しわ消して
クレームの電話が来た。
曰く、
「着ようと思ったら、後ろ身頃の八掛の裾にしわが寄ってる。アイロンを乗せても消えない。縫いが悪いんじゃないかと思うんだが、見てほしい」
さて。
これを、入社1年未満のあたしが決めていいのか悪いのか。
例えば、私が縫ったものであれば、写真を撮ってもらうなりして様子を見て、あれやこれやで解決できる。
が、私が縫ったものでもなければ、納品してしばらくたっているものでもある。クレームの様子を見ると1年以上たっていたとしても、しわやらかぶりやらのクレームを受けているようなので、じゃあ、とりあえず見てみるから、クレーム内容を記入して送って。と、以前、こんなこと言われたら、こう対応してね。と、言われたように伝えた。
2週間ほどして、着荷した。
うむ。超急ぐって話だったが、お前んとこで2週間つぶしてどうする。
クレームは上司が見て判断して解決する。
そういわれたので、何も言わずに電話の内容のメモだけを付けて次の工程にまわした。それがクレームの山に埋もれて、また、回ってきた。
その間、また1週間。電話から3週間あれば、とっくに納品出来てんじゃん。ほんと、納期守らねえ奴だな。
「それ、しわ消ししておいて」
ああ、そう。結局、あたしなのね。
見たら、しわは寄ってない。おかしいな。と思って、伝票を見たら、「かぶり直し」。は? しわは?
よくよく見たら、確かに、見てね。と言われたところが変なことになってる。どうやら、生地が詰まって、生地質が変わってしまったので、しわに見えるらしい。
おおぅ。
これ、直そうと思ったら、生地を伸ばさなきゃなんないから、皺消しじゃなくて、かぶり直しだな。
だがしかし。
上司からの命令は皺消し。伝票は、かぶり直し。……。
どうせいっちゅうんじゃ。
結局、いわゆる「しわ」ってやつを消すために、八掛生地を伸ばして、伸ばした分、かぶりを直して、表生地が機械絞りで、全体が絞られてたので、それでなおさらつり合いが狂ってたのを直して、まあ、これで、一晩、押ししといたら直るだろ。
畳んで、押し紙の上に重りを置いて、翌日。
「shiratamaさん、それ皺消しおわってるんですか?」
終わってるが、これがちゃんとできてるかどうかは確認してみないとね。
「あ、ちょっと、最後に確認を」
と、釣ってみて、かぶりの確認をしていたら、つかつかつかつかっ! とやってきて。
「終わってないんですか?」
「あ、いえ、終わってるんですが、ちょっと、確認を」
「わたし、皺消ししてって言いましたよね。かぶり直しは依頼してませんよ」
こいつは馬鹿かと思ったね。
「あ、はい、えーっと」
「しわ消ししたらかぶったんですか?」
「あ、まあ」
「いつ、終わるんですか?」
「鏝があったまったら」
ふんっ、と、頭をそびやかしたまま「畳んだら持ってきてください」といって、立ち去った。
え?
こいつ、伝票見てないのか。
ってか、この状況を見てないのか。それで、クレームの処理とかいうのか。
まじ、離職が決まっててよかった。
これ以上、こいつの横暴に付き合いきれねぇ。