例えばこんな話。
あるところに、母子家庭の青年がいた。容姿端麗、頭脳明晰、将来有望な青年だった。生まれは恵まれているとは言えなかったが、その人柄も幸いして、充実した日々を送っていた。
そんなある日、母は、再婚したいと一人の男性を彼に紹介した。
彼と母親と男の関係は表面上、うまくいっていた。
男は、彼に、家族になるのだからと、生活費から学費まで母子の出費はすべて負担した。それは小さくはない額だったが、男には負担ではなかった。
そうして、数年がたった。
男の気持ちは徐々に変化していく。好意は、いつか、色を含んで絡みつく。彼もその視線の意味を理解していた。だが、あえてそれには触れず、曖昧なまま、日々を穏やかに、過ぎていった。
ところが、ある日、不可侵の一線を越える。男は、その欲望を伝えてしまった。
青年の心はわからない。生活させてもらっていたという負い目なのか、それとも好奇心か、はたまた、彼のほうにもその気持ちがあったのか。
彼の中にLGBTに偏見はなかったが、自分がそれに該当するとも思えなかった。男は真剣だったが、彼はそうではなかったのだ。
母の再婚相手と関係を持った息子。綱渡りような関係は、ある日あっさり覆った。
青年は、女性を連れてきた。感じの良い、清楚ではあったが、純粋培養の穢れのない危うさがあった。それが、とある高貴な血筋だとわかったのは、テレビでの婚約会見だった。
何も言わず、女性との婚約。それは、男にとってはひどい裏切りに思えた。
男は、胸に渦巻くどす黒い想いをひたすらに鎮めることに必死になった。一度は、心が通い合ったと思った彼の幸福を願うことは吝かではない。
だがしかし、それを、世間と彼の器の小ささは、許さなかった。
いつか、男との関係が公にされるのではないかと恐れたのだ。
とかね(笑)