"The Sustainable Development Goals"講義ノート

Week 1 雑感
Week 1の講義内容を少し振り返ってみます。

海洋生物学のKatherine Richardson教授のナビゲートで、毎回さまざまな分野のゲストのお話を聞くことができて、非常にぜいたくな講義だと思います。

Week 1では、モーエンス・リュッケトフト第70回国連総会議長を皮切りに、環境経済学、工学、農学の専門家による講義を受けました。



環境経済学のPeter Birch Sorensen教授のお話で、グリーンGDPという指標があることを初めて知りました。

まだアカデミアの世界でしか使われていないそうですが、いずれ実際の政策決定の現場でも使われるようになるのでは、と思いました。



デンマーク工科大学のMichael Zwicky Hauschild教授のお話では、ある製品の環境負荷コストを算出するためには、製品のライフサイクル全体(ゆりかごから墓場まで)を見なければいけない、ということを学びました。

例えば、太陽光発電は自然エネルギーだから環境にやさしいとよく言われていて、約10年前から急速に日本中に設置されました。しかし、太陽光パネルの耐用年数は20年~30年。

寿命を迎えた太陽光パネルは、金属くずとガラスくずと廃プラスチック類が混合した、鉛などの有害物質も含まれる産業廃棄物となります。

環境省は、ガラスや金属のリサイクルを推奨していますが、現状では埋め立て処分される場合がほとんど。2040年までには年間80万トンもの使用済みパネルが廃棄されると試算されています。

太陽光パネルの生産から廃棄処分までのライフサイクル全体を考えると、本当にどれほど「環境にやさしい」と言えるのか、疑問に思ってしまいます。

教授が語っていたように、製品のライフサイクル全体の環境への影響を定量化する研究がもっと進むことを期待したいです。



国際農業研究協議グループ(CGIAR)のBruce Campbellディレクターのお話は、Week 1でもっとも刺激的で、興味深かったです。

米農家が航空業界と同じくらいの温室効果ガス排出量であるとは、驚きでした!

持続可能な農業について、sustainable intensification(持続可能な集約化)という言葉で表現しているのが印象に残りました。

持続可能な食糧増産とは、森林地帯に農地を拡大させないこと、的を絞った効率的な肥料使用すべきだということ。

農業生産の効率化、集約化のためには大企業がリーダーシップをとる必要があり、ケロッグ社を例に出していました。


この講義を受けた後、以前に読んだ『脱「開発」へのサブシステンス論』(法律文化社、2004年)を久々に読み返してみました。本書は、横山正樹(フェリス女学院大学国際交流学部教授)、郭洋春(立教大学経済学部教授)、戸崎純(東京都立短期大学教授)をはじめ、全15名の研究者が執筆しています。※肩書は出版当時

本書全体を通して開発主義への反発があって、「脱開発」が掲げられており、強烈な反グローバリゼーションです。行き過ぎた資本主義と環境破壊に対抗するためには、地域の自立とネットワーク(いわゆるグローカル)によるオルタナティブな経済が必要だと言う主張です。


途上国の貧困と環境問題を取り扱う分野では、このような主張はきわめて多いのです。

研究者だけでなく、実際に現地で支援活動を続ける国際的なフェアトレード団体や環境保護団体も、同じようなアピールをしています。

植民地時代の名残りである単一栽培、大農場での児童労働、環境を汚染する農薬と肥料、非人道的な人口管理政策など、取り組むべき問題をあげればキリがないのですが。

簡単に言えば、巨大アグリビジネスは地方の文化と伝統を破壊する敵であり、現地を未だに経済的な植民地のままにしている諸悪の根源であるから、一致団結して戦わなければならない、という主張ですね。

ついでに、工業化に対する反発(現地の雇用が失われるから)も語られることが多いです。


しかし、CGIARの気候変動・農業・食料安全保障研究プログラムの専門家の意見は、反資本主義、反グローバリゼーションとは真逆なのです!

Bruce Campbellディレクターは、途上国の農業において男性よりも女性が多く従事しており、ジェンダーの問題もあることをきちんと語っていました。

地域ごとに事情があることをよく分かった上で、いかにして経済的なインセンティブを働かせるか、巨大アグリビジネスは敵ではなく、農業を持続可能なシステムに変革していくための強力な味方としていくべきだと主張しています。

Campbellディレクターは、「持続可能な集約化」は「銀の弾丸」ではないのだ、とあらかじめ言っていました。そもそも、魔法のように全ての問題を解決してくれる「銀の弾丸は存在しない」のです。


国際的なフェアトレード団体の児童労働撲滅のための長年の取り組みを知っているので、巨大アグリビジネスを本当に味方にできるのか、というのは疑問に思います。

寡占化が進むことで、ますます富の偏在になるかもしれません。

しかし、森林地帯を守るためにも、農業を今よりも効率化、集約化すべきであることはよく分かります。

効率化のためには機械化が欠かせませんが、人間よりも機械の方が高いので、いつまでたっても手作業がなくならないのでしょう。


つまるところ、人間の価値(労働賃金)が低くされていることが問題の根本であって、農業の女性化が進んでいるという理由も、男性よりも女性の方が安い労働力として扱われているからです。

SDGsは、世界中の誰もが健康的な生活を送り、教育を受けることができるようにすることを目標にしています。

気候変動への取り組みは喫緊の課題ですが、それは目的ではなく、人々が将来世代まで安心して暮らせる環境づくりのために必要な手段です。

農業の専門家による講義を通じて、SDGsでもっとも重要なのは、人権問題なのだな、と感じたのでした。


2022/04/25 21:35

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プロフィール

ロシア文学が大好きです。 2012年2月からロシア語を勉強しています。

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