湖畔で読書 Impression of a book

『手塚治虫の旧約聖書物語 全3巻』(集英社)


最近、教文館からDVDボックスが出て再注目されている同名アニメを、マンガ仕立てにしている本。アニメの画像をコマ割りに落としこんで、吹き出しでセリフを入れているアニメマンガです。狂言回しのように登場するロコという名のキツネ(オリジナルキャラクター)もかわいいし、旧約聖書の世界がよくわかって面白かったです。

アニメのほうは、手塚治虫先生が生前最後に制作総指揮を行った遺作ともいえる作品だそう。RAI(イタリア放送協会)とNTV(日本テレビ)の製作で、イタリアでも放送されたようですね。すごい!

DVDで全編を観るのはたいへん、という人には、こちらのマンガ版がおすすめです。

2019/02/28 22:25

レベッカ・ブラウン『家庭の医学』(朝日新聞社)


病で死にゆく母親に寄り添い、看取るまでの日々をつづったノンフィクションのような小説。淡々としているけれど、随所にレベッカ・ブラウンらしい視点が光っていて、素敵でした。

2019/02/20 19:50

藤原カムイ『旧約聖書 -創世記ー』(ぶんか社/白泉社)


創世記の天地創造からノアの箱舟、バベルの塔、アブラムのエジプト滞在などをマンガで描いた作品。私はぶんか社のコミックスⅠ、Ⅱ巻で読みましたが、白泉社で文庫になっているのですね。絵が美しく、内容も大人向け。読み応えがあり、とても面白かったです。クリスチャンにも、ノンクリスチャンにもおすすめ!

2019/02/16 16:47

レベッカ・ブラウン『体の贈り物』(マガジンハウス)


エイズ患者の自宅へ行って、身のまわりの世話をする仕事をしている主人公の物語。ひとりひとりとの印象的で美しい、ときには切ないエピソードが、鮮やかに語られる短篇集です。どの物語も、とてもきれい。レベッカ・ブラウンの大ファンになりました。

2019/01/20 21:09

高田宏『エッセーの書き方』(講談社現代新書)


1984年に上梓された本ですが、いま読んでも心に沁みます。著者がエッセー教室で教えた内容を、語り口調で書き起こして1冊にまとめたもの。

冒頭近くにこんな文章があります。


「また、もしエッセイストという呼び名が、身辺雑記をただなんとなく書き散らす人とか、重い事柄を避けてちょっとしたことを器用に軽妙に読ませる人とかに与えられるものだとしたら、そういう呼び名はごめんこうむりたいものです。私は器用な人間になりたいとは思っていません。いわゆる不器用な生き方の人にこそ私は敬意をはらい畏れを感じてきましたし、私自身、不器用であることをひそかに誇りとし、不器用のままで生きぬいてみようと思っています。」


生前お世話になった著者を思い出し、「高田先生らしいなあ」と、うれしくなりました。先生とはもう今生ではお会いできませんが、書かれたものを読むたびに教わることがあり、感謝しています。

2018/12/15 16:00

レフ・トルストイ『愛あるところ神あり』(未知谷)


最近になって、トルストイがたくさん民話を書いていることを知りました。本書もそれらの作品を集めた本のひとつです。レフ・トルストイといえば『戦争と平和』などが有名ですが、信仰的な内容の民話も秀逸です。本書はショートショートのような非常に短い作品も多数収録していて、読みやすく、気軽に手に取れる一冊です。翻訳は、ふみ子・デイヴィス、絵はトルストイの子孫の一人であるナターリャ・トルスタヤ。素朴で温かみのある挿絵が物語をより深く味わわせてくれます。

2018/11/11 15:27

トルストイ民話集『人は何によって生きているか』(女子パウロ会)


『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』で知られるロシア文学の巨匠トルストイは、信仰的な民話も多数、残しています。本書は「愛のあるところに 神はまします」「人間には多くの土地が入用か」「ろうそく」「人は何によって生きているか」の4篇を収録。どれも教訓的な物語ですが、私にはそれが心地よいです。近年は、娯楽として面白い、あるいは商業的に売れる小説がよいとされる傾向が強く、残念に思います。せっかく人生の時間を使って本を読むのですから、私は本書のように魂の栄養になる作品を読みたい。トルストイの民話をもっと読んでみようと思いました。

2018/11/02 12:27

鈴木文治『ホームレス障害者 彼らを路上に追いやるもの』(日本評論社)


著者は半生を障害児教育に捧げてきた教育者であり、日本基督教団の牧師でもあります(中央大学法学部と立教大学文学部を卒業)。日本では、ホームレスとなっている人びとの3割以上が障害者で、とくに知的障害があるため社会から排除され、自力ではどうにもできない人が少なくないという現実に、本書を読んで気づかされました。著者のいる教会ではホームレスの人たちを迎え入れ、支援しながら、仲間として共に生きることを実践し、またそのあり方を模索しています。教会に通うホームレスの人たちの個々の事情が仮名で語られているのですが、どの人の物語にも胸を打たれます。

2018/10/21 15:11

ケント・M・キース『それでもなお、人を愛しなさい』(早川書房)


著者が半世紀ほど前に、自分よりわずかに若い下級生たちに向けて書いた「逆説の10カ条」が、本人も知らないうちに人から人へ伝えられ、やがてマザー・テレサのもとへ届き、彼女の活動のスタッフが施設の壁に書いていたのを、めぐりめぐって著者本人が知り――というエピソードを読むだけでも、本書のメッセージが宿している真実の強さを知ることができます。本書に出合ったとき、ちょうど私はへこたれそうになっていたのですが、この10カ条に励まされ、勇気をもらいました。

2018/10/12 19:05

ル・クレジオ『向う側への旅』(新潮社)


「新潮・現代世界の文学」というシリーズの一冊として、1979年に出版された本ですが、すでにamazonにも新品はないようですし、もう古書でしか手に入らないかもしれません。ノーベル文学賞作家であるル・クレジオの作品のなかで、いちばん好きなものをあげるとしたら、私はこれです(まだすべての作品を読破したわけではないので、今後変わるかもしれませんが……)。

不思議な少女ナジャナジャと仲間たちの不思議な旅の物語です。大好きな箇所を引用します。

「君は地上にいてひとりぼっちで寒い。夜は長い、元気をだし給え! 元気さえ出せば、星にまで行けるだろう。」

この部分を読んだ当時、どれだけ励まされたことか。そしていまでも励まされます。

小さな紙に書き写して、手帳に挟んで持ち歩いています。

2018/09/18 18:22

三浦綾子『一日の苦労は、その日だけで十分です』(小学館)


著者は『氷点』で有名なプロテスタント作家。北海道の旭川に暮らし、病にあっても夫と二人三脚で執筆活動を続けました。本書は、来年の没後20年を前に出版された著者最後のエッセイ集です。まだこんなに単行本未収録のエッセイがあったのかと驚きつつ、珠玉の言葉の一つ一つが胸に沁みます。まさに著者はエッセイの名手。そして、時が経っても色あせない内容に、信仰の深さを思わされます。

2018/09/02 17:27

丹羽文雄『小説作法』(講談社学芸文庫)


後進を多く育てた明治生まれの作家・丹羽文雄が、自身の小説執筆のプロセスや技巧を開示してくれた指南書。これまでに、小説の書き方の本はいろいろ読みましたが、私には本書が最もよかったです。とくに第一章の小説覚書。実際に発表した作品の執筆前の覚書(メモ)を掲載してくださっていて、参考になりました。私の場合は小説でやりたいことがはっきりあるので、もう新人賞の通り方のようなハウツウ本にはあまり興味がありません。自分の書きたいことを、小説という方法の中でどのように組み立てれば過不足なく伝えられるか、表現のヒントをたくさんもらえて本書はとてもありがたかったです。

2018/08/26 20:56

ジョン・アーヴィング『ピギー・スニードを救う話』(新潮文庫)


大好きなアーヴィングの貴重な短篇集です。映画の『ホテル・ニューハンプシャー』に魅了され、原作を読んだのがアーヴィングとの出合いでした。『カープの世界』『オウエンのために祈りを』など、独特な世界観の長編で知られる作家です。この短篇集は、単行本もあるようですが、私は2007年に文庫が出てすぐ読み、いまあらためて、味わいながら読み返しています。最後の「小説の王様」に深く賛同。アーヴィングがディケンズ愛を語りながら、自身の小説論を展開します。私もディケンズが好きなので、あちこち同意しながら、勇気をもらいました。執筆当時の出版界(アーヴィングが見ている世界だから、英語圏中心)への指摘の部分は、現在の日本にも当てはまる点があるように思います。

※リンクを貼ろうと思い、新潮社のサイトを検索しましたが、ヒットしませんでした。

2018/07/24 19:19

来住英俊『キリスト教は役に立つか』(新潮選書)

かねてから、信徒が信仰するキリスト教と、非信徒が知っていると思っているキリスト教は、本質的に乖離していると感じていました。その溝を、丁寧に埋めてくれる名著です。著者は東大法学部卒の神父。文章は知的で、かつ、平易なので、幅広い読者におすすめできます。私は5~6年前からこういう本を作りたくて、いくつかの出版社に企画を持ち込みましたが、宗教の話にフラットに応じられる編集者はたいへん少ないと感じました。その意味で、この本を実現させた新潮社の担当編集者は、市場のニーズを的確に把握して出版ビジネスを実行できる優れた人だと思いました。

2018/06/27 12:29

レイ・ブラッドベリ『万華鏡』(創元SF文庫)

ブラッドベリが自ら選んだ26編を、新訳で収めた短篇集。万華鏡、霧笛、刺青の男などの名作短篇のほか、私の大好きな連作長篇『たんぽぽのお酒』からも4話が収録されています。まさか、たんぽぽのお酒を新訳で読める日が来るなんて! 1篇読むごとに、やっぱりブラッドベリの世界は素敵だなぁとうれしくなってきます。

調べると、『華氏451度』も近年新訳で出版されており、また『火星年代記』は作者による序文等が追加された新版が出ている模様。どちらも読みたい! と、この夏はブラッドベリ熱が再燃しています。

2018/06/19 13:01

高田宏『北国のこころ』(NHK出版)

自らを「雪国人」と呼ぶ作家の高田宏が、好きな作家や詩人(みな北国のこころを表現している)を一人ずつ取り上げ、作品紹介をまじえて語る随筆集。島崎藤村、石川啄木、宮澤賢治、太宰治などの、知られざる一面を鮮やかに切り取り、作品を深く掘り下げています。何より素敵なのは、上品で、知的で、わかりやすい、高田先生の文章です。高田先生は作家になる前は編集者でした。書き手として素晴らしいだけでなく、優れた編集者だったのだろうと思います。私は縁あって、高田先生に、たまに書き上げた作品を読んでいただいていました。先生はいつも励ましてくださり、それが支えになって、私は書き続けてくることができました。すでに亡くなられ、もう地上では会えないけれど、先生の文章はいまも多くのことを学ばせてくれ、導いてくれると感じます。

2018/05/30 17:46

竹野一雄『想像力の巨匠たち 文学とキリスト教』(彩流社)

Ⅰ文学と教義、Ⅱ作家・作品論の2部構成で、文学とキリスト教の関係を論じています。Ⅱで言及する作家は、グレアム・グリーン、C・S・ルイス、ジョージ・マクドナルド、チャールズ・ウィリアムズ。引用されている作品をいろいろ読みたくなりました。

2018/04/30 14:28

内村鑑三『一日一生 [新版]』(教文館)

1日1話ずつ読める、366話形式の本。月日ごとに聖句があり、それに関する内村鑑三の考察を、著作から抜き出して紹介しています。現代語に改められており、読みやすいのがうれしいです。私は仕事机に常備して、基本は毎日1話、忙しいときはあとで数日分まとめて読むスタイルです。2年目に入りましたが、飽きることがありません。

2018/04/15 13:37

プロフィール

文筆家。北海道大学農学部卒。月刊誌編集長を経てフリーに。2009年プロテスタント受洗。真帆沁での作品発表のほか本名の後藤しんこで編集・執筆・校閲歴30年超。近年はWEB媒体のアドバイザリーのお仕...

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