日々ログ

日本語の発音の話—「好き」はなぜ「月」になるか?
昨日の中国語についての駄文に、お二人からお褒めの言葉をちょうだいし、元々お調子者の南ノは、更に調子に乗ってしまい、今日は日本語の発音に関するお話を書かせていただくことにしました。(以前、雑談的に話したら、【一部で】けっこう面白がってもらえたネタなのです)


もうかなり前ですが、『聲の形』というアニメ映画を観ました。その中で、主人公の、先天的に聴覚障害のある女の子が、好きな男の子に自分の声で告白するシーンが、とても印象的でした。女の子は勇気を振り絞って「好き!」と言ったつもりなのに、男の子には「」と聴こえてしまうのです。

このシーンは音声学的に正確で、よく調べられていると思いました。


なぜ、「好き」が「月」になってしまったのでしょうか?


この答えを考える前に、ちょっと視点を変えてみたいと思います。


もし外国人から、「日本人は相手の名前の後に『~さん』を付けたり、『~ちゃん』を付けたりするが、両者の違いは何か?」と訊ねられたら、どう答えればいいでしょうか。


音声学的に正しい答えは――「さん」と「ちゃん」は同じ言葉だが、「ちゃん」は「さん」の幼児発音である、ということになります。


発声器官の未熟な幼児は「さん(SAN)」の「s」の音が発音できないため、「ch」で代替します。だから、「ちゃん(CHAN)」になるのです。


私たちは赤ちゃんやモフモフに対して、「かわいいでちゅ(CHU)ね~‼」と話しかけたりすることがありますが、これはわざと発声器官の未熟な幼児のまねをしていることになります。


ところが、もっと幼い子供になると、「ch」の発音もできません。「ch」ができない幼児は何の音で代替するかと言うと、「t」の音なのです。


小さい子が「わたしは三歳(SANSAI)です」と言おうとして、「わたは、い(TANTAI)です」と言ってしまったり、「お父さん」が「おとーん」みたいな発音になってしまうのが、この例になります。

ネットで、愛称として「~たん」と「たん付け」で呼んだりするのは、発声器官の非常に未熟な幼児のまねをしていることになります。


ここで話は『聲の形』に戻ります。

主人公の女の子は先天的に聴覚障害だったため、「s」の発音ができず、「t」の音で代用しました。ですから、「好き(SUKI)」が「月(TUKI)」になってしまったのです。


ハンディキャップを抱えた主人公が、なんとか自分の「声」で思いを伝えようとしたのに、結果として誤解されてしまう……。非常に残酷ですが、日本語において「サ行」の発音が難しいという音声学的事実に基づいた、見事なシーンだと思いました。


……という雑談でした(*^^*)

2023/01/31 22:27

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