"The Sustainable Development Goals"講義ノート

Week 2:学習教材 要点③
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


3 生物地球化学的フロー

窒素(nitrogen, 以下N)とリン(phosphorus, 以下P)に関する分析。


窒素(N)は必須多量栄養素であり、多くの陸上および水生生態系における植物成長を促す元素である。

人間活動は、化石燃料の使用量の増加、農業や産業による窒素需要の増加、利用効率の低さなどを主な要因として、地球上の窒素循環を大きく変化させてきた (Swaney 2012)。

現在、人為的な窒素供給は、すべての自然な陸上プロセスの合計よりも多くの窒素を地球システムに供給している(Rockström 2009a, Canfield 2010)。

過剰な窒素は土壌や大気の汚染を引き起こし、生物多様性の損失を早め、沿岸の海域や流域を汚染し(Howarth 2011, Swaney 2012)、対流圏のN2Oや活性窒素ガスのレベルを上昇させる(Robertson and Vitousek 2009) 。


Steffenら(2015)は、de Vriesら(2013)の分析に基づいて、水生生態系の富栄養化を回避するための窒素に関する惑星限界(PB)を、産業および意図的な生物学的窒素固定から62 Tg N yr-1と提案した。

Steffenら(2015)によれば、窒素のPBをすでに越えている地域は、特に北米、欧州、南アジア、中国である。


Fixen and West(2002)によると、農業における窒素肥料の使用量は、1960 年から 2000年の間に約800% 増加した。

Bouwman ら(2009)は、農業への総窒素投入量を 249 Mt N yr-1 と見積もっている。世界の人為的窒素使用量(187 Mt N yr-1)に占める農業の割合は86.1%と推定されている(Galloway 2008)。


いくつかの研究で、作物における窒素の利用効率が低いことも明らかにされた。

作物に施された窒素の約半分しか植物に取り込まれず、残りは溶出(16%)、土壌侵食(15%)、ガス放出(14%)によって失われてしまう(Liu 2010, Bodirsky 2012)。

Robertson and Vitousek(2009)によれば、輪作、作物の窒素要求量・時期・配置の予測の改善、および窒素の損失を回収する戦略のすべては現実に可能な手段であり、それによって窒素の損失を大幅に削減し、窒素の過剰供給を回避することができる。



ほとんどの農業生産は、肥料や堆肥からのリン酸塩(PO43-)の形でリン(P)に依存しており、土壌を改良し、作物の収穫時に除去されたものを補充している(Cordell and White 2013)。

人間活動は、農業用のリン酸肥料を生産するためにリン鉱石を採掘することによって、惑星のリン循環を大きく変化させてきた

リン循環は自然プロセスの2~3倍に加速され(Smil 2000)、意図した農業生産の増加に加えて、淡水および河口域システムの富栄養化(Diaz and Rosenberg 2008)につながっている。


Steffenら(2015)は、Carpenter and Bennett(2011)の分析に基づいて、海洋生物の過去の大量絶滅を説明する可能性のある大規模な海洋無酸素現象を避けるために、淡水系から海洋へ流れるリンのPBを11 Tg P yr-1に設定している (Handoh and Lenton 2003)。

淡水の富栄養化を防ぐために地域的なPBが設定されており、窒素と同様に、特定の地域でリンに関するPBがすでに越えられている。


Smil(2000)によれば、世界のリン酸塩生産量の90%(年間約148 Mt)が農業用肥料に使用されている。

さらに最近の研究では、採掘されたリン鉱石の96%が肥料生産に使われ(人為的な総生産量23.5 Mt yr-1のうち22.6 Mt yr-1)、そのほぼすべてが陸上土壌に加えられている(Carpenter and Bennett 2011)。


人口増加と食生活の変化に伴う世界的な食糧需要の増加により、リンの需要は2050年までに50~100%増加する可能性があり(Cordell and White 2013)、すでに超えているリンのPBに対する農業の影響はさらに大きくなるだろう。


リンのPBを越えないためには、新しいリン酸塩の使用を減らすことが必要である。

そのためには、農地土壌のリン酸塩収支のバランスをとることと、堆肥、人糞、食物残渣からの再利用リン酸塩の使用を増やし、新たに採掘するリン鉱石への依存を減らすことである。

この種の堆肥の流出は、よりよい耕作方法、水辺のバッファーの設置と維持、湿地帯の復元によって最小限に抑えることが可能である。

最後に、貯蔵中または市販後の食品廃棄物を減らし、そもそもリン酸塩を生産する必要がないようにすることは、緊急の課題である。




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【メモ】

N2O=亜酸化窒素:二酸化炭素の約300倍の温室効果があり、オゾン層破壊物質でもある(日本の独立行政法人農業環境技術研究所による定義)


Reactive nitrogen=活性窒素(反応性窒素):生育を促進する様々な窒素化合物の総称。大気中の窒素酸化物(NOx)、水に溶け込んでいるアンモニア(NH3)、亜酸化窒素(N2O)、硝酸塩(NO3-)などが代表的。


【疑問】

窒素のPBは年間62Tg、リンのPBは年間11Tgと設定されていますが、このTgとはどのような単位なのでしょうか?

熱重量測定におけるthermogravimetry(TG)なのではないか、と思いますが確信が持てません。


【所感】

1906年ドイツで、工業的な窒素固定であるハーバー・ボッシュ法が確立されました。

ハーバー・ボッシュ法は、20世紀の人口の爆発的な増加を支えましたが、過剰な反応性窒素が土壌や湖沼の富栄養化を引き起こし、オゾン層破壊の原因となり、全地球規模の温室効果をもたらしました。

反応性窒素は、アントロポセン(人新世)を象徴する物質と言えます。

さまざまな問題を引き起こすと分かっていても、人類が反応性窒素を手離すのは化石燃料以上に難しいのです。

反応性窒素はただ減らせばよいのではなく、どこにどう使うのかが重要であると思いました。


2022/05/28 10:52

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