"間違えてる"か？

……ま、間違ってるっス！

間違えてるだとか、間違えてないとか、そんな基準は誰が決めて、正解は誰が導く？

それは……常識、とか、倫理とか道徳とか……

たわけたこと抜かしてんじゃねえぞ。お前の仕事はなんだ？

対象を狩ること、陥れること、敵対組織を制圧することだ

こんな業界にいて、弱者を喰らって生きてる時点で、常識も倫理も道徳もねえよ

履き違えるんじゃねえ。俺達はな、そんなお綺麗なもんを語っちゃあいけねえんだ

……お前、あれと変わってやれって言われたら、変われるのか？喜んで痛みを引き受けると言えるか？助けるためなら命を差し出せると？

……言え、ま、せん……

なら助けるだとか、助けろだとか言う資格はねえよ。痛みを肩代わりする覚悟もねえのに、好き勝手喚くな、クソガキが

感情論で美徳を吐くな。目の前の物事に流されて、理想論ばかり並べるな

うすら寒いヒロイズムを振りかざしたいんなら他所でやりな。できねえからって人に押し付けるんじゃあねえぜ

カーネ！てめえ何回呼ばせりゃ気が済むんだこの駄犬が！！

ひっ、す、すいませんリーダー！

まあまあ……。まだ入って一週間だし、馴染んでないのも無理ないって

ちっ……。お前が甘すぎんだよコルニクス。いざって時に呼ばれて"わかりませんでした"が通らねえから怒ってんだろうが

すいません……。あの、リーダー……お、オレになにか用っすか……？

ああ……。仕事だ

誰が俺がやるって言った？お前がやるんだよ

おおおおオレがっすかァ！？

馬鹿野郎声がでけえ！ ……何を驚くことがある。お前の所属は暗殺報復専門のチーム"ベスティア"だ。いつまでもお綺麗なままで過ごせると思ったのかよ

いや、そ、それはそ、うっすけど……！無理です！無理無理！

聞き分けのねえ駄犬が……

ひっ……！

よく聞きな。お前はもう1匹の犬になったんだ。ただの獣だ。お偉い人間様じゃあねえんだよ。できるできないの話じゃない。やれと言われたらやれ

どうしてもできねえってんなら……俺がその喉笛噛みちぎるまでだ

いいか、狙うはひとつ。首筋、もとい頚椎

首ってのは頑丈な骨と十を超える筋肉に守られてる。"断ち切る"のは容易じゃない。だが骨と骨の隙間に狙いを定めて一点を突けば……貫くのは容易い

あ、あの……も、モルトバールさんって目が見え、ないんスよね！？

見えねえよ

で、でも、オレらと大して変わらないスピードで路地裏走って来てるッスよ！？

"視えてる"んだと

この世の全ての物質は陽の光を反射し、光彩がそれを受け取ることで人はその形を認識している。境界線なんかはねえ。俺らみたいな健常者はあると思いがちだが――この世は光と影でのみ、形成されている。俺たちはその反射、光と影を見て生活してる

……リーダー、オレ馬鹿なんで、わかりやすく言ってもらわねえとわかんねっス

……つまり、あいつは光を認識できないかわりに、影を認識することで周りを視てるってことだよ。この世に影がない物質なんか存在しねえからな

あいつには視覚が――死角がないのさ

でもこんな見通しのいい道で事故なんて起こるっスか？

馬鹿が。見通しがいいからこそ事故を起こすんだ

……へ？なんでですか？