『ブックガイド』に1冊追加
『【ブックガイド】人生は、断片的なものでできている』に、
アティーク・ラヒーミー『悲しみを聴く石』を追加しました。
「本で世界とつながろう」と題した章の最後に追加しています。
アティーク・ラヒーミーはアフガニスタン出身の作家で、『悲しみを聴く石』はゴンクール賞受賞作です。
ミステリ仕立てということもあり、ネタバレなしで3000字以内でご紹介していますので、どんな結末を迎えるのか、ぜひ実際にお手に取ってみてほしい1冊です。
わたしが本書を最初に読んだのは、2012年9月の読書会でした。
今回、久しぶりに読み返してみて、男性作家と言われなければ分からないほど、女性心理を見事に描いていると思いました。
ソ連によるアフガニスタン侵攻は、1978年に勃発して1992年までつづきました。
作者がフランスに亡命したのは1984年、この戦争に真っ只中に当たります。(兵役義務を拒否するためだったそうです)
9日間かけて徒歩で国境を越えてパキスタンに入り、そこからフランスに亡命したのだとか。
作中に描かれている戦争は、作者が体験した戦争(ソ連対ムジャーヒディーンの戦争)をイメージしているでしょう。
そして、「女」の家に押し入る兵士たちというのは、服装や台詞から「ムジャーヒディーン」(のちの「ターリバーン」になっていく男たち)だと思われます。
しかし、本書が発表された2008年当時は、アメリカによるアフガニスタン侵攻の真っ最中でした。
アメリカによるアフガニスタン侵攻は、2001年から2021年までつづきましたね。
誰と誰が戦っているかは微妙に違いますが、戦いの構図自体はほぼ同じ(外部勢力が圧倒的戦力で攻めてきて内部勢力がゲリラ戦を戦う)なので、本書を読んでいると、違和感なく「現在の戦争」(アメリカ&連合国対ターリバーン政権の戦争)だと思えるのです。
これは作者が、具体名を一切出さずにその場の雰囲気だけで、読者に想像させていく表現力のなせる業だと思います。
とは言え、80年代をイメージして書いた(であろう)作品が2000年代に読んでも「現在」のこととして通じるというのは、良いのか悪いのか……
そう言えば、『シャーロック・ホームズ』のワトソン医師は、第二次アフガニスタン戦争で負傷して帰還した従軍医師という設定でした。
BBCが現代を舞台に翻案したドラマ「シャーロック」を見たとき、ワトソンは原作と全く同じく、アフガニスタン帰還兵という設定でしたね。
19世紀末に書かれた人物設定が、そのまま21世紀に通用するというのもおどろきです。
どれだけ戦争がつづいている地域なのだとあらためて思いました。