日々ログ

表現の自主規制の話
noteに掲載された南ノさんの新作書評「ファンタジーとしての市川沙央「ハンチバック」——第128回文學界新人賞受賞作を読む」を拝読して、ちょっと驚いたことがあったので忘れないうちに書いておきます。


わたしはこの小説『ハンチバック』を未読なので、驚いたのは作品の内容に対してではなく、「ハンチバック」というタイトルで出版できたことです。


hunchback せむしの人


という英単語をカタカナ語にしたタイトルだと思われます。

何が驚きかと言うと、hunchback(せむし)という言葉は、表現の自主規制(放送禁止用語)として日本国内で長年タブーとされてきた言葉だからです。


有名なディズニー映画の"The Hunchback of Notre Dame"(ノートルダムのせむし男)は、邦題が「ノートルダムの鐘」とされ、劇中に登場するタイトルロゴも日本公開版のみ"THE BELLS OF NOTRE DAME"と変更されたという歴史があります。


映画"The Hunchback of Notre Dame"は、その後にブロードウェイで舞台化され、日本では劇団四季が定期的に公演する人気の演目となっています。

もちろん劇団四季の舞台のタイトルも「ノートルダムの鐘」です。


原題のhunchback(せむし男)というのは物語の主人公で、醜い外見で生まれたせいで不遇な人生を強いられてきたが、心優しい青年という、いかにもディズニーらしいお話です。


ディズニー映画は世界中で公開されていますが、「せむし男」という言葉をタイトルから消したのは、日本公開版だけなのだそうです。

日本をのぞいた他の国々の観客は、せむし男が登場したら、「タイトル・ロール(主人公)だ!」と一瞬で理解できますが、日本の観客の場合はタイトルが「鐘」ですので、教会の鐘がテーマの物語だと誤解してしまいますよね。


ちなみに、映画"The Hunchback of Notre Dame"(邦題「ノートルダムの鐘」)には基となった作品があります。

それは、『レ・ミゼラブル』で有名なユゴーが書いた"Notre-Dame de Paris"(パリのノートルダム)という小説です。

映画(舞台も含む)のあらすじは小説から大幅に改変しているので、原作とは言い難く、この小説を下敷きとした二次創作と言った方が正しい気がします。

もちろん、ユゴーが書いた小説においても「せむし男」は主要登場人物の一人です。



そういう背景が、『ハンチバック』という小説のタイトルを見た時にバーッと頭に流れてですね、二度見するほど驚いたというわけです。

邦題のみならず、ディズニーに劇中のロゴまで変えさせて、hunchbackという単語をなかったことにしたのだから、90年代の日本国内ではよほど忌避されていた言葉なのだろうと想像します。

しかし、現代では小説のタイトルとして出版できるほど、表現の自主規制がゆるやかになったということなのでしょうか?

ポリコレポリコレと言われて、むしろ90年代当時よりも最近の方が言葉に対して敏感な社会になっている気がするのですが……。


出版業界と放送業界では文化が違うかもしれないので、たとえば『ハンチバック』が実写ドラマ化するとなったとき、放送コードに抵触するからと、ドラマのタイトルは原作者の意図しないタイトルに改変されてしまうのではないかな、などど考えてしまったのでした。



2023/06/04 22:39

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ロシア文学が大好きです。 2012年2月からロシア語を勉強しています。

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