「美しの神の伝え」萩尾望都
『ショートショートドロップス』という短編集のなかに萩尾望都さんの『子供の時間』という作品があり、それがとても印象に残って、萩尾さんのほかの小説も読んでみたいと思い、取り寄せました。
いや、うん、えらいものを読んでしまった。
そのひとことに尽きます。
最初に収録されているのが表題作『美しの神の伝え』。この作品だけ長いです。物語の世界に入り込んでいたので読んでいる最中は気づきませんでしたが、この作品単体で薄めの文庫本1冊ぶんくらいあります。
ほかはすべて短編で、うち漫画が2作品。
どの物語も一行めから、すぐにその世界に導かれます。すごい。
なかでも『守人たち』という短編がわたしはいちばん好きです。こちらはコメディで、ほかの作品とはだいぶ毛色が異なりますが、めちゃくちゃ笑いました。
新薬師寺の薬師如来が行方不明になり、たまたまそこに拝観に訪れた主人公が如来の不在というありえない事態に愕然としていると、「兄さん、これにはわけがおまんのや」と十二神将が語りかけてくるというお話。
途方に暮れる十二神将たちに活を入れ、行方不明の薬師如来の捜索をする羽目になった主人公。その珍道中もおもしろおかしくて笑いっぱなしでした。
平然とタクシーを呼び止める十二神将。
あたりまえのように応対する運転手。
乗車拒否とかしないの!?いいの!?
このお話ほんと好き。
しっかりオチまでついています。
うつくしく繊細でありながらも骨太な独特の世界観がこの1冊で堪能できます。