冒頭部からの抜粋を先に提示。
『自由ではないのは金だけで、他はすべて自由だったあの時代の「あそこ」にいたおれ。
他はすべて自由であっても、金だけは不自由だったために、金の自由のためには他の自由を犠牲にしてもいいなどというたわけたことさえ考えていたあの時代の、「あそこ」にいたおれ。
情報による呪縛、時間による束縛、空間による圧迫、そんなものとは縁がなく、軽やかに泥水はねとばし、清々しく煤煙を呼吸し、馬鹿空と腐れ大地の間を飛翔していたあの時代の、「あそこ」にいたおれはいったいどこへ行ってしまったのだろうか?。
明らかに、現在おれのいる場所は、以前おれがいた場所ではなく、現在おれとともに流れ続けているこの時間は、以前のおれが身を委ねていたあの時間とはどこかで隔絶した別の時間なのだ。つまりここは、おれが以前いたところではない別の世界である。それは、はっきりしている。しかしそれが、別の天体なのか、別の宇宙なのか、別の次元なのか、いまだに判然としないのである。』