2020年、プロジェクトは始動した。
二重人格者を対象にした深層構築だ。すなわちどちらが主でどちらが属になるかの社会実験の一環。
その中で、世界を牛耳る大企業のトップが暴走した。二重人格の片側に犯罪者としての芽を植えつけたのだ。
犠牲者は当時7歳だった少年。企業のトップ、アカザワはギラついた眼で少年を見守った。
犯罪者の芽が息吹くことを期待して。しかし、少年が選んだ道は情報屋としての道だった。
同じ裏街道には違いない。しかし殺し屋と情報屋では極めて別種だ。アカザワは苦悩した。そして決断した。
少年にひたすら情報を食わせるのだ。いずれ訪れる"その時"のために。彼は情報屋として一定の地位を築いた。
数多の裏世界の住人が彼の情報に集まる。だが、いつまで経っても"その時"は訪れなかった。
さらに情報を流れ続ける。歴史上最強最悪の殺し屋が闇に隠れている、と。もちろん少年の"第二人格"の暗示。
その情報に裏世界の住人は戸惑いながらも、最終的に嘘の情報だと判断を下した。
アカザワは苦悩した。そして決断した。少年の最も大切なモノを壊すことを決断した。
現役最強と謳われる殺し屋"神威"に素性を隠してコンタクトを取り、殺しを依頼した。
彼は完璧に仕事をやってのけた。アカザワの依頼通り、少年の友人の頭部意外を粉々にして殺した。
そして少年は覚醒した。少年の第二人格が覚醒した。情報を食べ続け世界の全てを知った人格が。
少年、いや、"カナデ"は神威と対峙する。神威は崇敬の念を抱く。その禍々しくも神々しい姿に。
カナデの武器は鉄槌。神威の武器は二丁拳銃。数秒後、決着は訪れる。頭部が砕け散る音とともに神威は倒れた。
2030年、少年はアカザワグループの総本山を襲撃する。
少年にはもはや情報屋としてのひょうきんな面はない。完全にカナデと入れ替わったのだ。
警備員、ボディガード、ヤクザ、その他ビルに存在したあらゆる生命体はその生を終えた。
最上階、唯一残った元凶、アカザワの部屋の扉をカナデは開く。彼はとうとうと語る。
そしてアカザワは死んだ。自分が育て上げた究極の殺し屋に鉄塊をぶち込まれて死んだ。
その後、少年の行方は杳として知れない……