、Bruce Campbellらが発表した研究では、生物多様性、土地利用、反応性窒素とリンの放出について、現在の農法が惑星限界を越える原因になっていることが明らかにされた。

Campbellらの研究は、農業は水の限界も引き起こすと主張している。

このことは、持続可能な開発を達成するためには、食料システムの大幅な変更が必要であることを強調しており、この課題に特化したSDGが存在することを意味している。


Week 2:Planetary boundaries and biodiversity ②
Planetary boundaries and biodiversity(惑星限界と生物多様性)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


惑星限界では、biodiversity(生物多様性)biosphere integrity(生物圏の完全性)と表記されている。

これは、生物多様性で重要なのは、種の数や絶滅の多さだけでなく、生態系の無傷さや性能も重要であるためだ。

そのため、生物圏の完全性は、地球システム全体における生物学的プロセスの役割を表す指標として使用される。


この惑星が宇宙の中でユニークなのは、生命が存在するからだ。地球の歴史において、気候と生命の共進化、すなわち生物多様性によって決定される。

惑星限界の概念では、気候変動と生物圏の保全の2つを、人間が地球システムのプロセスに干渉することを懸念しなければならない中核的なプロセスとして位置づけている。

つまり、生物多様性や生物圏の保全に対する人間の影響も、気候に対するものと同じように心配しなければならない。

SDGsのうち、目標14と15は生物多様性や生物圏の保全に特化しているが、残念ながら気候変動ほど注目されていない。

気候変動と同様に、生物多様性に特化した国連条約が存在する。この条約は、IPBES(Intergovernmental Panel on Biodiversity and Ecosystem Services)という科学委員会によってサポートされている。



専門家インタビュー

Neil Burgess

(UNEP WCMCの科学部長であり、コペンハーゲン大学の保全科学教授)

世界自然保全モニタリングセンター(UNEP WCMC)は、1988年に発足した、ケンブリッジに本部を置く、国連環境計画(UNEP)の下部組織。


Q:ほとんどの人は、生物多様性が大きな課題であるとは認識していない。「地球上の生物は6回目の大量絶滅を迎えるかもしれない」という話はよく言われているが、これはどういうことなのか?


A:生物多様性科学の世界では、地球上の生物は6回目の大量絶滅に突入しているか、すでに突入しているというのが科学的な意見の一致するところだ。

種の絶滅率は、IUCNレッドリストと呼ばれる、地球上のあらゆる種類の種の状態を調べるものによって測定されているため、このことが分かる。

この指標は、種が絶滅に向かっている事を教えてくれる。鳥類、哺乳類、両生類、その他の動物や植物のグループがたくさんあり、これらは現在、絶滅の危機に瀕しており、残念ながら近い将来、絶滅する可能性が高くなっている。

特に太平洋の小さな島々では、ここ数十年の間にかなりの数の絶滅が起こっていることが分かっている。

この件に関する科学的な見解は、おそらく地質学的な背景よりも絶滅の速度が1000倍ほど速くなっているということだ。

過去何百万年もの間、古い種の絶滅が起こっている。しかし、現時点の基礎科学では、私たちはその1000倍の速さで絶滅していると考えられている。


Q:6回目の絶滅と言っても、私たちはまだここにいる。では、それを心配する必要があるのだろうか?


A:恐竜が絶滅したことで、最終的に哺乳類が恐竜に食べられたりすることによるプレッシャーから解放されることができた。私たちが生まれたのは哺乳類のおかげである。

もし私たちが地球上の他のすべての種やほとんどの種の大量絶滅を引き起こした場合、私たちもその結果の犠牲者になる可能性が十分にある。

つまり、生き残ることができる他の何かが 最終的に地球を受け継ぎ、進化するだろう。しかし、私たちがその瞬間を見られる可能性は極めて低い。

私たちが依存している生命維持システム、植物や動物、生息地、海洋、陸上など、地球上のあらゆる生命の要素は、私たちが地球で生き残るための手段を提供している。

もし、私たちが地球上の生命を絶滅させてしまったら、ある種の生命は崩壊し、人類の安全な生存領域や惑星の限界から外れてしまう可能性が高くなる。

つまり、たくさんのものを絶滅させた世界で、私たちが将来生き残れるかどうかわからないということだ。


Q:SDGs14と15の達成に向けて、今、最も大きな課題はどこにあると考えるか?


A:最大の課題は、人類の人口が90億、100億、120億と増えていくと仮定した場合、一人一人が生息地や海、食料となる生物種、木材となる森林を必要とすることだ。

つまり、地球上のすべての人が、地球に対して圧力をかけている。

世界の一部の地域では、豊かな国の方が貧しい国よりも圧力をかけているが、すべての人が地球に何らかの圧力をかけているのだ。

だから、本当の課題は、増え続ける人口と、土地や土壌、水といった地球の有限な資源、つまり、私たちが食べ物を育てたり、必要なものを生産したりするための基盤との間で、何らかの形でバランスを取ることだ。

SDGs 14と15は、陸上の生命と海の生命について定めたものだ。絶滅を防ぐために、農業からの圧力と陸上の生物の要求とのバランスをどのようにとるかは、この目標の指標のひとつである。

また、SDG14では、魚からどのように食料を調達し、海洋の生息地構造と完全性を維持するかに焦点が当てられている。

しかし、私たちは皆、実際にどこかで生産された製品を買っている、その製品に使われた何かがどこかから来たものであることも事実である。そのため、生物多様性との関わりを最終的に追跡することは難しい。


Q:私たちがデンマークやその他の国で製品を購入する際に、その製品の生産において生物多様性がどのような影響を受けているかを実際に知ることができるツールはあるのか?


A:トレードフローモデルと呼ばれるものにリンクし始めている。例えば、マレーシアやインドネシアのアブラヤシを生産している企業、その原料を船で精製所まで輸送している企業、そしてデンマークやスーパーマーケットで食品やその他の製品に使用されている企業、これらすべてを網羅することができる。

つまり、貿易の追跡システムがますます整備されてきている。その貿易の影響について研究することも増えている。

例えば、アブラヤシのサプライチェーンを追跡することがで、マレーシアやインドネシアの各地で森林伐採や生息地の変化が起きていることがわかる。また、元々の森林の生物多様性の価値と、古いプランテーションの生物多様性の価値がわかれば、基本的にマレーシアやインドネシアのアブラヤシプランテーションが地上に与える実際の影響を計算でき、デンマークのスーパーの製品に至るまで、食品サプライチェーンを通じてその影響を追跡することができる。

ビットコインやブロックチェーンなど、コンピュータシステムを利用した新しい技術革新が話題になっている。このようなコンピュータ・システムは、究極的には世界貿易にも応用でき、世界貿易のどこに何があるのかを常に把握できるようになるだろう。コンピュータとビッグデータを扱うことで、人類と地球上の他の生物とのつながりをよりよく理解することができるかもしれない。




(Katherine Richardson教授のまとめ)

私たち人類は、他の生物に依存しており、進化して以来、ずっと他の生物と相互作用してきた。結局のところ、私たち自身が生物であり、生物は互いに影響し合っている。

歴史的に見ると、人間が他の生物に与える影響は、局所的な空間でのみ起こった。つまり、私たちの身近にあるものだった。

しかし、グローバル化した市場、特に食品市場は、他の生物との相互作用の多くを身近なところから遠ざけている。そのため、私たちは自分たちの行動が生物多様性にどのような影響を及ぼしているのか、気づかないことが多い。

近年、私たちは、人間と他の生物との相互作用の組み合わせが、生物圏の構成と性能の両方を変化させていることに気づいている。

つまり、この地球上のすべての生物の総和が、地球レベルで変化している。

新しいコンピュータの能力とビッグデータを扱う能力によって、地球上の生物との相互作用のすべてを追跡することができるようになるかもしれない。このような相互作用を追跡することができれば、人間の活動が他の生物に与える影響を最小限に抑えることも可能になると期待される。


Week 2:学習教材 要点①
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries(2017) 

by Bruce M. Campbell, Douglas J. Beare, Elena M. Bennett, Jason M. Hall-Spencer, John S. I. Ingram, Fernando Jaramillo, Rodomiro Ortiz, Navin Ramankutty , Jeffrey A. Sayer and Drew Shindell

(地球システムの惑星限界を超える主要な推進力としての農業生産)


2009年、Rockströmら(2009)は、「惑星限界」(PB)と「人類の安全な活動空間」という概念を導入し、最近Steffenら(2015)により改訂された。現在認識されている9つのPB(Steffen 2015)は以下の通りである。


1 土地 - システムの変化

2 淡水の利用

3 生物地球化学の流れ - 窒素とリンの循環

4 生物圏の完全性

5 気候変動。

6 海洋酸性化

7 成層圏のオゾン層破壊

8 大気エアロゾル負荷

9 新規物質の導入


気候変動、土地システムの変化、生物地球化学の流れ、生物圏の完全性の少なくとも4つのPBがすでに超過しているか、不確実性のゾーンにある。

淡水利用PBが超過しているかどうかについても、かなりの議論がある(Gerten 2015)。

PBの概念は、農業が地球システムに及ぼす影響を評価するための有用な基礎を提供し、食料・農業部門の緊急の変革を促すために利用できる。



1 土地 - システムの変化

Rockströmら(2009a)は、地球の氷のない表面の15%以上を農地に転換すべきではないと提案した。彼らはその限界を75%(熱帯林、温帯林、北方林の境界の加重平均)とし、54〜75%(元の面積に対する森林の残存率)を不確実性のゾーンとし、現在の値を62%と計算している。


2000年には、地球上に1500万km²の農地と2800万km²の牧草地があり、それぞれ氷のない地表の12%と28%に相当した(Ramankutty 2008)。

2050年までにさらに1000万km²の土地が伐採されることが予想される。これは、Rockströmらが設定したPBを越える。


農業用地の拡大は、過去300年間に700万から1100万km²の森林の純喪失を引き起こした(Foley 2005)。

地球規模で見ると、1980年から2000年の間に温帯落葉樹林の約30%が耕作地に転換された。

1990年から2005年の間に森林破壊が起こった地域では、農業が森林破壊の75%を引き起こしたと推定される(Blaser and Robledo 2007)。

肯定的な見方をすれば、熱帯の貧しい国々では森林の損失が続いているものの、高緯度と豊かな国々で森林の増加が起こっている(Sloan and Sayer 2015)。


気候目標を達成するための重要な要素として、炭素回収・貯留を伴うバイオエネルギー(BECCS)が提案されることが多くなっている。

しかし、これは食料生産との競合を増やし、大規模な土地利用の変化を誘発する可能性がある。

最近の研究では、BECCSはより小規模でしか実現できない可能性が示唆されている(Boysen 2017、Smith 2016)。

農業収量の大幅な増加と集約化を行ったとしても、人類が食糧とバイオ燃料に対する将来の需要を満たすためには、農業の正味面積を拡大しなければならず、重要な生物群にさらなる圧力がかかることになる。




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【所感】


BECCSとは?

Bioenergy with carbon capture and storage(回収・貯留(CCS)付きバイオマス発電)

大気中のCO2を除去・減少させる技術をネガティブエミッション(NETs)あるいはCDRと呼び、研究が進んでいるが、BECCSはその代表的なもの。

エネルギー利用のためバイオマスを燃焼させたとき、CO2は排出されるが、バイオマスのライフサイクル全体での排出量は変わらないため、CO2排出量としてカウントしない(カーボンニュートラル)。

このバイオマス燃焼時のCO2を回収・運搬し、地中に貯留すれば(CCS)、大気中のCO2は純減となる、という理論である。

パリ協定のCO2の排出を実質ゼロにするという長期削減目標実現のために、BECCSの実用化が期待されている。

2021年現在、北米ではエタノール発酵で発生するCO2を対象として、CO2回収量100万t/年規模のBECCSが稼働中である。

しかし、 Campbell(2017)らはBECCSが食料生産と競合し、食料生産とバイオマス燃料生産の両方の需要を満たすためには、惑星限界を超える森林伐採と農地拡大を引き起こすと予想している。

気候変動問題に取り組むためには、バイオマス燃料は有効な技術の一つであるが、決して銀の弾丸ではないのだな、と感じた。


Week 2:学習教材 要点②

Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


2 淡水の利用

農業は世界の淡水取水量の約70%を占めている。

OECD諸国では総取水量の約44%、アフリカ諸国では約87%、アジアでは約80%、アラブ諸国では90%以上である(世界水資源評価計画2012a)。


Rockströmら(2009a)は、淡水の惑星限界(PB)を4000km3 yr-1 とした。淡水PBのモニタリングと定量化のために、世界のblue water(青水)の消費量を用いることを提案した。

Shiklomanov and Rodda(2003)は、灌漑農業による青水消費が人類の青水消費の84%を占めると推定した。

Jaramillo and Destouni(2015a)は、青水のみではなく、blue and green water(青水と緑水)の総消費量を淡水PBのモニタリングに使用すべきと述べている。

この観点から、20世紀から21世紀初頭にかけての人類の世界的な淡水消費量の増加は、すでに4000 km3 yr-1のPBを越えている可能性がある(Destouni 2013, Jaramillo and Destouni 2015)。


食料生産に必要な水量は、栽培するものや生産方法によって異なる。人口が増加し、食生活が肉食にシフトしていく中で、今後ますます多くの水が必要とされる。

特に畜産業の発展は、家畜の餌となる作物の栽培に水を必要とするため、水の消費量を増加させる。

バイオ燃料の生産が増えれば、水資源への圧力はさらに高まるだろう。


一部の地域では、地下水の枯渇も大きな問題となっている。インド・ガンジス平原では年間 300mm 以上減少している(Wada 2010)。

多くの地域で、水の利用可能量が減少すると予測されているが、将来の世界の農業用水消費量だけでも(天水農業と灌漑農業の両方を含む)、2050年までに約19%増加すると推定される(世界水アセスメント計画2012)。


1961年以来、単位生産量当たりの水使用量はほぼ半減しているが(世界水アセスメント計画2012)、農業における水利用効率を高める可能性はまだ大きい。

水管理、政策改革、インフラ投資はすべて、効率の向上と消費の抑制に貢献することができる。

灌漑用水は、運搬効率(水源から農場への水の運搬)、分配効率(農場から畑への水の分配)、作物への散布効率(Rosegrant 2009)を高めることで使用量を削減することができる。




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【メモ】

青水、緑水、中水とは?(水資源用語)

(アメリカ農学会(ASA)、アメリカ作物科学学会(CSSA)、アメリカ土壌学会(SSSA)による定義)


Blue water 

青水とは、湖、川、貯水池に存在する。湿地帯の地表下の帯水層から汲み上げることもできる。

家庭や飲料メーカーの飲料水をはじめ、農業用の灌漑用水としても利用されている。農業用水は青水の約70%を使用している。

青水は、降雨や雪解け水などの降水によって地下水涵養する。


green water

緑水とは、植物や土壌微生物が利用できる土壌中の水のこと。根から吸収され、植物に利用され、蒸散の過程で大気中に放出される水。

緑水は、蒸発や地表流出によって土壌から出ることもあるが、植物の蒸散に利用されて初めて生産性があるとみなされる。

作物の生育に必要な緑水の量は、気温、日射量、風量、空気の乾燥度など、さまざまな要因で決まる。

緑水をより多く得るためには、耕起を減らし、被覆作物を使用することが挙げられる。被覆作物は土壌を遮光し、土壌表面からの水の損失を減らす。同様に、不耕起栽培では、作物の残滓を土壌に残し、蒸発を防ぐ。被覆作物と不耕起栽培は、土壌を固定し、土壌侵食と流出を防ぐ。


grey water(中水、家庭雑排水)

自然は青と緑の水をつくるが、人間は中水をつくり、再利用してきた。中水は、都市や家庭、産業界で使用されている。

家庭からの排水だけでなく、産業界でもかなりの量の中水が排出されている。大規模な野菜加工工場では、人口10万人規模の都市と同じ量の水を消費する。多くの地域で、電力生産が灌漑農業と同量の水を使用している。

青水の消費量を減らし、中水を再利用することで、エネルギー消費量を最大80%削減することができると言われている。


参照:What are blue, green, and grey water?


Week 2:学習教材 要点③
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


3 生物地球化学的フロー

窒素(nitrogen, 以下N)とリン(phosphorus, 以下P)に関する分析。


窒素(N)は必須多量栄養素であり、多くの陸上および水生生態系における植物成長を促す元素である。

人間活動は、化石燃料の使用量の増加、農業や産業による窒素需要の増加、利用効率の低さなどを主な要因として、地球上の窒素循環を大きく変化させてきた (Swaney 2012)。

現在、人為的な窒素供給は、すべての自然な陸上プロセスの合計よりも多くの窒素を地球システムに供給している(Rockström 2009a, Canfield 2010)。

過剰な窒素は土壌や大気の汚染を引き起こし、生物多様性の損失を早め、沿岸の海域や流域を汚染し(Howarth 2011, Swaney 2012)、対流圏のN2Oや活性窒素ガスのレベルを上昇させる(Robertson and Vitousek 2009) 。


Steffenら(2015)は、de Vriesら(2013)の分析に基づいて、水生生態系の富栄養化を回避するための窒素に関する惑星限界(PB)を、産業および意図的な生物学的窒素固定から62 Tg N yr-1と提案した。

Steffenら(2015)によれば、窒素のPBをすでに越えている地域は、特に北米、欧州、南アジア、中国である。


Fixen and West(2002)によると、農業における窒素肥料の使用量は、1960 年から 2000年の間に約800% 増加した。

Bouwman ら(2009)は、農業への総窒素投入量を 249 Mt N yr-1 と見積もっている。世界の人為的窒素使用量(187 Mt N yr-1)に占める農業の割合は86.1%と推定されている(Galloway 2008)。


いくつかの研究で、作物における窒素の利用効率が低いことも明らかにされた。

作物に施された窒素の約半分しか植物に取り込まれず、残りは溶出(16%)、土壌侵食(15%)、ガス放出(14%)によって失われてしまう(Liu 2010, Bodirsky 2012)。

Robertson and Vitousek(2009)によれば、輪作、作物の窒素要求量・時期・配置の予測の改善、および窒素の損失を回収する戦略のすべては現実に可能な手段であり、それによって窒素の損失を大幅に削減し、窒素の過剰供給を回避することができる。



ほとんどの農業生産は、肥料や堆肥からのリン酸塩(PO43-)の形でリン(P)に依存しており、土壌を改良し、作物の収穫時に除去されたものを補充している(Cordell and White 2013)。

人間活動は、農業用のリン酸肥料を生産するためにリン鉱石を採掘することによって、惑星のリン循環を大きく変化させてきた

リン循環は自然プロセスの2~3倍に加速され(Smil 2000)、意図した農業生産の増加に加えて、淡水および河口域システムの富栄養化(Diaz and Rosenberg 2008)につながっている。


Steffenら(2015)は、Carpenter and Bennett(2011)の分析に基づいて、海洋生物の過去の大量絶滅を説明する可能性のある大規模な海洋無酸素現象を避けるために、淡水系から海洋へ流れるリンのPBを11 Tg P yr-1に設定している (Handoh and Lenton 2003)。

淡水の富栄養化を防ぐために地域的なPBが設定されており、窒素と同様に、特定の地域でリンに関するPBがすでに越えられている。


Smil(2000)によれば、世界のリン酸塩生産量の90%(年間約148 Mt)が農業用肥料に使用されている。

さらに最近の研究では、採掘されたリン鉱石の96%が肥料生産に使われ(人為的な総生産量23.5 Mt yr-1のうち22.6 Mt yr-1)、そのほぼすべてが陸上土壌に加えられている(Carpenter and Bennett 2011)。


人口増加と食生活の変化に伴う世界的な食糧需要の増加により、リンの需要は2050年までに50~100%増加する可能性があり(Cordell and White 2013)、すでに超えているリンのPBに対する農業の影響はさらに大きくなるだろう。


リンのPBを越えないためには、新しいリン酸塩の使用を減らすことが必要である。

そのためには、農地土壌のリン酸塩収支のバランスをとることと、堆肥、人糞、食物残渣からの再利用リン酸塩の使用を増やし、新たに採掘するリン鉱石への依存を減らすことである。

この種の堆肥の流出は、よりよい耕作方法、水辺のバッファーの設置と維持、湿地帯の復元によって最小限に抑えることが可能である。

最後に、貯蔵中または市販後の食品廃棄物を減らし、そもそもリン酸塩を生産する必要がないようにすることは、緊急の課題である。




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【メモ】

N2O=亜酸化窒素:二酸化炭素の約300倍の温室効果があり、オゾン層破壊物質でもある(日本の独立行政法人農業環境技術研究所による定義)


Reactive nitrogen=活性窒素(反応性窒素):生育を促進する様々な窒素化合物の総称。大気中の窒素酸化物(NOx)、水に溶け込んでいるアンモニア(NH3)、亜酸化窒素(N2O)、硝酸塩(NO3-)などが代表的。


【疑問】

窒素のPBは年間62Tg、リンのPBは年間11Tgと設定されていますが、このTgとはどのような単位なのでしょうか?

熱重量測定におけるthermogravimetry(TG)なのではないか、と思いますが確信が持てません。


【所感】

1906年ドイツで、工業的な窒素固定であるハーバー・ボッシュ法が確立されました。

ハーバー・ボッシュ法は、20世紀の人口の爆発的な増加を支えましたが、過剰な反応性窒素が土壌や湖沼の富栄養化を引き起こし、オゾン層破壊の原因となり、全地球規模の温室効果をもたらしました。

反応性窒素は、アントロポセン(人新世)を象徴する物質と言えます。

さまざまな問題を引き起こすと分かっていても、人類が反応性窒素を手離すのは化石燃料以上に難しいのです。

反応性窒素はただ減らせばよいのではなく、どこにどう使うのかが重要であると思いました。


Week 2:学習教材 要点④
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


4 生物圏の完全性の変化

Rockströmら(2009a)は、九つの惑星限界(PB)の一つとして “rate of biodiversity loss”(生物多様性の損失率)を設定していた。

Steffenら(2015)はこれを“change in biosphere integrity”(生物圏の完全性の変化)に変更し、遺伝的多様性と機能的多様性の両方を網羅することによって、人間活動が生物圏に与える影響をより反映しようとした。

遺伝的多様性はextinction rates(絶滅率)によって、機能的多様性はthe biodiversity intactness index (BII)(生物多様性無損傷指数)によって測定される。


地球上には約500±300万種の生物が存在し、現在のモデルでは10年当たり5%未満の絶滅率を予測しているが、気候変動が絶滅に与える影響は不確実である(Costello 2013)。

Steffenら(2015)は、遺伝的多様性の損失を測定するための指標として、100万種あたり・1年あたりの平均絶滅数(E/MSY)を設定しているが、測定が難しく、どうしてもタイムラグがあるとの批判がある。

10年当たり5%の絶滅率は破滅的とは言えないが、Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYという「願望的」なものと、10E/MSYというより現実的なものとを提案している。

化石記録における海洋生物の過去の平均絶滅率は、0.1~1E/MSYであると推定される。

しかし、現在では100E/MSY以上と考えられ、将来的には1000-10000E/MSYで消失すると予測されている。


機能的多様性は、地球システム機能における生物圏の全体的な役割を示すものである。

Steffenら(2015)は、機能的多様性のPBとしてBII90%を提案した。

Newboldら(2016)は、世界の地表の58%において、すでにPBを越えてBIIが減少していると推定している。


遺伝的多様性と機能的多様性の両方の損失が、土地システムの変化によって引き起こされることを考えると、生物圏の完全性PBの状態における農業の役割は80%である。

農業は、生物圏の完全性をPBを越えてシフトさせた。

生物多様性の損失は生息地の面積だけの関数ではなく、生物圏の完全性は遺伝的多様性よりも機能的多様性と関係があるかもしれない(Steffen 2015)。

世界の森林は、インフラへの投資の大幅な拡大により急速に分断されており、農業は新しい景観の重要な構成要素となっている(Sloan and Sayer 2015)。


Development corridors(開発回廊)は、途上国の農業をより高いレベルの生産性に転換させる方法と考えられている。

これらの開発回廊は、特に熱帯地方において、既存の森林を大きく分断し、占有する危険性があり、生物圏の完全性に悲惨な結果をもたらす可能性がある(Laurance 2015)。

気候変動と生息地の断片化は、外来侵入種の自然生息地への拡散をかつてないレベルで促進し、生物多様性と生態系機能に対して憂慮すべき結果をもたらしている。




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【メモ】

the average number of extinctions per million species-years (E/MSY)

100万種あたりの年間の平均絶滅数


化石記録から推定される過去の海洋生物の年平均絶滅数は、0.1~1E/MSYなので、100万種あたり0.1種から1種であった。

現在では100E/MSYなので、1年間に100万種あたり100種が絶滅している。そして将来的には1000-10000E/MSY、すなわち100万種あたり年間で1000種から10000種が絶滅すると推定されている。

地球上には約500±300万種が生息しているので、そのうち1年間に約500±300種が絶滅している計算となる。

生物多様性科学において、「地球上の生物は6回目の大量絶滅に突入しているか、すでに突入している」と言われているのが、うなずける数字である。


Steffenら(2015)は、PBを1E/MSYすなわち1年間に100万種あたり1種の絶滅にとどめるのが理想だが、それはもはや現実的ではないため、せめて10E/MSYすなわち1年間に100万種あたり10種の絶滅におさえることを提案している。


Week 2:学習教材 要点⑤
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


5 気候変動

農業は、CO2以外の重要な温室効果ガスを大量に排出するだけでなく、農業のためのスペースを確保するための森林伐採によって、大量のCO2を放出している。

肥料の生産から食料品の流通にいたるまでの活動全体も、大量のCO2を排出している。

このように、農業は気候変動に影響を与える最も重要な人為的活動の一つである。

さらに、気候変動はそれ自体が農業の条件に影響を及ぼし、農業システム全体に大きな影響を与えることになる。


Rockströmら(2009a)は、地球規模の制御変数として大気中のCO2濃度と大気圏上層部の放射強制力の両方を用いて気候変動にアプローチし、350 ppm CO2と産業革命前レベルからの1 W m-2を惑星限界(PB)として提案した(US EPA 2011)。

これは、(i)温室効果ガス強制力に対する気候システムの平衡感度の分析、(ii)完新世より温暖な気候下での大型極地氷床の挙動、(iii)現在のCO2濃度約387ppm、純放射強制力+1.6W m-2(+0.8/-1.0W m-2)での気候システムの観測結果に基づいている。

Rockströmら(2009a)は氷床量の減少や、エアロゾルの冷却効果の消滅をPB設定時に考慮しなければならないと指摘している。

エアロゾルPBと気候変動PBの間には、もう一つ重要な相互作用がある(Mahowald 2017)。


100年の地球温暖化係数に基づくと、農業は1年間で約5.0~5.8GtのCO2を排出している。これは、農業による土地利用変化を除いた、人為的温室効果ガス排出総量の約11%にあたる(Smith 2014)。

発展途上国は世界全体で農業関連排出量の大部分を占めており、今後も発展途上国での農業生産を増加させる必要性があることから、排出量が最も速く増加すると予測される(Smith 2014) 

農業からのCO2排出量は、途上国では平均35%、先進国では12%を占めている(Richards 2015)。

生産から消費までの食料システム全体からの排出を含めると、温室効果ガス総排出量に占める割合は14~24%(農業による土地利用変化を含む)から19~29%へと増加する(Vermeulen 2012)。

この数字には、サプライチェーン全体、肥料製造、農業生産そのもの、加工、輸送、小売、家庭での食品管理、廃棄物処理などが含まれる。


Wollenbergら(2016)は、人為的な地球温暖化を産業革命時の平均気温の2度以下に抑えるという目標内にとどまると同時に、より豊かになった人口を養うためには、農業は2030年までに年間で1 Gt CO2の排出を削減しなければならないと推定している。

1t CO2あたり最大20USドルの価格を設定した場合でも、必要な削減量のうち21〜40%しか達成できないと試算している。

これは、技術的な農法の普及と効率向上を伴う作物と家畜の増産を含む。


望ましいCO2削減量と妥当な成果との間に大きなギャップがあるため、より変革的な技術・政策オプションが必要であることがわかる。

例えば、メタン生成の少ない家畜品種や土壌有機物の土壌への保持を強化するなどのハイテク解決策が考えられている。

同時に、農業のための開墾による土地利用の変化を減らし、食品の損失と廃棄を減らし、食生活のパターンを転換することも必要だろう。




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【メモ】

Radiative forcing(放射強制力)とは?

気候変動の自然または人為的要因によって引き起こされる大気中のエネルギーの変化を放射照度  W m-2(ワット毎平方メートル)によって測定したもの。

地球のエネルギーバランスに変化をもたらす外部要因を定量化して比較するために使われる科学的概念。

正の放射強制力とは、地球が太陽光から受け取るエネルギーが宇宙へ放射するエネルギーよりも多いことを意味する。このエネルギーの正味の増加が、温暖化を引き起こす。

負の放射強制力とは、地球が太陽から受け取るエネルギーよりも多くのエネルギーを宇宙へ失うことを意味し、これは冷却を生み出す。


Rockströmら(2009a)は気候変動に関して、大気中のCO2濃度のPBだけでなく、放射強制力もPBを設定することで、二重のアプローチをしている。

CO2濃度のPBが350ppmと設定されているが、2019年のCO2濃度は500ppm(NOAA年次温室効果ガス指数より)であるため、すでにPBを越えている。

放射強制力のPBは1 W m-2 と設定されているが、2019年の総放射強制力は3.140 W m-2(NOAA年次温室効果ガス指数より)であり、すでにPBを越えている。

放射強制力の要素のうち、2000年と比べるとCO2とCH4(メタン)およびN2O(亜酸化窒素)は増加しており、CFC(クロロフルオロカーボン)は減少している。


プロフィール

ロシア文学が大好きです。 2012年2月からロシア語を勉強しています。

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