日々ログ

例えばこんな話・2
 彼女が、他人との違いを自覚したのは、まだ幼いころだ。

 聡い彼女は、周囲の大人の顔も纏う雰囲気も理解していた。自分が、普通の子供と違うことも、ひいては自分の親が、普通ではないことも理解していた。

 ある程度の教育は必要だったが、それ以上は無用だった。彼女は、そういうものだと理解したし、素直に受け入れた。大人にとって、即ち、母親にとって、さぞや都合のいい子供だったことだろう。

 心に一滴の墨が落ちたのは、やはり、思春期だった。

 進路の先の未来を語る友人たちに眩しさを感じながら、自分に輝きがないことすらも、理解してしまった。自分には引かれた轍を忠実に進む車輪しかない。


 「親友」という言葉が、中二病的意味を含んで、瑞々しい関係だったはずが、いつか、独特の甘さを持った感情に変わった。それに気づいた瞬間、失恋を悟った。

 「親友」は同性だった。

 そのことをうまく隠して、穏やかな微笑みを湛え続けた。特に、両親には知られるわけにはいかなかった。

 彼女は、当然進むだろうと思われていた進路を変更した。「親友」と同じ道を歩みながら、心を隠して生きていくことは、とても耐えられそうになかった。それほどに、彼女は精神的に純粋培養されていたのだ。


 学生生活は、穏やかに順調に淡々と過ぎる。

 ある時、一人の青年と出会う。


 彼は、多くの学友と同じぐらいに彼女のことを知っていた。

 あらゆる事象にきっかけがあるように、彼との関係の変化も小さなきっかけだった。彼の境遇を知り、彼女のココロを少しずつ伝えた。

 彼は、嫌みなくらい好青年だったが、彼女に見せる顔は少し違った。それを彼女は好ましく思った。押しつけがましくない好意は、しかし、恋愛とは違った。あえて言うなら、それは、「同志」としての「同情」。


 ある時、彼はこういった。

「あなたを助けたい。あなたの境遇から、あなたを助けたい。あなたの心から、あなたを助けたい」

 彼女は、あきらめを含んで訪ねた。

「どうやって?」

「結婚しよう。籍を抜けば、あなたの家族とその境遇から抜け出せる。そのあとに、海外に移住すれば、自由が手に入る」

「あなたのことは好きだが、あなたに愛はない。それはあなたに対して申し訳がない。できない。あなたの人生を犠牲にはとてもできない」

 彼女は涙を浮かべながら、また、己の人生をあきらめた。だが、彼はあきらめなかった。彼女の純真と「親友」の心を知っていたから。

「これは、契約結婚だ。愛はなくていい。僕と君のすべてを切り捨てて、僕らは自由になるんだ。一人の人間になれるんだ。そのための契約だ。君は頭がいい。契約の意味は理解できるね。少なくとも、僕は君が好きだし、君も僕を嫌ってはいないと自惚れているんだ。愛はなくても生活をシェア出来ると思わないか? 少しの勇気と、大いなる行動力があれば、僕らはもっと幸せになれる。がんばってみないか?」


 彼らは、3年の月日をかけて、その計画を成就させた。

 今日、希望だけを手に多くを捨てて旅立つことになる。





 なんてね。


 家を出る際に、普通、父親よりも母親と別れの言葉が長くなると思うんだが、母親との挨拶は一言のみ。もしかして、前の晩に語り明かしたのかもしれないが、なんとなく、母親との関係はあんまりよくないのかな。って思った。

 その分、妹とのハグは、なんとなく泣けた。妹が母親の出先機関になりがちだけど、妹は妹できちんと自分の立ち位置を固めているようで。

 お姉ちゃんが、理想の娘として育ったんだろうけど、結局、両親の意思を理解したのは妹のほうだったという感じ。


 会見で「愛しています」と、若君は全世界に公言したが、天邪鬼なワタクシは、一気に幻滅。

 そういう大事な言葉は、本人にのみ、言ってやれよ。


 いずれにしても、どうか、お幸せに。もし、傷つけたやつらに復讐したいと思うなら、そいつらが妬むような幸せを手に入れればよいのです。捨てたものすべてに誇れるように、幸せになってほしいです。



2021/10/30 08:56

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