フルーチェの悲劇
フルーチェとは。
牛乳と混ぜるだけで出来上がる、簡単、ヨーグルト風おやつのこと。
私がまだ、ぴちぴちの幼児園児だったころ。
斜め前にあった、私立幼稚園には、お金持ちのご子息ご令嬢が通園なさっていた立派な園舎があったが、ワタクシの通う幼児園は、保育園と幼稚園を足して二で割った保育がされていた。幼稚園では、0歳児は預からないが、幼児園では預かるのだ。保育園では基本、教育はされないが、幼児園では教育もされる。
幼稚園でもなく、保育園でもない施設を、「幼児園」と呼んでいた。よって、幼児園の記載に間違いはない。でも、もしかして、字が違うかも。
ま、そこは、あまり重要なところではない。むしろ、どうでもよい。
話を戻すと、母親の職先の奥さんには、近い年頃の子供たちがいて、かわいがってもらった。ある日、園が早くに終わったので、母の職先でしばらく遊んでいたら、奥さんが、おやつに呼んでくれたのだ。その時出てきたのが、オレンジ味のフルーチェ。
こんな、見たこともないキラキラした食べ物が、あったのか! と、ほぉ~っとなったが、食べてびっくり。
ワタクシたち兄弟は、貧しかったのもあって、加工食品など食べたことがなかった。たまに、叔母が、ほんの、たま~に、数年に一回ぐらい、ほんとに稀な頻度で、プリンを買ってくれたが、それが美味だった!! マジ、こんなうまいものは食べたことがないというくらい、プッチンプリンは美味かった。
未だに、プッチンプリンは、私のスイーツランキングでは堂々の一位に輝いている。
という思い出が記憶に染みついていたので、そのつもりで食べてしまったのだ。
プリンとヨーグルト風味というのは、全く持って相いれない味である。
もちろん、プリンを思い描いてフルーチェを食べたので、そりゃあ、もう。
まずぅ。
なんじゃこりゃぁ。
だが、優しい奥さんの手前、まずいという顔はできない。しかし、一介の幼児である。演技だってうまくはない。
真顔で食べきりました。
時は経って、いろんな味を覚え、加工食品も大好きな今、フルーチェはお手軽おやつと成り下がった。あの時、あんまりおいしくなかった柑橘味が、今は、一番おいしいと思える。
と、ここまでが、前置き。いつも関係ない話が長いが、ここからが本題。
実家から、コメと一緒にたまに入ってくるのがこのフルーチェ。今回は、イチゴ味とブルーベリー味があった。ちょっと悩んで、イチゴ味を手に取り、タッパーにあけた。
パウチというのは、中身が残らない構造にはなっているのだが、そうはいっても、やっぱりちょっとは残る。これを絞り切ろうとした貧乏性が仇になった。
いつもは、乾燥してつるつるの指先が、滑ってほしいときには滑ってくれない。うっかり、目測と力加減を誤って、絞りだしていたほうの手が外れ、勢い余った拳が、何のためらいもなく、フルーチェを開けたタッパーに直撃。飛んで行ったタッパーは、正面の壁に激突した後、その真下にあったシンクに落下した。もちろん、中身は、残らなかった。
しばらく、壁を滴り落ちるフルーチェの残骸とイチゴの実を見てたけど、何事もなかったかのように片づけた。
おお、フルーチェ。どうしてお前はフルーチェなんだ。プリンだったらこんなことにならずに済んだのに。