"The Sustainable Development Goals"講義ノート

Week 2:学習教材 要点⑩
Agriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) 


結論

9つの惑星限界(PB)のうち、5つは高リスクまたはリスク増加のゾーンにあり、そのうち4つの主要な推進力は農業である。残りの1つについても農業は重要な推進要因となっている。

現在は安全圏にあるPBでも、農業は重要な推進要因となっている。

農業がPBに与える影響を軽減するためには、生産のあらゆる側面に数多くの変更を加え、景観レベルの管理にもっと注意を払い、より広範な食糧システムのあらゆる側面に変更を加えて、システムを根本的に変革する以外にないだろう(Beddington et al.2012, Ingram and Porter 2015)。

これは、農業生産から加工、物流、小売、消費に至るまで、すべての食品システム活動がPBに影響を与えるためである(Ingram 2011)。


人類は、世界で10億人が十分なカロリーを摂取できず(FAO 2014)、20億人以上が十分な栄養素を欠いているという問題(WHO and FAO 2014)に対処しなければならないが、同時に世界の別の地域では20億人以上がカロリーを過剰に摂取している事実がある(Ng 2014)。

世界の人口は2050年までに約90億人に達すると予想され、平均的な富の増加によって全体的により多くの食品、特に肉類を消費するようになり、食品の消費パターンが急速に変化している(Kearney 2010)。

PBに関して特に懸念されるのは、過剰消費につながる食生活の変化である。

この不足と過剰消費により、栄養失調のいわゆる「三重苦」が増大しており(IFPRI 2015)、これに対処することが急務となっている。


需要の管理をしながら、より多くの土地を耕作地にする必要がある。

しかし、これは惑星限界(PBs)への影響を軽減するために、慎重に選択・管理する必要がある。

環境、社会、経済的な利益を目的とした土地管理戦略の改善も必要である。

Foley ら(2005)は次のような例を挙げている。

(i) 単位面積、単位肥料投入量、単位水消費量あたりの農業生産量を増やすこと 

(ii) 保水能力、栄養利用可能性、炭素隔離の鍵となる農地の土壌有機物を維持し増やすこと 

(iii) 食料と繊維を提供しながら絶滅危惧種の生息地を維持するアグロフォレストリーの実践 

(iv) 地域の生物多様性と授粉や害虫駆除などの関連生態系サービスを維持すること

例えば、酸性水の流出を防ぐための沿岸植生の利用、マングローブの回復、水辺の緩衝材の確立と維持など、景観レベルの解決策を模索する必要がある。


より少ない燐酸塩の使用に関する選択肢には、糞尿、食品残渣からの再生燐酸塩の使用を増やすことが含まれる。

貯蔵中または市販後の食品廃棄物を減らし、生産量を減らすことが急務である。

肉と乳製品の消費量を減らすことが重要であろう。

メタン排出量の少ない家畜の飼育や、食品加工や貯蔵といったポストファームゲートフードチェーン活動の効率を向上させるための作物の品質改良が含まれる。


まとめると、全体としてよりバランスのとれた消費-生産アプローチが必要である。

全体論的アプローチは、ビジネス・アズ・ユージャルからより持続可能な食糧システムへの移行を円滑にするのに役立つ機会も生み出すはずである(Ingram 2016)。

農業と食料システム全体の改善は、地球の持続可能な発展に向けた重要なステップである。




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【メモ】

“triple burden” of malnutrition 

栄養失調の「三重苦」とは?

(オックスフォード大学環境変化研究所のフードシステムプログラムのリーダー、John Ingramによる解説を参照)


国連食糧農業機関(FAO)による定義では、食料安全保障とは「十分なカロリーと十分な栄養素の両方を利用できること」を意味する。

「十分」とは適切な量を意味する。つまり、少なすぎず多すぎないことを意味する。

1996年の世界食糧サミットで最初に起草された当時は、少なすぎるものだけに重点が置かれていた。

しかし現在では、過剰な消費が世界の大きな課題となっている。


世界の食料安全保障を達成するためには、食料システムに対する圧力を考慮する必要がある。

栄養失調の「三重苦」と呼ばれているものは、次のようなものである。

①人口増加

②食生活の変化

③気候変動や他の環境問題の影響による食料需要の高まり

食料生産を増やすだけでは、三重の課題に対処することはできない。


これまでの開発プログラムはカロリーに重点を置いており、栄養素が不足していることを考慮していない。

世界の栄養失調は、利用可能な食料の不足よりも、カロリーと栄養素の消費パターンに密接に関連している。

手ごろな価格で高エネルギー食品が入手できるようになり、西洋型の食事をしたいという願望が相まって、世界の新興中産階級には食事関連疾患が流行となっている。


肥満は、アメリカなどの先進国では一般的な病気だが、所得が増加し、食生活が変化するにつれて、発展途上国でも肥満率が上昇している。

例えば、中国では食生活の変化によって、2050年までにタンパク質(鶏肉、豚肉、牛肉)輸入量が3500%急増すると予測されている。


過剰消費であると同時に栄養失調である問題に対処するためには、栄養失調の根本原因を見つけるために、消費パターンの変化に焦点をあてる必要がある。

政府には、税金や補助金などを通じて、企業が栄養を改善するためのインセンティブを生み出すことが求められている。

高カロリーかつ低栄養の食事の害を人々に教える教育も必要とされている。


2022/06/10 22:05

Week 2:ディスカッションプロンプト

Week2のディスカッションは「農業と惑星限界」がテーマ。


ディスカッションプロンプト

Can you think of ways to transform the agricultural sector in your country, to help reduce the pressures on Earth’s critical systems – i.e. freshwater use, climate change, biosphere integrity, biogeochemical flows, land-system change? 

(淡水の利用、気候変動、生物圏の保全、生物地球化学の流れ、土地システムの変化など、地球の重要なシステムに対する圧力を軽減するために、あなたの国の農業部門を変革する方法を考えることができるか?)


資料としてAgriculture production as a major driver of the Earth system exceeding planetary boundaries (2017) が提示されている。



わたしの意見としては、次のような内容を書き込みました。


・日本には小規模な稲作農家が多い。

・日本の人口は都市部に集中しており、逆に農村部では人口の減少や高齢化が進んでいる。

・農業の人手不足は深刻な問題である。

・少ない農業従事者で効率的に栽培・作付けを行うために、自動走行トラクターなどの農業用ロボットの開発が進められている。

・e-agricultureの導入により、遠隔地から効率的な水管理を行うことが可能になる。

・農業用ドローンとe-agricultureを組み合わせれば、農薬や肥料の使いすぎを防ぐことができるのではないではないか。

・例えば、稲の生育状況をセンサーで計測し、最適な肥料量を瞬時に算出できれば、環境負荷の低減と収量アップを同時に実現できるだろう。



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【メモ】


e-agriculture、日本では農林水産省が「スマート農業」という呼び方で、農業分野における技術革新を推進しています。

「スマート農業の展開について」(農林水産省、2020)

わたしの意見は、こちらの資料を参考して書いたものです。


これを読んで驚きだったのは、ヤンマーがすでに自動走行トラクターを開発、2018年から販売しているのです!

遠隔操作で無人自動走行するロボットトラクターを使って、耕うん整地を自動化することで、限られた人員でも農地の大規模化が可能になります。


無人草刈りロボットというのも開発されているそうで、2020年以降実用化の見通しだとか。


作物の生長に応じた最適なかん水と施肥を自動供給するシステムは、肥料の過剰による環境汚染を防ぐためにも、ぜひ実用化してほしい技術ですね。


病害虫の発生状況を人工知能を活用した画像診断等をし、被害リスクに応じた対応策を提供するシステムは、農薬の過剰使用による環境汚染の防止に役立ちますよね。

新規就農者であっても、病害虫リスクを最小限に抑えることができるはずです。

ビッグデータを活用することで、熟練農業者の知識や判断を継承することが容易になるのではないか、と期待されますね。


日本の農業は、とにかく高齢化と担い手不足が喫緊の課題なので、農業分野におけるICTやロボット技術の導入は、今後ますます注目されると思います。


2022/07/31 22:40

Week 2:Resilience

Resilience(レジリエンス)

(Katherine Richardson教授の講義要点)


SDGsにさまざまな形で頻繁に登場する言葉が、resilience(レジリエンス)である。

17のSDGsのうち、6つの目標でこの言葉が使われている。


目標1では、貧困層のレジリエンス(回復力)について。

目標2では、レジリエントな農業の実践について。

目標9では、持続可能で回復力のあるインフラについて言及している。

目標11は、災害に強い都市と居住地、弾力性のある建物。

目標13は、気候変動に関連する災害に対する回復力と適応力に焦点をあてている。

目標14は、海洋・沿岸生態系の回復力の強化について。


レジリエンスとは何か、どうすればそれを育むことができるのか、またそれが実際に持続可能な開発とどう関係しているのかを考える必要がある。


持続可能な開発の文脈では、レジリエンスという言葉は「急激な変化や長期的な変化から回復する能力」という意味で使われている。


レジリエンス(回復力)を向上させる一般的な戦略として、多様性の確保と維持、連結性の管理などが挙げられる。

システム内に異なるタイプのメンバー、つまり多様性を持たせることで、レジリエンスを生み出すことができる。


また、学習と実験を促進することでも、レジリエンスを高めることができる。

自分たちが置かれている状況や、それに対処するための選択肢をより多く理解すればするほど、目の前の状況に対処できる可能性は高くなる。

SDGsの目標4にある「質の高い教育の推進」は、実は社会システム全般のレジリエンスを促進するためのツールであると考えることができる。


レジリエンスは、災害リスク軽減や気候変動への適応など、専門的なサブ分野ですでに適用されている概念だ。

レジリエンスという考え方は、突然の変化や急激な変化に直面する社会にとって、特に有効なものとなっている。




専門家インタビュー

Christian Cedervall Lauta

(コペンハーゲン大学法学部の准教授、コペンハーゲン災害研究センター(COPE)を率いている)


Q:レジリエンスについてどのように考えるか?


A:災害研究において、これまで社会の脆弱性に着目してきた時代から、15年前に大きな変化があった。

レジリエンスは「立ち直る力」である。

災害研究において、大きな外圧やショックを受けた後、社会が構造的、地域的、文化的に再起する能力ということだ。

レジリエンスというのはさまざまな意味や解釈があり、そのうち二つが最も重要である。

1つ目は、レジリエンスは現状復帰の能力があるということ。これはレリジエンスに対する保守的な考え方だ。

2つ目は、外圧やショックに耐えるだけでなく、コミュニティの外からやってくる将来のショックに適応する能力があること。回復力だけでなく適応力。



Q:レジリエンスは持続可能性に反するのか?


A:ここ数年、レジリエンスに対する批判が盛んだ。なぜならレリジエンスは、私たちがどのような社会に立ち直りたいのか、という中心的な問いを忘れさせてしまうからだ。

むしろ、「どのように社会を変革して、長期的に悲惨な事態を防ぎ、持続可能な社会を実現するのか」という真の問いを投げかけることになる。

レジリエンスをより適応的なもの、より複雑なもの、より持続可能性の課題と結びついたものとして注目している研究者もいる。

アメリカではハリケーン「サンディ」の後、レジリエンスの大勝利を収めた。

アメリカの東海岸がハリケーンにうまく対処できたのは、レジリエンス(回復力)があったからだが、その後、FEMA(連邦緊急事態管理庁)への資金提供を削減する論拠として利用されてしまった

つまり、新自由主義的な政策に資金を提供するために使われた。

「いいですか、あなた方は今、とても回復力があります。もう国家は必要ない。私たちに何かしてもらう必要はないのです」。

ここ数年の間に、レジリエンスの概念が「誰が災害に対応すべきか」という考え方の大改革に利用されてきた。

レジリエンスの概念を悪用すれば、単に立ち直るだけではなく、将来こうした事態に対処するための責任を、制度から個人に移すことさえありえる。



Q:ハリケーン「サンディ」と「カトリーナ」では同じ国の出来事にもかかわらず、その対応には大きな違いがあった。

このような違いはどのような要因によってもたらされるのか?


A:ハリケーン「カトリーナ」は、国家の脆弱性と失敗を示す恐ろしい例であり、米国の公共システム全体の改革につながった。

カトリーナは現代を象徴する災害であり、国家は当面予測されるような衝撃に対処することができないことを教えてくれた。

災害研究の観点から言うと、災害そのものが自然のプロセスではなく、社会的なプロセスであることは明らかだ。

災害の結果を見てみると、ハリケーン「カトリーナ」の原因は、アメリカ南部に上陸した最悪の熱帯ハリケーンのせいではない。

堤防の建設がひどかったから、管理がひどかったから、アメリカ南部の人種問題があったから、そのコミュニティの一部として腐敗や不平等があったから。

つまり、サンディとカトリーナの大きな違いの一つは、被害を受けた地域である。

これを世界的なレベルにまで拡大すると、どのようなハザードプロファイルであっても、災害は常に地球上で最も脆弱な場所を襲うということが明らかになる。

そのため、長年にわたり、災害研究は、災害に対処するための強固なコミュニティや制度の構築に重点を置いて行われてきた。

そして、こうしたコミュニティを構築する際に、ある程度まではレジリエンスという考え方が非常に有効なのだ。

地元の人々が気候を理解し、自分たちの置かれた状況を理解する能力を強化する必要がある。

しかし、それは問題の一部しか解決していない。なぜなら、もともと自然災害に対して脆弱であった根本的な社会的不平等を変えることができないからである。



Q:SDGsではさまざまな文脈で、レジリエントな建物、レジリエントな生態系、レジリエントな社会と何度も言及している。レジリエンスという言葉は使い古されているのか?


A:レジリエンスはポジティブな流行語であり、災害後に起こった悪いこと、不正行為、災害特有の社会的不公正に焦点を当てるのではなく、笑顔をもたらし、良いストーリーに焦点を当てさせる効果がある。

レリジエンスの概念を多用することに対する批判も出てきている。

SDGsの観点から見たレジリエンスのポジティブな点は、気候変動問題、災害問題、そして持続可能性問題の両方を結びつけていることだ。

つまり、レジリエンスは接着剤なのだ。

学術的な「接着剤」であると同時に、このような世界的な体制、世界的な合意を結びつける「接着剤」でもある。

2015年、我々はパリで協定を結んだ。仙台フレームワークと呼ばれる、災害リスク軽減のための15年間の世界戦略に関する協定も結ばれた。

私の考えでは、これらのことはすべて、一つの大きな世界的な枠組み、一つの世界的な戦略に統合されるべきであり、我々はそれを追求すべき。



Q:SDGsは、これらの異なる条約や協定を統合するための枠組みなのか?


A:災害に関する組織は仙台フレームワークに焦点を合わせている。SDGsは、次の15年後には、このような一貫した世界戦略を始めるきっかけとなる可能性がある。




(Katherine Richardson教授によるまとめ)


SDGsの多くは、社会やインフラのレジリエンス(回復力)を高めることに焦点を当てている。

クリスチャン准教授の意見では、レジリエンスはそれ自体が目標ではなく、むしろレジリエンスは人間の福祉を維持または向上させるための有用なツールを提供することができる。

アジェンダ2030やSDGsで示された社会的ビジョンを達成するためには、食糧生産やエネルギー供給など、人類の最も中心的な活動において大きな変化が必要だ。

レジリエンスとは、衝撃や変化から回復する力、立ち直る力を意味するため、レジリエンス単体では、必ずしも持続可能な発展を促進するものではない。

SDGsが持続可能な開発に大きく貢献するのは、我々が目指すべき方向性を示してくれることだ。

最終的なゴールを知ることは、現在のスタート地点がゴールに到達することに適合しているかどうかを評価するための前提条件となります。

SDGsで示された未来社会のビジョンは、持続可能な発展のために、どのような現在のシステムを抜本的に変革すればよいのかを評価するための有効な基準点となるものである。



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【メモ】


ハリケーン「カトリーナ」

2005年8月下旬にニューオリンズ市とその周辺地域を中心に、死者1800人以上、被害額1250億ドルを記録した、カテゴリー5の大西洋台風。

ニューオーリンズ市周辺の洪水防止システム(堤防)の致命的な工学的欠陥の結果として引き起こされた洪水は、人命損失の大部分をもたらした。

最終的には市の80%が数週間にわたって浸水した。

ハリケーン上陸前に避難していなかった何万人もの人々は、食料、避難所、その他の基本的な必需品をほとんど手に入れることができなかった。

後に、数十年前にこの地域の堤防を設計し建設した米国陸軍工兵隊が、洪水制御システムの故障に責任があると結論付けられたが、連邦裁判所は工兵隊の責任は問わないとの判決を下した。


2022/08/01 21:52

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ロシア文学が大好きです。 2012年2月からロシア語を勉強しています。

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