ヨハンナ・シュピリ『ハイジ』
NOVEL DAYSで連載中の『聖書と文学 ~名作で読む聖書の世界』に、ヨハンナ・シュピリの『ハイジ』を二話に分けて追加しました。
お時間のございます時にお読みいただけましたら、さいわいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
ヨハンナ・シュピリの『ハイジ』については、だいぶ前になりますが読書ブログにも記事(2013年5月27日付)があります。
ブログで書いた時は、角川文庫版の『アルプスの少女ハイジ』から引用していました。
それが最近、古典新訳文庫から新しい訳が出ていることに気づき、「100分de名著」にも取り上げられていたみたいで、今回あらためて読み直し、NOVEL DAYSの記事を書きました。
古典新訳文庫で『ハイジ』を読み返してみて、1章から14章までの本編(本来はそこで完結)の「放蕩息子のたとえ」のモチーフの使い方が見事で、最初から最後まで緻密に配置された完成度の高い作品だなと感じました。
作者の本編の力の入れ具合と比べると、続編はさらっと流して書いた印象です。
大人になって読むと、ハイジの祖父の教育ネグレクトはかなり問題だと思います。祖父がハイジ本人のためを思ってやっている風に装っているところが、より悪質だと思うのです。
一方、ハイジ自身は虐待を受けている自覚がないので、せっかく教育を受けられる環境に連れ出してもらえたのに、おじいちゃんのもとへ帰りたいと泣くんですよね。難しい問題だなぁと思うわけです。
『ハイジ』の話から逸れますが、現代の、それも先進国であっても、教育ネグレクトの家庭で育つ子供は実在するというのを教えてくれるのが、タラ・ウェストーバーの『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』(ハヤカワ文庫、2023年)というノンフィクションです。
著者であるタラ・ウェストーバーは、1986年にアイダホ州で生まれましたが、彼女には出生証明書はなく、学校に通うこともなく、家族という小さな共同体に「幽閉」されて育った女性です。
彼女の父親はモルモン教の信徒でかつ、「サバイバリスト」と呼ばれる狂信的な陰謀論者だったそうです。
世界はイルミナティという闇の組織が支配していて、そこから逃れる必要があるという妄想に凝り固まっているため、国家による洗脳を避けるために子供たちを学校に行かせない。
彼女の母親はそういう夫の妄想に深く感化されていて、彼女の兄も両親から受けた思想教育に洗脳された状態だったという……。
似たような考え方の男性が、名匠タルコフスキー監督の映画『ノスタルジア』にも登場したのを思い出しました。
世界の終末が訪れると本気で信じ込み、家族を七年にわたって幽閉した男。
その男は大音量で第九が流れるなか焼身自殺をするので、その場面だけがトラウマ的に記憶に残る映画です。