怖い話をしよう

その7です。

自分の話じゃありませんので、前のものより短いです。

過酷な生き様をたどった経営者から直接聞いた話です。この男、人様に誇れないような実に悪辣な商売をしており、頭の先からつま先までリアリズムに満ちた男です。理屈で説明できないことは絶対受け入れないタイプです。

たまたまこの男に、ぼくの先の体験談を話す機会があったんですよ。
そしたら案の定興味なさげな顔で、でも笑い飛ばしもせず、「ふーん」という感じでした。まぁぼくは(経営者としては)かなり生真面目な人間なんで(※自称です)、つまらん冗談や世辞は言わないことは理解していたでしょう。
でもぼくは、この男が笑い飛ばさなかったのが意外で、「もしかして社長も何か体験したことあんの?」くらいの話を返したように記憶してます。

その男が語ったところによると……
「一度だけ、生霊を見たことがあるかもしれん」

さらに突っ込んでみたんですよ、「どんな生霊だったんだ?」と。そりゃ聞くでしょう。

さらに男が続けます。
「一人暮らしだったときに、自室でシャワーを浴びようとしたんだよ。そして風呂場に行ったら、誰か入ってたんだよな」

今度はぼくが「ふーん」です。で、続けて「誰が入ってたんだ?」と聞いたところ、オウム返しで応じてきます。
「誰が入ってたと思う?」

「女とか言ったら俺は帰ろう」みたいなことを言ったと記憶してます。
しばらく沈黙があって、ようやく男が語りだします。
「風呂場のドアを開けたらさ……自分がシャワー浴びてたんだよな。そして、目があいやがったんだよ」
みたいに、他人事みたいに語りました。

ぼく
「つまらない冗談だな」
その男
「冗談だったらしょぼすぎる話だよな」
ぼく
「目があってどうしたんだよ」
その男
「全身が凍り付いたように感じたんだけど、何事もなかったようにドアを閉めて、それから家を飛び出した。神社行ってお祓いをして戻った。別に何ともなかったし、なんか変わったこともなかった」
ぼく
「それだけ?」
その男
「それだけだ。幻じゃなかったな」

ぼくも特に驚かず、「そういうこともあるのか」くらいの受け止め方でした。
正直、こうした話を他人から聞いても、半信半疑なのは拭い去れないものですね。しかしこの男は、ぼくから見ても異様に生命力に満ちているような恐るべき野郎だったので、わからなくもないような気もしました。
最後までそっけない会話でした。


以下まとめると……

★自分の実体験については当たり前だけどちゃんと確認している。

★人様のこうした話は、どんな真面目な顔をした会話であっても、話半分程度にしか受け止められない。

★リアルな実体験を得ていない人にこうした事柄を語っても、「ちょっと怪しい人」だと思われがち。妙な実体験を経ているぼくでさえ、他人のこうした話はまともに受け入れられない部分もある。ただ、完全否定するつもりはなくなっているのも確か。

★時間を空けた今だからわかるのは、この相手の男も、ぼくの話を同じように受け止めていて、話半分だけれども完全否定でもなく、「そんなこともあるよね」「そういうパターンもあるのか」くらいの受け止め方だったのではないか。

2017/06/30 21:11

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プロフィール

佐々木禎子(ささき ていこ)
作家。
札幌出身・東京と札幌を行ったり来たりしています。
1992年雑誌JUNE「野菜畑で会うならば」でデビュー。

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