犯人は、お前だ。
直せ。
と、言われて、みたのは、コートの木ボタンが柄が合ってなかった。
おかしい。
木ボタンの柄は、命を懸けて柄を合わせるところだ。
これがずれてるなんて、どう考えてもおかしい。しかも、奴曰く、
「ここは、お客さんが一番こだわってるところだからずらさないでって言ったよね」
言われるまでもねぇ。あたしだって、最後の一筆、一番こだわるところだ。
「柄が合うかどうか、あたしが確認するから、つける前に声かけて」
はあ。
適当な返事をして、さあ、直しましょうかと手をかけたとたん、なんかおかしい。
怒り心頭に発する上司に、今、この瞬間、これ、おかしいですよ。なんて、声をかけちゃったら、自分のミスを人のせいにするのか、バリに、怒られるから言わないけどな、これは、私の手ではない。
誰か、他人の手が入ってる。
そういう意味でいうなら、私のミスではないので、人のせいにします。って、話なんだが。
ああ。と、わかっちゃった。
以前、形見分けでと言って、三日で仕立てた道行コートの、肩裏が交換されてる。裾に身丈を出した筋が残ってる。脇の縫込みの中りがついてる。
明らかに仕立て方が違う。
何かが気になるらしく、ん? とか言いながら、人の縫い目を割ってみてたけど、それは、あたしの手じゃないからな。
そういえば、と、それほど遠くもない記憶を掘り起こしてみたが、解いてたな。このコート。
何してんだって思ったら、そういうことか。
まとめていうと、日限が迫ってきて二進も三進もいかなくなったので、社内で出来そうなあたしに、道行コートを縫わせた。
納品したら、身丈が足らないから、肩裏を交換してくれとクレームが来た。
理由はわからないが、あたしに言えなくて自分で交換した。
納品したら、コートのボタンの柄がずれてるから直して。と、10月納期で来てたのをほったらかして、催促が来たのが12月。
やばい。自分が手を入れたことがばれてしまう。ここは、上司権限を使って、高圧的に押し切ろう。
「shiratamaさん、これ、どういうこと? なんで、ここの柄、ずれてんの? お客さんが一番こだわるところだから、ずらさないでって言ったよね、あたし」
上に戻る。
大体さ、引っ張ったり捻ったり、一番触るところの多い木ボタンを、あんな適当な縫い付け方、するか?
声を大にして言うぞ。
ふざけんな。
人のせいにするな。
日限は守れ。