『林檎が丘読書クラブ』更新しました
NOVEL DAYSで連載中の
『林檎が丘読書クラブ』を更新しました。
今回の課題図書は、ヤスミナ・カドラ『テロル』です。
『テロル』編は全5話で完結、おまけとして次回予告が1話あります。
昨年10月7日のハマースによるテロ事件があって、今回の本が選ばれました。
前回の『真夜中の子供たち』はあらすじを追うだけで大変な長編でしたが、今回の本は長さがちょうど良かったので、より深い分かち合いができたように思います。
本書を未読であっても、議論の内容がわかるよう、本文の引用やあらすじの解説をできるだけ多く入れてみました。(既読の人にはちょっとくどいかも)
中立であるよう心がけたつもりですが、上手く伝わればよいのですが……
皆さまにとってパレスチナとイスラエルを身近に感じる一助になれば、幸いです。
ここからはあとがきというか余談です。
出版社のミルトスから「謹呈」と書かれた封筒が届いてですね。
開けてみると、ミルトス社の隔月雑誌『みるとす』2023年12月号が入っていました。
10月7日から始まったガザ・イスラエル戦争の具体的かつ専門的な分析・解説が寄稿されており、とても勉強させてもらいました。
ありがたく無料で読ませてもらいましたが、年間購読すると3600円だそうです。
出版社もふだんはこんな風に無料で配ったりしないでしょうけど、イスラエルの立場からすると日本は偏向報道なので、被害の実態をもっと知ってほしいという切実な思いがあるのでしょう。
ガザ地区に関するニュース映像は刺激が強すぎて、意識して視聴しないようにしていましたが、文字情報として読んでも、やはりショックが強いですね。
みるとす誌で佐藤優さんがこう書いていました。
「ハマスのテロはユダヤ人であるというだけの理由で殺害を認める属性排除の論理に基づくものです。ハマスはナチスと同じ発想をし、行動しているのです」
なぜテロリストは生まれたばかりの乳児まで平気で殺害できるのか、わたしには理解できませんでしたが、「属性排除の論理」という分析に腑に落ちる思いがしました。
ハマースは「イスラエル殲滅」を公式に掲げる組織です。
サイードやアモス・オズはユダヤ国家とパレスチナ国家の共存の道を模索していましたが、ハマースは「共存」を目指してない。現にそこに暮らしているユダヤ人を皆殺しにしたいと思っているわけです。今回のテロで、ハマースはイスラエル国籍を持つアラブ人たちも「裏切り者」として殺害しています。
自分たちの生存権を認めず、ナチスと同じ論理で行動するハマースと、イスラエルが「共存できない」と考えるのも当然のことだと思いました。
昨年末に、パレスチナ・オリーブさんが発行する機関誌「ぜいとぅーん」第75号(2023年12月15日発行)が届きました。
こちらでは、10月7日以降のパレスチナ側の状況が詳しく書かれていて、読んでいて悲しい気持ちになりました。
わたしは学生の頃からパレスチナ・オリーブ代表の皆川万葉さんの活動を応援しているのですが、皆川さんのルポを読んで思うのは、「共存」を願っている人々は必ずいるということです。
パレスチナ・オリーブさんが取引している「ガリラヤのシンディアナ」は、アラブ・パレスチナ女性とユダヤ女性がともに運営しています。地道な活動を三十年続けている団体です。
ハマースが目立ちすぎているせいで、全パレスチナ人がユダヤ人絶滅をのぞんでいるかのように見えてしまいますが、決してそうではないということです。
そうは言っても、イスラエル領内でのユダヤ人によるパレスチナ人に対するヘイトクライムは頻発しているし、イスラエル企業によるパレスチナ人労働者の解雇も急増しているそうです。
いくら「共存」をのぞむ人々が地道な活動をしても、こういう平和な運動は暴力に弱く、憎悪が憎悪を生むのだと思い知らされ、無力感しかないです。