種なしスイカは種がないのにどうやって出来るのかを君に教えてあげよう。
仕事が終わり、スーパーで買い物をしていると、幼い子供の声が耳に飛び込んできた。
「ねえママ、種なしスイカは種がないのにどうやって生えてくるのー?」
種なしスイカが『生えてくる』ものだと思っているいとけない子供に私は真実を告げたくなる。幼い耳朶に流し込むにはあまりにも残酷な真実を。
「坊や、種なしスイカはね、スイカおじさんが悶絶しながらお尻の穴からスイカを捻り出してできるのだよ」
スイカおじさんが血まみれになりながらお尻の穴からスイカを捻り出す光景は凄絶だ。
『アーーーーーーーーッ!!!
助けてくれ!!!
痛い!!
痛い!!!
いやだああああああああああああああアーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!』
この絶叫が私の眠りを脅かすようになって久しい。
広さにして三畳程度の真っ白い出産房の、壁といわず床といわず血で汚れた拳と踵が打ち付けられ、手足を固定するベルトは不安になるほどギイギイ軋む。同じ絶叫と物音が両隣、そのまた隣、更に隣の房からも聞こえ、出産を終えたところから静かになっていく。
やがて叫ぶのを終え、カッと見開いた虚ろな目で荒い呼吸を繰り返すスイカおじさんを、控えていた産業医と看護師たちが慣れた手つきで担架に乗せて運び去る。
後に血みどろのスイカが残り、それを水色の防護服に身を包んだスタッフが淡々と回収し品証室に運んでくる。
そのスイカを品質検査するのが私の仕事である。